『少年探偵団』江戸川乱歩33

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少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文

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(かどのろうじんのさしずにしたがって、ひとりのてんいんがこんぼうを)

門野老人の指図にしたがって、一人の店員がこん棒を

(りょうてににぎりしめ、きゃたつのうえにのったかとおもうと、いきおい)

両手に握りしめ、脚立の上に乗ったかと思うと、勢い

(こめて、やっとばかりにてんじょうをつきあげました。)

こめて、ヤッとばかりに天井を突き上げました。

(いっかい、にかい、さんかいと、つづけざまにつきあげたものです)

一回、二回、三回と、続けざまに突き上げたものです

(から、てんじょうはめりめりというおとをたててやぶれ、)

から、天井はメリメリという音をたててやぶれ、

(みるみるおおきなあながあいてしまいました。「さあ、)

みるみる大きな穴があいてしまいました。「さあ、

(これでてらしてみたまえ」しはいにんがかいちゅうでんとうを)

これで照らしてみたまえ」 支配人が懐中電灯を

(さしだしますと、きゃたつのうえのてんいんはそれをうけ)

差し出しますと、脚立の上の店員はそれを受け

(とって、てんじょうのあなからくびをいれ、やねうらのやみのなかを)

取って、天井の穴から首を入れ、屋根裏の闇の中を

(あちこちみまわしました。おおとりとけいてんは、だいぶぶんが)

アチコチ見回しました。 大鳥時計店は、大部分が

(こんくりーとだてのようかんで、このざしきはあとから)

コンクリート建ての洋館で、この座敷はあとから

(べつにたてたいっかいだてのにほんしきでしたから、やねうらと)

別に建てた一階建ての日本式でしたから、屋根裏と

(いっても、さほどひろくはなく、ひとめでぜんたいがみわたせる)

いっても、さほど広くはなく、一目で全体が見渡せる

(のです。「なにもいませんよ。すみからすみまででんとうのひかりを)

のです。「何も居ませんよ。隅から隅まで電灯の光を

(あててみましたが、ねずみいっぴきいやあしませんぜ」)

当ててみましたが、ネズミ一匹居やあしませんぜ」

(てんいんはそういって、しつぼうしたようにきゃたつをおり)

店員はそう言って、失望したように脚立をおり

(ました。「そんなはずはないがなあ。わしがみて)

ました。「そんなはずはないがなあ。わしが見て

(やろう」こんどはかどのしはいにんがでんとうをもって、きゃたつに)

やろう」 今度は門野支配人が電灯を持って、脚立に

(のぼり、てんじょううらをのぞきこみました。しかし、そこの)

のぼり、天井裏をのぞき込みました。しかし、そこの

(やみのなかには、どこにもにんげんらしいもののすがたはない)

闇の中には、どこにも人間らしい者の姿はない

など

(のです。「おかしいですね。たしかに、このへんから)

のです。「おかしいですね。確かに、この辺から

(きこえてきたのですが」「いないのかい」おおとりしが)

聞こえて来たのですが」「いないのかい」 大鳥氏が

(ややあんどしたらしく、たずねます。「ええ、)

やや安堵したらしく、たずねます。「ええ、

(まるっきりからっぽでございます。ほんとうにねずみいっぴき)

まるっきり空っぽでございます。本当にネズミ一匹

(いやあしません」ぞくのすがたは、とうとうはっけんする)

居やあしません」 賊の姿は、とうとう発見する

(ことができませんでした。ではいったい、あのぶきみな)

ことが出来ませんでした。では一体、あの不気味な

(こえは、どこからひびいてきたのでしょう。むろん、えんのした)

声は、どこから響いて来たのでしょう。無論、縁の下

(ではありません。あついたたみのしたのこえが、あんなに)

ではありません。厚い畳の下の声が、あんなに

(はっきりきこえるはずはないのです。かといって)

ハッキリ聞こえるはずはないのです。 かといって

(ほかに、どこにかくれるばしょがあるでしょうか。ああ、)

ほかに、どこに隠れる場所があるでしょうか。ああ、

(まじゅつしにじゅうめんそうは、またしてもえたいのしれないまほうを)

魔術師二十面相は、またしても得体の知れない魔法を

(つかったのです。)

使ったのです。

(「いがいやいがい」)

「意外や意外」

(すがたのないこえが、ほんもののおうごんとうのかくしばしょをしっている)

姿のない声が、本物の黄金塔の隠し場所を知っている

(といったものですからおおとりしは、もうきがきでは)

と言ったものですから大鳥氏は、もう気が気では

(なく、さんにんのてんいんたちをたちさらせますと、)

なく、三人の店員たちを立ち去らせますと、

(かどのしはいにんとふたりで、おおいそぎでたたみをあけてゆかいたを)

門野支配人と二人で、大急ぎで畳をあけて床板を

(はずし、しはいにんにつちをほってみるようにめいじました。)

外し、支配人に土を掘ってみるように命じました。

(ろうじんはきもののすそをそとがわにおりあげて、ゆかしたにおいて)

老人は着物の裾を外側に折り上げて、床下に置いて

(あったくわをとり、こころあたりのあるばしょをほりかえして)

あったクワを取り、心当たりのある場所を掘り返して

(いましたが、やがてがっかりしたようなこえで、)

いましたが、やがてがっかりしたような声で、

(「だんなさま、ありません。とうは、あとかたもなく)

「旦那さま、ありません。塔は、あとかたもなく

(きえてしまいました」と、ほうこくするのでした。)

消えてしまいました」 と、報告するのでした。

(おおとりしはそれをききますと、らくたんのあまり、そこへ)

大鳥氏はそれを聞きますと、落胆のあまり、そこへ

(しりもちをついたまま、くちをきくげんきもなく、)

尻もちをついたまま、口をきく元気もなく、

(しばらくのあいだぼんやりと、ゆかしたのやみのなかを)

しばらくのあいだボンヤリと、床下の闇の中を

(ながめていましたが、やがてふしぎでしかたないという)

ながめていましたが、やがて不思議で仕方ないという

(ようにこくびをかたむけました。「おいかどのくん、)

ように小首をかたむけました。「おい門野君、

(どうもへんだぜ。わしはあれをここへうめてから、)

どうも変だぜ。わしはあれをここへ埋めてから、

(せんめんじょへいくほかは、このへやをすこしもでなかった。)

洗面所へ行くほかは、この部屋を少しも出なかった。

(もし、だれかがわしのるすのあいだに、ここへ)

もし、だれかがわしの留守のあいだに、ここへ

(しのびこんだとしても、たたみをあげてゆかいたをはずし、つちを)

忍び込んだとしても、畳を上げて床板を外し、土を

(ほってとうをもちだすなんてよゆうは、まったくなかった)

掘って塔を持ち出すなんて余裕は、まったくなかった

(はずだ。いったいあいつは、どういうしゅだんでぬすみだし)

はずだ。一体あいつは、どういう手段で盗み出し

(やがったのかなあ」おおとりしはくやしいというよりも、)

やがったのかなあ」 大鳥氏は悔しいというよりも、

(ふしぎでたまらないというかおつきです。「わたしもいま、)

不思議でたまらないという顔つきです。「私も今、

(それをかんがえていたところでございます。つうじょうのいえ)

それを考えていたところでございます。通常の家

(でしたら、にわのえんがわのしたからゆかしたへはいりこむという)

でしたら、庭の縁側の下から床下へ入り込むという

(てもありますが、このおざしきのえんがわのしたには、あつい)

手もありますが、このお座敷の縁側の下には、厚い

(いたがうちつけてありますからね。すきまはあっても、)

板が打ちつけてありますからね。隙間はあっても、

(こいぬでさえとおれないほどです。それに、さきほどから)

小犬でさえ通れないほどです。 それに、先程から

(このゆかしたをかいちゅうでんとうでしらべているのですが、にんげんの)

この床下を懐中電灯で調べているのですが、人間の

(はいりこんだようなあとは、すこしもありません。)

入り込んだような跡は、少しもありません。

(やわらかいつちですから、あいつがゆかをくぐってきた)

やわらかい土ですから、あいつが床をくぐって来た

(とすれば、あとがつかないはずはないのですがねえ」)

とすれば、跡がつかないはずはないのですがねえ」

(かどのしはいにんは、まるできつねにでもつままれた)

門野支配人は、まるでキツネにでもつままれた

(ようなかおをして、おおきなためいきをつくのでした。)

ような顔をして、大きな溜め息をつくのでした。

(「うふふ、びっくりしたかい。にじゅうめんそうのうでまえは、)

「ウフフ、ビックリしたかい。二十面相の腕前は、

(まあこんなもんさ。おうごんとうはたしかにちょうだい)

まあこんなもんさ。黄金塔は確かにちょうだい

(したぜ。それじゃ、あばよ」ああ、またしても、)

したぜ。それじゃ、あばよ」 ああ、またしても、

(あのいんきなこえがひびいてきたではありませんか。)

あの陰気な声が響いて来たではありませんか。

(いったい、にじゅうめんそうはどこにいるのでしょう。ろうかでは)

一体、二十面相はどこにいるのでしょう。廊下では

(ありません。てんじょうでも、ゆかしたでもないのです。)

ありません。天井でも、床下でもないのです。

(ひょっとしたら、まほうつかいのにじゅうめんそうは、)

ひょっとしたら、魔法使いの二十面相は、

(めにみえないきたいのようなものになって、へやのなかの)

目に見えない気体のようなものになって、部屋の中の

(どこかに、たたずんでいるのでしょうか。「かどのくん、)

どこかに、たたずんでいるのでしょうか。「門野君、

(やっぱりあいつはどっかにいるんだ。めにはみえない)

やっぱりあいつはどっかに居るんだ。目には見えない

(けれど、このちかくにいるにちがいないんだ。みせのものに)

けれど、この近くに居るに違いないんだ。店の者に

(いって、でいりぐちをふさぎなさい。はやくはやく。)

言って、出入り口をふさぎなさい。早く早く。

(そして、やつをとらえてしまうのだ」おおとりしは)

そして、やつをとらえてしまうのだ」 大鳥氏は

(しはいにんのみみにくちをよせて、せわしなくささやき)

支配人の耳に口を寄せて、せわしなくささやき

(ました。もうぶきみというよりは、はらだたしさでいっぱい)

ました。もう不気味というよりは、腹立たしさで一杯

(なのです。どんなことをしてでも、ぞくをとらえない)

なのです。どんなことをしてでも、賊をとらえない

(ではいられないというけんまくです。しはいにんもおなじかんがえと)

ではいられないという剣幕です。 支配人も同じ考えと

(みえ、しゅじんのいいつけをききますと、すぐさまみせの)

みえ、主人の言い付けを聞きますと、すぐさま店の

(ほうへとんでいって、おもてぐちとうらぐちのみはりをしている)

ほうへ飛んで行って、表口と裏口の見張りをしている

(ひとに、あやしいやつをみつけたら、おおきなこえをたてて)

人に、怪しいやつを見つけたら、大きな声をたてて

(ひとをあつめ、ひっとらえてしまうようにと、てんいんたちに)

人を集め、ひっとらえてしまうようにと、店員たちに

(めいじました。さあ、てんないはおおさわぎです。「にじゅうめんそうが)

命じました。 さあ、店内は大騒ぎです。「二十面相が

(いえのなかにいるんだ。みつけだしてふくろだたきにしちまえ」)

家の中に居るんだ。見つけ出して袋叩きにしちまえ」

(じゅうすうめいのけっきさかんなてんいんたちが、てにこんぼうと)

十数名の血気盛んな店員たちが、手にこん棒と

(かいちゅうでんとうをもってさがしたり、ほかにもたいをくんで、)

懐中電灯を持って探したり、ほかにも隊を組んで、

(いえじゅうをさがすものがいたりと、それはそれはたいへんなさわぎ)

家中を探す者がいたりと、それはそれは大変な騒ぎ

(でした。しかし、いちじかんほどてんないをすみからすみまで、)

でした。 しかし、一時間ほど店内を隅から隅まで、

(ものおきやおしいれのなかはもちろん、てんじょうからえんのしたまで、)

物置や押入れの中はもちろん、天井から縁の下まで、

(くまなくさがしましたが、ふしぎなことにぞくらしいひとの)

くまなく探しましたが、不思議なことに賊らしい人の

(すがたは、どこにもありませんでした。にじゅうめんそうは、もう)

姿は、どこにもありませんでした。 二十面相は、もう

(いえのなかにはいないのでしょうか。かぜのように、)

家の中には居ないのでしょうか。風のように、

(にげだしてしまったのでしょうか。)

逃げ出してしまったのでしょうか。

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