「こころ」1-50 夏目漱石

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(上)先生と私
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 どんぐり 5909 A+ 6.3 93.3% 245.7 1564 112 30 2024/11/02
2 たれ 5669 A 5.9 95.9% 274.8 1626 68 30 2024/10/16
3 mame 5284 B++ 5.5 95.0% 279.5 1559 82 30 2024/11/10
4 ぶす 4536 C++ 4.9 91.7% 311.5 1552 139 30 2024/10/29

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問題文

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(わたくしはしそうじょうのもんだいについて、おおいなるりえきをせんせいからうけたことをじはくする。)

私は思想上の問題について、大いなる利益を先生から受けた事を自白する。

(しかしおなじもんだいについて、りえきをうけようとしても、うけられないことが)

しかし同じ問題について、利益を受けようとしても、受けられない事が

(ままあったといわなければならない。)

間々あったといわなければならない。

(せんせいのだんわはときとしてふとくようりょうにおわった。)

先生の談話は時として不得要領に終った。

(そのひふたりのあいだにおこったこうがいのだんわも、このふとくようりょうのいちれいとして)

その日二人の間に起った郊外の談話も、この不得要領の一例として

(わたくしのむねのうちにのこった。)

私の胸の裏に残った。

(ぶえんりょなわたくしは、あるときついにそれをせんせいのまえにうちあけた。)

無遠慮な私は、ある時ついにそれを先生の前に打ち明けた。

(せんせいはわらっていた。わたくしはこういった。)

先生は笑っていた。私はこういった。

(「あたまがにぶくてようりょうをえないのはかまいませんが、ちゃんとわかってるくせに、)

「頭が鈍くて要領を得ないのは構いませんが、ちゃんと解ってるくせに、

(はっきりいってくれないのはこまります」)

はっきりいってくれないのは困ります」

(「わたしはなんにもかくしてやしません」)

「私は何にも隠してやしません」

(「かくしていらっしゃいます」)

「隠していらっしゃいます」

(「あなたはわたしのしそうとかいけんとかいうものと、わたしのかことを、)

「あなたは私の思想とか意見とかいうものと、私の過去とを、

(ごちゃごちゃにかんがえているんじゃありませんか。わたしはひんじゃくなしそうかです)

ごちゃごちゃに考えているんじゃありませんか。私は貧弱な思想家です

(けれども、じぶんのあたまでまとめあげたかんがえをむやみにひとにかくしやしません。)

けれども、自分の頭で纏め上げた考えをむやみに人に隠しやしません。

(かくすひつようがないんだから。けれどもわたしのかこをことごとくあなたのまえに)

隠す必要がないんだから。けれども私の過去を悉くあなたの前に

(ものがたらなくではならないとなると、それはまたべつもんだいになります」)

物語らなくではならないとなると、それはまた別問題になります」

(「べつもんだいとおもわれません。せんせいのかこがうみだしたしそうだから、)

「別問題と思われません。先生の過去が生み出した思想だから、

(わたくしはおもきをおくのです。ふたつのものをきりはなしたら、わたくしにはほとんど)

私は重きを置くのです。二つのものを切り離したら、私にはほとんど

(かちのないものになります。わたくしはたましいのふきこまれていないにんぎょうをあたえられた)

価値のないものになります。私は魂の吹き込まれていない人形を与えられた

など

(だけで、まんぞくはできないのです」)

だけで、満足はできないのです」

(せんせいはあきれたといったふうに、わたくしのかおをみた。)

先生はあきれたといった風に、私の顔を見た。

(まきたばこをもっていたそのてがすこしふるえた。)

巻煙草を持っていたその手が少し震えた。

(「あなたはだいたんだ」)

「あなたは大胆だ」

(「ただまじめなんです。まじめにじんせいからきょうくんをうけたいのです」)

「ただ真面目なんです。真面目に人生から教訓を受けたいのです」

(「わたしのかこをあばいてもですか」)

「私の過去を訐いてもですか」

(あばくということばが、とつぜんおそろしいひびきをもって、わたくしのみみをうった。)

訐くという言葉が、突然恐ろしい響きをもって、私の耳を打った。

(わたくしはいまわたくしのまえにすわっているのが、ひとりのざいにんであって、)

私は今私の前に坐っているのが、一人の罪人であって、

(ふだんからそんけいしているせんせいでないようなきがした。)

不断から尊敬している先生でないような気がした。

(せんせいのかおはあおかった。)

先生の顔は蒼かった。

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夏目漱石

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