半七捕物帳 槍突き12

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第18話

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問題文

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(「うちだのわかせんせい。あなたもやりつきのごせんぎでございますかえ。とんだごじょうだんを)

「内田の若先生。あなたも槍突きの御詮議でございますかえ。とんだ御冗談を

(なさるので、せけんじゃあみんなばけねこにおびえていますよ」)

なさるので、世間じゃあみんな化け猫におびえていますよ」

(「ほほほほほほ」)

「ほほほほほほ」

(おんなはわらいながらずきんをぬいで、まだまえがみのあるしろいかおをみせた。)

女は笑いながら頭巾をぬいで、まだ前髪のある白い顔をみせた。

(おおがらではあるが、ようようじゅうごろくであろう。かれはめのすずしい、くちもとの)

大柄ではあるが、ようよう十五六であろう。かれは眼の涼しい、口元の

(ひきしまった、みるからやさしげな、しかもりりしいびしょうねんであった。)

引き締まった、見るから優しげな、しかも凜々しい美少年であった。

(「おまえはだれだ。どうしてわたしをしっている」)

「おまえは誰だ。どうして私を識っている」

(「いまうしわかというわかせんせいがりょうごくばしをあるいていらっしゃるのは、ごじょうのはしの)

「今牛若という若先生が両国橋を歩いていらっしゃるのは、五条の橋の

(まちがいじゃあございませんかえ」と、しちべえはわらった。「したやのうちだせんせいの)

間違いじゃあございませんかえ」と、七兵衛は笑った。「下谷の内田先生の

(ごしそくにしゅんのすけさまというかたのあるのはめくらでもしっていましょう。)

御子息に俊之助様という方のあるのは盲でも知っていましょう。

(このあいだのばん、やなぎはらでちょっとおめにかかりましたときに、おてなみは)

このあいだの晩、柳原でちょっとお目にかかりました時に、お手並みは

(すっかりはいけんいたしました。ちょうちんのひでちらりとおみうけもうしたところ、)

すっかり拝見いたしました。提灯の火でちらりとお見受け申したところ、

(みのかまえ、こてさきのはたらき、どうもただのかたではないとぞんじました。)

身のかまえ、小手先の働き、どうも唯の方ではないと存じました。

(ごしゅぎょうかたがたやりつきをごせんさくになるのはけっこうですが、きようにかごぬけをして)

御修行かたがた槍突きを御詮索になるのは結構ですが、器用に駕籠ぬけをして

(みがわりにねこをおいていらっしったりするもんですから、せけんのさわぎは)

身代わりに猫を置いていらっしったりするもんですから、世間の騒ぎは

(いよいよおおきくなってこまります。もうこののちはどうかわるいじょうだんはおみあわせ)

いよいよ大きくなって困ります。もうこの後はどうか悪い冗談はお見合わせ

(ください、おくびょうなやつらはふるえていけませんから」)

ください、臆病な奴らはふるえていけませんから」

(「なにもかもよくしっている」と、しょうねんはわらいだした。「そうして、おまえは)

「何もかもよく知っている」と、少年は笑い出した。「そうして、お前は

(だれだというに・・・・・・」 「ごようききのしちべえでございます」)

誰だというに……」 「御用聞きの七兵衛でございます」

(「ははあ、それではしっているはずだ。おやじのところへもに、さんどたずねて)

「ははあ、それでは知っている筈だ。親父のところへも二、三度たずねて

など

(きたことがあるな」)

来たことがあるな」

(「へえ。このやりつきのいっけんで、おとうさまにもしょうしょうおたずねもうしにでたことが)

「へえ。この槍突きの一件で、お父様にも少々おたずね申しに出たことが

(ございました」)

ございました」

(じょそうのしょうねんはしちべえにみあらわされたとおり、とうじしたやにおおきいまちどうじょうを)

女装の少年は七兵衛に見あらわされた通り、当時下谷に大きい町道場を

(ひらいているけんじゅつしなんうちだでんじゅうろうのむすこであった。このなついらい、かのやりつきの)

ひらいている剣術指南内田伝十郎の息子であった。この夏以来、かの槍突きの

(うわさがさわがしいので、けっきにはやるわかいでしたちのうちには、せけんのため)

噂がさわがしいので、血気にはやる若い弟子たちのうちには、世間のため

(しゅぎょうのために、そのやりつきのくせものをひっとらえようとして、まいばんそこらを)

修行のために、その槍突きの曲者を引っ捕らえようとして、毎晩そこらを

(しのびあるいているものもあった。しゅんのすけはそれがうらやましくなったので、いまうしわかの)

忍び歩いている者もあった。俊之助はそれが羨ましくなったので、今牛若の

(なをとっているかれはちちのゆるしをうけて、これもせんげつのすえごろからしのんででた。)

名を取っている彼は父の許しを受けて、これも先月の末頃から忍んで出た。

(これまでほかのでしたちがいちどもとうのてきにであわないのは、むやみにかたひじを)

これまでほかの弟子たちが一度も当の敵に出逢わないのは、むやみに肩肱を

(いからせてだいどうのまんなかをおしあるいているからである。じぶんはまだまえがみだちの)

怒らせて大道のまん中を押し歩いているからである。自分はまだ前髪立ちの

(しょうねんであるのをさいわいに、おんなにばけててきをつりよせてやろうとかんがえて、しゅんのすけは)

少年であるのを幸いに、女に化けて敵を釣り寄せてやろうと考えて、俊之助は

(あねのいふくをかりてずきんにあたまをつつんだ。そうしてよるにまぎれてしのんででると、)

姉の衣服をかりて頭巾に頭をつつんだ。そうして夜にまぎれて忍んで出ると、

(はたしてこうとくじまえでふいにつきかけられた。むろんにみをかわして)

果たして広徳寺前で不意に突きかけられた。無論に身をかわして

(ひっぱずしたが、あいてはにげあしがはやいので、それをとりおさえることが)

引っぱずしたが、相手は逃げ足が早いので、それを取り押えることが

(できなかった。)

出来なかった。

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