半七捕物帳 少年少女の死9
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問題文
(それからし、ごにちののちに、よしごろうはもちろん、かみくずやのていしゅごへえと)
それから四、五日の後に、由五郎は勿論、紙屑屋の亭主五兵衛と
(そのにょうぼうのおさくとがいえぬしつきそいで、つきばんのみなみまちぶぎょうしょへよびだされた。)
その女房のお作とが家主附き添いで、月番の南町奉行所へ呼び出された。
(しんだよしまつがかみくずやのにょうぼうからもらってきたというおもちゃのみずだしが、)
死んだ由松が紙屑屋の女房から貰って来たという玩具の水出しが、
(しょうこひんとしてかれらのまえにおかれた。こんにちではめったにみられないが、)
証拠品として彼等のまえに置かれた。今日ではめったに見られないが、
(そのころにはこどもがなつばのおもちゃとして、みずでっぽうやみずだしがもっともよろこばれた)
その頃には子供が夏場の玩具として、水鉄砲や水出しが最も喜ばれた
(ものであった。みずだしはきせるのらおのようなたけをくだとして、)
ものであった。水出しは煙管の羅宇のような竹を管として、
(くっせつさせるために、にかしょまたはさんかしょにしかくのきをとりつけてある。)
屈折させるために、二箇所又は三箇所に四角の木を取り付けてある。
(そうしていっぽうのはしをておけとかちょうずばちとかいうものにさしこんでおくと、)
そうして一方の端を手桶とか手水鉢とかいうものに挿し込んで置くと、
(みずはくだをつたっていっぽうのまったんからふきだすのである。しかしただふきだすのでは)
水は管を伝って一方の末端から噴き出すのである。しかしただ噴き出すのでは
(おもしろくないので、そこにはせとのかえるがとりつけてあって、そのかえるのくちから)
面白くないので、そこには陶器の蛙が取り付けてあって、その蛙の口から
(みずをふくようになっている。たくみにできているのは、かえるのくちから)
水を噴くようになっている。巧みに出来ているのは、蛙の口から
(かなりにたかくみずをふきあげるので、こどもたちはみなよろこんで)
可なりに高く水を噴きあげるので、子供たちはみな喜んで
(このみずだしをもてあそんだのである。そのみずだしがぶぎょうしょのしらすへもちだされて)
この水出しをもてあそんだのである。その水出しが奉行所の白洲へ持ち出されて
(げんじゅうなぎんみのたねになろうとはなんびともおもいもうけぬことであった。)
厳重な吟味の種になろうとは何人も思い設けぬことであった。
(かみくずやのふうふはまずそのみずだしのでどころをただされた。そのおもちゃはどこでかったか)
紙屑屋の夫婦は先ずその水出しの出所を糺された。その玩具はどこで買ったか
(というじんもんにたいして、ていしゅのごへえはおそるおそるもうしたてた。)
という訊問に対して、亭主の五兵衛は恐る恐る申し立てた。
(「じつはこのみずだしはかいましたのではございません。)
「実はこの水出しは買いましたのではございません。
(よそからもらいましたのでございます」)
よそから貰いましたのでございます」
(「どこでもらった。しょうじきにいえ」と、ぎんみかたのよりきはかさねてきいた。)
「どこで貰った。正直に云え」と、吟味方の与力はかさねて訊いた。
(「しば、ろうげつちょうのやましろやからもらいました」)
「芝、露月町の山城屋から貰いました」
(やましろやというのはそこでもゆうめいのかたなやである。せんげつのすえに、)
山城屋というのは其処でも有名の刀屋である。先月の末に、
(ごへえがいつものとおりしょうばいにでて、やましろやのうらぐちへゆくと、)
五兵衛がいつもの通り商売に出て、山城屋の裏口へゆくと、
(かねてかおをしっているじょちゅうがかみくずをうってくれたすえに、おまえのうちのこどもに)
かねて顔を識っている女中が紙屑を売ってくれた末に、おまえの家の子供に
(これをもっていってやらないかといって、かのかえるのみずだしをくれた。)
これを持って行ってやらないかと云って、かの蛙の水出しをくれた。
(ごへえはよろこんでもらってかえって、それをじぶんのこどものおもちゃにさせると、)
五兵衛はよろこんで貰って帰って、それを自分の子供の玩具にさせると、
(ふつかばかりでそのこはきゅうびょうでしんだ。それがさらにだいくのこどものてにわたって、)
二日ばかりで其の子は急病で死んだ。それが更に大工の子供の手に渡って、
(そのこはそのひにおなじくきゅうびょうでしんだのであった。)
その子はその日におなじく急病で死んだのであった。
(かれらのじじょうがはんめいして、ひきあいのものいちどうはひとまずじたくへもどされた。)
かれらの事情が判明して、引合いの者一同はひと先ず自宅へ戻された。
(しかしみずだしのことはけっしてこうがいしてはならぬとかたくもうしわたされた。)
しかし水出しのことは決して口外してはならぬと堅く申し渡された。
(そのごとおかばかりはなにごともなかったが、うらぼんがすぎると、)
その後十日ばかりは何事もなかったが、盂蘭盆が過ぎると、
(やましろやのにょうぼうおきくと、じょちゅうのおさきがぶぎょうしょへよびだされた。)
山城屋の女房お菊と、女中のお咲が奉行所へ呼び出された。
(このふたりはふたたびきたくをゆるされないので、せけんではいろいろのうわさをしていると、)
この二人は再び帰宅を許されないので、世間ではいろいろの噂をしていると、
(くがつのなかごろにそのさいばんがらくちゃくして、じょちゅうのおさきはえんとう、にょうぼうのおきくは)
九月の中頃にその裁判が落着して、女中のお咲は遠島、女房のお菊は
(しざいというおそろしいもうしわたしをうけたので、とうのやましろやはもちろん、)
死罪というと恐ろしい申し渡しを受けたので、当の山城屋は勿論、
(せけんではびっくりした。)
世間ではびっくりした。