半七捕物帳 槍突き11

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問題文
(こころなしをつかうなとことわざにもいうじゅうがつのなかのとおかのみじかいひはあわただしく)
四 心無しを使うなと俚諺にもいう十月の中十日の短い日はあわただしく
(くれて、しちべえがおかねばあやのきゅうじでゆうめしをくってしまったころには、)
暮れて、七兵衛がお兼ばあやの給仕で夕飯をくってしまった頃には、
(おもてはすっかりくらくなった。ほんじょへでていったさんにんはまだかえってこなかった。)
表はすっかり暗くなった。本所へ出て行った三人はまだ帰って来なかった。
(あいてがるすなのではりこんでいるのだろうとおもっていたが、あまりおそいので)
相手が留守なので張り込んでいるのだろうと思っていたが、あまり遅いので
(しちべえもすこしふあんになった。どんなようすかみとどけにいってこようかと)
七兵衛も少し不安になった。どんな様子か見とどけに行って来ようかと
(みじたくをしてかどをでるところへ、いつものかんじがからてできた。)
身支度をして門を出るところへ、いつもの勘次が空手で来た。
(「おやぶん。もうしわけがありません。とみのやろうがじびょうのせんきで、こんやはどうしても)
「親分。申し訳がありません。富の野郎が持病の疝気で、今夜はどうしても
(うごけねえというんですが・・・・・・」)
動けねえと云うんですが……」
(「それでおまえひとりででてきたのか。しょうじきなおとこだな。じつはこれからほんじょまで)
「それでお前ひとりで出て来たのか。正直な男だな。実はこれから本所まで
(ごようでいくんだから、こんやはおまえにようはなさそうだが、まあそこまでいっしょに)
御用で行くんだから、今夜はお前に用はなさそうだが、まあそこまで一緒に
(つきあってくれ、とちゅうでまたどんなほりだしものがねえともいえねえ」)
附き合ってくれ、途中で又どんな掘出し物がねえとも云えねえ」
(「あい、おともします」)
「あい、お供します」
(にょうぼうのしりにしかれているらしいおとこだけに、いくじはないがしょうじきですなおなかれを、)
女房の尻に敷かれているらしい男だけに、意気地はないが正直で素直な彼を、
(しちべえはかわいくおもった。ふたりははなしながらりょうごくのほうへあるいてゆくと、)
七兵衛は可愛く思った。ふたりは話しながら両国の方へ歩いてゆくと、
(ながいはしのまんなかまできかかったときに、あたまのうえをかりがないてとおった。)
長い橋のまん中まで来かかった時に、あたまの上を雁が鳴いて通った。
(「だんだんにさむくなりますね」)
「だんだんに寒くなりますね」
(「むむ、これからつくばおろしでこのはしはわたりきれねえ」と、しちべえは)
「むむ、これから筑波颪でこの橋は渡り切れねえ」と、七兵衛は
(うすあかるいみずのうえをながめながらいった。「もうじきにしらうおのかがりがしもてのほうに)
うす明るい水の上を眺めながら云った。「もうじきに白魚の篝が下流の方に
(みえるじせつだ。ことしもちっとになったな」)
みえる時節だ。今年もちっとになったな」
(こういっているかれのたもとをかんじはそっとひいた。しちべえがかれのゆびさすほうがくに)
こう云っている彼の袂を勘次はそっとひいた。七兵衛がかれの指さす方角に
(めをむけると、ひとりのおんながうつむきがちにあるいていた。)
眼をむけると、ひとりの女がうつむき勝ちに歩いていた。
(「くらまえのばけねこじゃあねえか」と、しちべえはこごえできいた。)
「蔵前の化け猫じゃあねえか」と、七兵衛は小声で訊いた。
(「そうですよ。どうもそうらしいとおもいますよ」と、かんじもささやいた。)
「そうですよ。どうもそうらしいと思いますよ」と、勘次もささやいた。
(「わたくしはしょうばいですから、いちどのせたきゃくはめったにわすれません。このあいだのばん、)
「わたくしは商売ですから、一度乗せた客はめったに忘れません。この間の晩、
(ねこになったのはあのおんなですよ」)
猫になったのはあの女ですよ」
(「おれもそうらしいとおもっている。すこしまってくれ。おれがいってこえを)
「おれもそうらしいと思っている。少し待ってくれ。おれが行って声を
(かけるから」)
かけるから」
(しちべえはひっかえしておんなのあとをつけた。ひろこうじよりのはしばんごやのまえまで)
七兵衛は引っ返して女のあとをつけた。広小路寄りの橋番小屋のまえまで
(いったときに、かれはさきまわりをしておんなのまえにたって、こやのほかげで)
行った時に、かれは先廻りをして女の前に立って、小屋の灯かげで
(ずきんをのぞいた。 「わかせんせい。せんやはしつれいをいたしました」)
頭巾をのぞいた。 「若先生。先夜は失礼をいたしました」
(おんなはちょっとたちどまったが、そのままむごんでゆきすぎようとするのを、)
女はちょっと立ち停まったが、そのまま無言でゆき過ぎようとするのを、
(しちべえはおいすがってまたよんだ。)
七兵衛は追いすがって又呼んだ。