「こころ」1-47 夏目漱石
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | どんぐり | 5547 | A | 6.0 | 92.2% | 354.2 | 2144 | 179 | 42 | 2024/11/02 |
2 | ぽむぽむ | 5133 | B+ | 5.4 | 95.1% | 400.5 | 2166 | 110 | 42 | 2024/10/18 |
3 | mame | 4995 | B | 5.2 | 95.4% | 407.0 | 2135 | 102 | 42 | 2024/11/10 |
4 | ぶす | 4329 | C+ | 4.6 | 93.3% | 456.2 | 2127 | 152 | 42 | 2024/10/15 |
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問題文
(いぬとこどもがさったあと、ひろいわかばのえんはふたたびもとのしずかさにかえった。)
犬と子供が去ったあと、広い若葉の園は再び故の静かさに帰った。
(そうしてわれわれはちんもくにとざされたひとのようにしばらくうごかずにいた。)
そうして我々は沈黙に鎖された人のようにしばらく動かずにいた。
(うるわしいそらのいろがそのときしだいにひかりをうしなってきた。)
うるわしい空の色がその時次第に光を失って来た。
(めのまえにあるきはたいがいかえでであったが、そのえだにしたたるようにふいた)
眼の前にある樹は大概楓であったが、その枝に滴るように吹いた
(かるいみどりのわかばが、だんだんくらくなっていくようにおもわれた。)
軽い緑の若葉が、段々暗くなって行くように思われた。
(とおいおうらいをにぐるまをひいていくひびきがごろごろときこえた。)
遠い往来を荷車を引いて行く響きがごろごろと聞こえた。
(わたくしはそれをむらのおとこがうえきかなにかをのせてえんにちへでもでかけるものとそうぞうした。)
私はそれを村の男が植木か何かを載せて縁日へでも出掛けるものと想像した。
(せんせいはそのおとをきくと、きゅうにめいそうからいきをふきかえしたひとのように)
先生はその音を聞くと、急に瞑想から呼吸を吹き返した人のように
(たちあがった。)
立ち上った。
(「もう、そろそろかえりましょう。だいぶひがながくなったようだが、)
「もう、そろそろ帰りましょう。大分日が永くなったようだが、
(やっぱりこうあんかんとしているうちには、いつのまにかくれていくんだね」)
やっぱりこう安閑としているうちには、いつの間にか暮れて行くんだね」
(せんせいのせなかには、さっきえんだいのうえにあおむきにねたあとがいっぱいついていた。)
先生の背中には、さっき縁台の上に仰向きに寝た痕がいっぱい着いていた。
(わたくしはりょうてでそれをはらいおとした。)
私は両手でそれを払い落とした。
(「ありがとう。やにがこびりついてやしませんか」)
「ありがとう。脂がこびり着いてやしませんか」
(「このはおりはついこないだこしらえたばかりなんだよ。)
「この羽織はつい此間拵えたばかりなんだよ。
(だからむやみによごしてかえると、さいにしかられるからね。ありがとう」)
だからむやみに汚して帰ると、妻に叱られるからね。有難う」
(ふたりはまただらだらざかのとちゅうにあるうちのまえへきた。)
二人はまただらだら坂の途中にある家の前へ来た。
(はいるときにはだれもいるけしきのみえなかったえんに、おかみさんが、)
はいる時には誰もいる気色の見えなかった縁に、お上さんが、
(じゅうご、ろくのむすめをあいてに、いとまきへいとをまきつけていた。)
十五、六の娘を相手に、糸巻へ糸を巻きつけていた。
(ふたりはおおきなきんぎょばちのよこから、)
二人は大きな金魚鉢の横から、
(「どうもおじゃまをしました」とあいさつした。)
「どうもお邪魔をしました」と挨拶した。
(おかみさんは)
お上さんは
(「いいえおかまいもうしもいたしませんで」とれいをかえしたあと、)
「いいえお構い申しも致しませんで」と礼を返した後、
(さっきこどもにやったはくどうのれいをのべた。)
先刻子供にやった白銅の礼を述べた。
(かどぐちをでてに、さんちょうきたとき、わたくしはついにせんせいにむかってくちをきった。)
門口を出て二、三町来た時、私はついに先生に向かって口を切った。
(「さきほどせんせいのいわれた、にんげんはだれでもいざというまぎわに)
「さきほど先生のいわれた、人間は誰でもいざという間際に
(あくにんになるんだといういみですね。あれはどういういみですか」)
悪人になるんだという意味ですね。あれはどういう意味ですか」
(「いみといって、ふかいいみもありません。)
「意味といって、深い意味もありません。
(ーーつまりじじつなんですよ。りくつじゃないんだ」)
ーーつまり事実なんですよ。理屈じゃないんだ」
(「じじつでさしつかえありませんが、わたくしのうかがいたいのは、いざというまぎわという)
「事実で差支えありませんが、私の伺いたいのは、いざという間際という
(いみなんです。いったいどんなばあいをさすのですか」)
意味なんです。一体どんな場合を指すのですか」
(せんせいはわらいだした。あたかもじきのすぎたいま、)
先生は笑い出した。あたかも時機の過ぎた今、
(もうねっしんにせつめいするはりあいがないといったふうに。)
もう熱心に説明する張合いがないといった風に。
(「かねさきみ。かねをみると、どんなくんしでもすぐあくにんになるのさ」)
「金さ君。金を見ると、どんな君子でもすぐ悪人になるのさ」
(わたくしにはせんせいのへんじがあまりにへいぼんすぎてつまらなかった。)
私には先生の返事があまりに平凡過ぎて詰らなかった。
(せんせいがちょうしにのらないごとく、わたくしもひょうしぬけのきみであった。)
先生が調子に乗らないごとく、私も拍子抜けの気味であった。
(わたくしはすましてさっさとあるきだした。いきおいせんせいはすこしおくれがちになった。)
私は澄ましてさっさと歩きだした。いきおい先生は少し後れがちになった。
(せんせいはあとから「おいおい」とこえをかけた。)
先生はあとから「おいおい」と声を掛けた。
(「そらみたまえ」)
「そら見たまえ」
(「なにをですか」)
「何をですか」
(「きみのきぶんだって、わたしのへんじひとつですぐかわるじゃないか」)
「君の気分だって、私の返事一つですぐ変るじゃないか」
(まちあわせるためにふりむいてたちとどまったわたくしのかおをみて、せんせいはこういった。)
待ち合わせるために振り向いて立ち留まった私の顔を見て、先生はこういった。