半七捕物帳 津の国屋17

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第16話

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問題文

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(みっかのめみえもとどこおりなくすんで、おかくはつのくにやへいよいよ)

六 三日の目見得もとどこおりなく済んで、お角は津の国屋へいよいよ

(すみこむことになった。おゆきはかしおりをもってもじはるのところへれいにきた。)

住み込むことになった。お雪は菓子折を持って文字春のところへ礼に来た。

(しんざんながらおかくはひどくにょうぼうのきにいっているというはなしをきいて、)

新参ながらお角はひどく女房の気に入っているという話を聞いて、

(もじはるもまずあんしんした。)

文字春もまず安心した。

(おかくもれいにきた。それがえんになって、おかくはつかいにでたついでなどに)

お角も礼に来た。それが縁になって、お角は使に出たついでなどに

(もじはるのところへかおをだした。そうして、やがてひとつきほどもぶじに)

文字春のところへ顔を出した。そうして、やがて一と月ほども無事に

(すぎたときに、おかくはいつものようにたずねてきて、もじはるとなにかのはなしのすえに)

すぎた時に、お角はいつものように尋ねて来て、文字春となにかの話の末に

(こんなことをささやいた。)

こんなことをささやいた。

(「おしょさんにもいろいろごやっかいになったんですが、わたくしはつのくにやに)

「お師匠さんにもいろいろ御厄介になったんですが、わたくしは津の国屋に

(ながくしんぼうできればいいがとおもっていますが・・・・・・」)

長く辛抱できればいいがと思っていますが……」

(「でも、たいへんにおかみさんのきにいってるというじゃありませんか」と、)

「でも、大変におかみさんの気に入ってるというじゃありませんか」と、

(もじはるはふしぎそうにきいた。)

文字春は不思議そうに訊いた。

(「まったくおかみさんはめにかけてくださいますし、おゆきさんもよいひとですから、)

「全くおかみさんは目にかけて下さいますし、お雪さんも善い人ですから、

(なにもふそくはないのでございますが・・・・・・」)

なにも不足はないのでございますが……」

(いいかけてかのじょはくちをつぐんだ。それをおしつめてせんぎすると、つのくにやの)

云いかけて彼女は口をつぐんだ。それを押し詰めて詮議すると、津の国屋の

(にょうぼうおふじはばんとうのきんべえとふぎをはたらいているというのであった。)

女房お藤は番頭の金兵衛と不義を働いているというのであった。

(きんべえはおとこざかりのひとりものであるが、おふじはもうごじゅうをこえている。)

金兵衛は男盛りの独身者であるが、お藤はもう五十を越えている。

(まさかにそんなふらちをはたらくはずもあるまいと、もじはるもはじめはよういに)

まさかにそんな不埒を働く筈もあるまいと、文字春も初めは容易に

(しんようしなかったが、おかくはそのあやしいけいせきをたびたびみとめたというのである。)

信用しなかったが、お角はその怪しい形跡をたびたび認めたというのである。

(どぞうのおくやにかいのひとまへふぎものがそっとつれだってゆくのを、)

土蔵の奥や二階のひと間へ不義者がそっと連れ立ってゆくのを、

など

(じぶんはたしかにみとどけたとかのじょはいった。)

自分はたしかに見とどけたと彼女は云った。

(「しかしそんなことがいつまでもしれずにはおりますまい」と、)

「併しそんなことがいつまでも知れずには居りますまい」と、

(おかくはためいきをついた。「もしなにかのめんどうがおこりましたときに、)

お角は溜息をついた。「もし何かの面倒が起りました時に、

(わたくしがてびきでもいたしたようにおもわれましてはたいへんでございます」)

わたくしが手引きでも致したように思われましては大変でございます」

(しゅじんのにょうぼうとけらいとがみっつうのてびきをしたものが、そのじだいのほうとしては)

主人の女房と家来とが密通の手引きをした者が、その時代の法としては

(しざいである。おかくがつのくにやにほうこうをしているのをおそれるのもむりはなかった。)

死罪である。お角が津の国屋に奉公をしているのを恐れるのも無理はなかった。

(おかくはひまをとれば、それですむが、すまないのはにょうぼうとばんとうとのもんだいで、)

お角は暇をとれば、それで済むが、済まないのは女房と番頭との問題で、

(まんいちそれがほんとうであるとすれば、つのくにやがつぶれるようなおおそうどうがしゅったいするに)

万一それが本当であるとすれば、津の国屋が潰れるような大騒動が出来するに

(そういない。しりょうのたたりよりもこのたたりのほうがてきめんにこわくおもわれて、)

相違ない。死霊の祟りよりもこの祟りの方が覿面に怖く思われて、

(もじはるはまたあおくなった。)

文字春はまた蒼くなった。

(しかしかのじょはまだいちずにおかくのはなしをしんようすることもできないので、そんなことを)

しかし彼女はまだ一途にお角の話を信用することも出来ないので、そんなことを

(うかつにこうがいしてはならぬと、くれぐれもおかくにくちどめをしてかえした。)

迂闊に口外してはならぬと、くれぐれもお角に口止めをして帰した。

(よもやとはおもいながら、もじはるもいくらかのうたがいをいだかないわけには)

よもやとは思いながら、文字春も幾らかの疑いを懐かないわけには

(いかなかった。おゆきはちちがじぶんからすすんでぼだいじへでていったように)

行かなかった。お雪は父が自分から進んで菩提寺へ出て行ったように

(はなしていたが、あるいはにょうぼうとばんとうとなれあいでうまくすすめておいだしたのでは)

話していたが、あるいは女房と番頭と狎れ合いでうまく勧めて追い出したのでは

(あるまいかともうたがわれた。としもごじゅうをこして、ふだんはものがたいようにみえていた)

あるまいかとも疑われた。年も五十を越して、ふだんは物堅いように見えていた

(にょうぼうに、そんなおそろしいまがさすというのも、やはりしりょうのたたりでは)

女房に、そんな恐ろしい魔が魅すというのも、やはり死霊の祟りでは

(あるまいかともおそれられた。)

あるまいかとも恐れられた。

(おやすというおんなのしゅうねんはいろいろのたたりをなして、けっきょく、つのくにやを)

お安という女の執念はいろいろの祟りをなして、結局、津の国屋を

(ほろぼすのではあるまいかともおもわれた。しかしこればかりは、もじはるはだれに)

ほろぼすのではあるまいかとも思われた。併しこればかりは、文字春は誰に

(はなすこともできなかった。おゆきにかまをかけてききだすこともできなかった。)

話すことも出来なかった。お雪にかまをかけて聞き出すことも出来なかった。

(「いくらねがっても、おひまをくださらないのでこまります」)

「いくら願っても、お暇をくださらないので困ります」

(おかくはそののちにもきてもじはるにはなした。このあいだからおひまをねがっているが、)

お角はその後にも来て文字春に話した。この間からお暇を願っているが、

(おかみさんがどうしてもきいてくれない。おきゅうきんがふそくならばのぞみどおりにやる。)

おかみさんがどうしても肯いてくれない。お給金が不足ならば望み通りにやる。

(としのくれにはきものもかってやる。こっちではじゅうぶんにめをかけてやるから、)

年の暮には着物も買ってやる。こっちでは十分に眼をかけてやるから、

(せめてらいねんのあたたかくなるまでしんぼうしてくれといわれるので、こっちもさすがに)

せめて来年の暖くなるまで辛抱してくれと云われるので、こっちもさすがに

(それをふりきってでることもできないのでこまっていると、おかくはしきりに)

それを振り切って出ることも出来ないので困っていると、お角はしきりに

(ぐちをこぼしていた。かれがひまをねがっているのはじじつであるらしく、)

愚痴をこぼしていた。かれが暇を願っているのは事実であるらしく、

(おゆきももじはるのところへきてそんなことをはなした。おかくはいいほうこうにんで)

お雪も文字春のところへ来てそんなことを話した。お角はいい奉公人で

(あるから、なんとかしてひきとめておきたいとおっかさんもふだんから)

あるから、なんとかして引き留めて置きたいと阿母さんもふだんから

(いっていると、かのじょはなんのひみつもしらないようにはなしていた。)

云っていると、彼女はなんの秘密も知らないように話していた。

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