半七捕物帳 少年少女の死6
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問題文
(「おはなしがながくなりますから、ここらでいっそくとびにたねあかしを)
「お話しが長くなりますから、ここらで一足飛びに種明かしを
(してしまいましょう」と、はんしちろうじんはいった。)
してしまいましょう」と、半七老人は云った。
(「ししょうはそれからにかいへいって、けんぶつをいちいちしらべたが、どうもわからないんです。)
「師匠はそれから二階へ行って、見物を一々調べたが、どうも判らないんです。
(もっともししょうだってえんりょしながらしらべているんだかららちはあきません。)
尤も師匠だって遠慮しながら調べているんだから埒は明きません。
(にかいをしらべ、がくやをしらべても、どうもあたりがつかないもんですから、)
二階をしらべ、楽屋を調べても、どうも当りが付かないもんですから、
(こんどはわたくしがじぶんでたわらやのじょちゅうをしらべることになったんです。)
今度はわたくしが自分で田原屋の女中を調べることになったんです。
(たわらやにはよにんのじょちゅうがありまして、そのじょちゅうがしらをつとめているのは)
田原屋には四人の女中がありまして、その女中頭を勤めているのは
(おはまというおんなで、さんじゅういちにで、まるまげにゆってかねをつけていました。)
おはまという女で、三十一二で、丸髷に結って鉄漿をつけていました。
(これはここのうちのしんるいで、てつだいながらきょねんからきていたんです。)
これはここのうちの親類で、手伝いながら去年から来ていたんです。
(これをきびしくしらべると、とうとうはくじょうしました」)
これを厳しく調べると、とうとう白状しました」
(「そのおんながころしたんですか」と、わたしはきいた。)
「その女が殺したんですか」と、私は訊いた。
(「もっともゆうれいのようにまっさおなかおをして、はじめからようすがへんだったのですが、)
「尤も幽霊のように真っ蒼な顔をして、初めから様子が変だったのですが、
(しらべられていがいにもすらすらはくじょうしました。このおんなはいぜんりょうごくあたりの)
調べられて意外にもすらすら白状しました。この女は以前両国辺の
(ちょうにんのたいけにほうこうしているうちに、そこのしゅじんのてがついて、みおもになって)
町人の大家に奉公しているうちに、そこの主人の手が付いて、身重になって
(やどへさがって、そこでおんなのこをうんだのです。すると、しゅじんのうちには)
宿へ下がって、そこで女の子を生んだのです。すると、主人の家には
(こどもがないので、ほんさいもしょうちのうえで、そのこをひきとるということに)
子供がないので、本妻も承知のうえで、其の子を引き取るということに
(なったが、おはまはおやこのじょうでどうしてもそのこをせんぽうへわたしたくない、)
なったが、おはまは親子の情でどうしても其の子を先方へ渡したくない、
(どんなにくろうしてもじぶんのてでそだてたいとごうじょうをはるのを、)
どんなに苦労しても自分の手で育てたいと強情を張るのを、
(なかにたったひとたちがいろいろになだめて、こどもはしゅじんのほうへひきわたし、)
仲に立った人達がいろいろになだめて、子供は主人の方へ引き渡し、
(じぶんはそうとうのてあてをもらっていっしょうのえんきりということにきめられて)
自分は相当の手当てを貰って一生の縁切りということに決められて
(しまったんです。けれども、おはまはどうしてもわがこのことが)
しまったんです。けれども、おはまはどうしても我が子のことが
(おもいきれないで、それからきやみのようになってに、さんねんは)
思い切れないで、それから気病みのようになって二、三年は
(ぶらぶらしているうちに、しゅじんからもらったかねもたいていつかってしまって、)
ぶらぶらしているうちに、主人から貰った金も大抵遣ってしまって、
(まことにつまらないことになりました。それでもからだはすこしじょうぶになったので、)
まことに詰まらないことになりました。それでも身体は少し丈夫になったので、
(それからさん、よんかしょにほうこうしましたが、こどものあるうちへいくと)
それから三、四ヵ所に奉公しましたが、子供のある家へいくと
(むやみにそのこをひどいめにあわせるのでひとつところにながくつとまらず、)
むやみに其の子をひどい目に逢わせるので一つ所に長く勤まらず、
(じぶんもこどものあるうちはいやだというので、とおえんのしんるいにあたるこのたわらやへ)
自分も子供のある家は忌だというので、遠縁の親類にあたるこの田原屋へ
(てつだいにきていたんです。これだけもうしあげたらたいていおわかりでしょう。)
手伝いに来ていたんです。これだけ申し上げたら大抵お判りでしょう。
(そのひもおていがうつくしいしゅすやっこになったのをみて、ああかわいらしいこだと)
その日もおていが美しい繻子奴になったのを見て、ああ可愛らしい子だと
(つくづくとみとれているうちに、ちょうどじぶんのこもおなじとしごろだということを)
つくづくと見惚れているうちに、ちょうど自分の子も同じ年頃だということを
(おもいだすと、なんだかきゅうにむらむらとなって、おていをそっとにわさきへ)
思い出すと、なんだか急にむらむらとなって、おていをそっと庭先へ
(よびだして、ふいにしめころしてしまったんです。ひるまのことではあり、)
呼び出して、不意に絞め殺してしまったんです。昼間のことではあり、
(がくやではおおぜいのにんげんがごたごたしていたんですが、どうして)
楽屋では大勢の人間がごたごたしていたんですが、どうして
(きがつかなかったもんですか。いや、だれかひとりでもきがつけば)
気がつかなかったもんですか。いや、誰かひとりでも気がつけば
(こんなさわぎにならなかったんですが、まちがいのできるときというものは)
こんな騒ぎにならなかったんですが、間違いの出来る時というものは
(ふしぎなものですよ」)
不思議なものですよ」
(「で、そのてぬぐいのもんだいはどうしたんです。てぬぐいになにかしょうこでもあったんですか」)
「で、その手拭の問題はどうしたんです。手拭に何か証拠でもあったんですか」
(「てぬぐいにはうすいはのあとがのこっていたんです。うすいかねのあとが・・・・・・。)
「手拭には薄い歯のあとが残っていたんです。うすい鉄漿の痕が……。
(で、たぶんかねをつけているおんながたもとからてぬぐいをだしたときに、)
で、たぶん鉄漿をつけている女が袂から手拭を出したときに、
(ちょいとくちにくわえたものとかんていして、おはぐろのおんなばかりせんぎしたわけです。)
ちょいと口に啣えたものと鑑定して、おはぐろの女ばかり詮議したわけです。
(おはまはそのひにかねをつけたばかりで、まだよくかわいて)
おはまは其の日に鉄漿をつけたばかりで、まだよく乾いて
(いなかったとみえます」)
いなかったと見えます」
(「それからそのおんなはどうなりました」)
「それから其の女はどうなりました」
(「むろんにしざいのはずですが、かみでもいくぶんのあわれみがあったとみえて、)
「無論に死罪の筈ですが、上でも幾分の憐れみがあったとみえて、
(ぎんみあいすまずというので、にねんもさんねんもろうないにつながれていましたが、)
吟味相済まずというので、二年も三年も牢内につながれていましたが、
(そのうちにとうとうろうししました。やまとやもきのどくでしたが、)
そのうちにとうとう牢死しました。大和屋も気の毒でしたが、
(おはまもまったくかわいそうでしたよ」)
おはまもまったく可哀そうでしたよ」