「こころ」1-55 夏目漱石

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(上)先生と私
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ぽむぽむ 5530 A 5.7 95.7% 328.7 1903 85 43 2024/10/21
2 mame 5148 B+ 5.3 96.5% 352.5 1882 67 43 2024/11/17
3 もっちゃん先生 4870 B 5.1 94.6% 366.3 1890 106 43 2024/11/10

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問題文

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(せきをたとうとしたとき、せんせいはきゅうにわたくしをつらまえて、)

席を立とうとした時、先生は急に私をつらまえて、

(「ときにおとうさんのびょうきはどうなんです」ときいた。)

「時にお父さんの病気はどうなんです」と聞いた。

(わたくしはちちのけんこうについてほとんどしるところがなかった。)

私は父の健康についてほとんど知るところがなかった。

(なんともいってこないいじょう、わるくはないのだろうくらいにかんがえていた。)

何ともいって来ない以上、悪くはないのだろうくらいに考えていた。

(「そんなにたやすくかんがえられるびょうきじゃありませんよ。)

「そんなに容易く考えられる病気じゃありませんよ。

(にょうどくしょうがでると、もうだめなんだから」)

尿毒症が出ると、もう駄目なんだから」

(にょうどくしょうということばもいみもわたくしにはわからなかった。)

尿毒症という言葉も意味も私には解らなかった。

(このまえのふゆやすみにくにでいしゃとかいけんしたときに、)

この前の冬休みに国で医者と会見した時に、

(わたくしはそんなじゅつごをまるできかなかった。)

私はそんな術語をまるで聞かなかった。

(「ほんとうにだいじにしておあげなさいよ」とおくさんもいった。)

「本当に大事にしてお上げなさいよ」と奥さんもいった。

(「どくがのうへまわるようになると、もうそれっきりよ、あなた。)

「毒が脳へ廻るようになると、もうそれっきりよ、あなた。

(わらいごとじゃないわ」)

笑い事じゃないわ」

(むけいけんなわたくしはきみをわるがりながらも、にやにやしていた。)

無経験な私は気味を悪がりながらも、にやにやしていた。

(「どうせたすからないびょうきだそうですから、いくらしんぱいしたって)

「どうせ助からない病気だそうですから、いくら心配したって

(しかたがありません」)

仕方がありません」

(「そうおもいきりよくかんがえれば、それまでですけれども」)

「そう思い切りよく考えれば、それまでですけれども」

(おくさんはむかしおなじびょうきでしんだというじぶんのおかあさんのことでもおもいだしたのか、)

奥さんは昔同じ病気で死んだという自分のお母さんの事でも憶い出したのか、

(しずんだちょうしでこういったなりしたをむいた。)

沈んだ調子でこういったなり下を向いた。

(わたくしもちちのうんめいがほんとうにきのどくになった。)

私も父の運命が本当に気の毒になった。

(するとせんせいがとつぜんおくさんのほうをむいた。)

すると先生が突然奥さんの方を向いた。

など

(「しず、おまえはおれよりさきへしぬだろうかね」)

「静、お前はおれより先へ死ぬだろうかね」

(「なぜ」)

「なぜ」

(「なぜでもない、ただきいてみるのさ。それともおれのほうがおまえよりまえに)

「なぜでもない、ただ聞いてみるのさ。それとも己の方がお前より前に

(かたづくかな。たいていせけんじゃだんながさきで、さいくんがあとへのこるのが)

片付くかな。大抵世間じゃ旦那が先で、細君が後へ残るのが

(あたりまえのようになってるね」)

当たり前のようになってるね」

(「そうきまったわけでもないわ。けれどもおとこのほうはどうしても、)

「そう極った訳でもないわ。けれども男の方はどうしても、

(そらとしがうえでしょう」)

そら年が上でしょう」

(「だからさきへしぬというりくつなのかね。するとおれもおまえよりさきに)

「だから先へ死ぬという理屈なのかね。すると己もお前より先に

(あのよへいかなくっちゃならないことになるね」)

あの世へ行かなくっちゃならない事になるね」

(「あなたはとくべつよ」)

「あなたは特別よ」

(「そうかね」)

「そうかね」

(「だってじょうぶなんですもの。ほとんどわずらったためしがないじゃありませんか。)

「だって丈夫なんですもの。ほとんど煩った例がないじゃありませんか。

(そりゃどうしたってわたしのほうがさきだわ」)

そりゃどうしたって私の方が先だわ」

(「さきかな」)

「先かな」

(「え、きっとさきよ」)

「え、きっと先よ」

(せんせいはわたくしのかおをみた。わたくしはわらった。)

先生は私の顔を見た。私は笑った。

(「しかしもしおれのほうがさきへいくとするね。そうしたらおまえどうする」)

「しかしもしおれの方が先へ行くとするね。そうしたらお前どうする」

(「どうするって・・・」)

「どうするって…」

(おくさんはそこでくちごもった。せんせいのしにたいするそうぞうてきなひあいが、)

奥さんはそこで口籠った。先生の死に対する想像的な悲哀が、

(ちょっとおくさんのむねをおそったらしかった。)

ちょっと奥さんの胸を襲ったらしかった。

(けれどもふたたびかおをあげたときは、もうきぶんをかえていた。)

けれども再び顔をあげた時は、もう気分を更えていた。

(「どうするって、しかたがないわ、ねえあなた。ろうしょうふじょうっていうくらいだから」)

「どうするって、仕方がないわ、ねえあなた。老少不定っていうくらいだから」

(おくさんはことさらにわたくしのほうをみてじょうだんらしくこういった。)

奥さんはことさらに私の方を見て笑談らしくこういった。

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