『少年探偵団』江戸川乱歩32

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少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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関連タイピング

問題文

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(おおとりしはすうじのよこくがなくなったのを、ふしぎに)

大鳥氏は数字の予告がなくなったのを、不思議に

(おもっておりましたが、すうじがあらわれないでも、かいとうは)

思っておりましたが、数字が現れないでも、怪盗は

(にじゅうごにちのよるとはっきりいっているのですから、)

二十五日の夜とハッキリ言っているのですから、

(けっしてあんしんはできません。おおとりしはそのあとの)

決して安心は出来ません。大鳥氏はそのあとの

(みっかかんを、とうがうめてあるへやでがんばりつづけました。)

三日間を、塔が埋めてある部屋で頑張り続けました。

(そして、とうとうにじゅうごにちのよるがきたのです。)

そして、とうとう二十五日の夜がきたのです。

(ひがくれてからおおとりしとかどのしはいにんは、にせものの)

日が暮れてから大鳥氏と門野支配人は、偽物の

(おうごんとうをかざっているざしきにすわりこんで、でいりぐちの)

黄金塔を飾っている座敷に座り込んで、出入り口の

(いたどにはなかからかぎをかけてゆだんなくみはりを)

板戸には中からカギをかけて油断なく見張りを

(つづけていました。みせのほうでもてんいんいちどう、こんやこそ)

続けていました。 店のほうでも店員一同、今夜こそ

(にじゅうめんそうがやってくるのだと、いつもよりはやくみせを)

二十面相がやって来るのだと、いつもより早く店を

(しめて、いりぐちといういりぐちにすっかりかぎをかけ、)

しめて、入り口という入り口にすっかりカギをかけ、

(それぞれもちばをきめて、みはりばんをするやら、)

それぞれ持ち場を決めて、見張り番をするやら、

(こんぼうをかたてにいえじゅうをじゅんかいするやら、たいへんなさわぎ)

こん棒を片手に家中を巡回するやら、大変な騒ぎ

(でした。そんなじょうきょうで、まほうつかいのにじゅうめんそうは、)

でした。そんな状況で、魔法使いの二十面相は、

(このにじゅう、さんじゅうのげんじゅうなけいかいのなか、どうやってはいって)

この二重、三重の厳重な警戒の中、どうやって入って

(くることができるでしょう。かれはこんどこそしっぱいするに)

来ることが出来るでしょう。彼は今度こそ失敗するに

(ちがいありません。もし、このなかへしのびこんで、)

違いありません。もし、この中へ忍び込んで、

(にせもののおうごんとうにもまよわされず、ほんもののたからものをぬすむ)

偽物の黄金塔にも迷わされず、本物の宝物を盗む

(ことができるとすれば、にじゅうめんそうはまほうつかいどころ)

ことが出来るとすれば、二十面相は魔法使いどころ

など

(ではありません。かみさまです。とうぞくのかみさまです。)

ではありません。神さまです。盗賊の神さまです。

(けいかいのうちにだんだん、よるがふけていきました。)

警戒のうちに段々、夜がふけていきました。

(じゅうじ、じゅういちじ、じゅうにじ。おもてどおりのざわめきも)

十時、十一時、十二時。表通りのざわめきも

(きこえなくなり、いえのなかもしーんとしずまりかえって)

聞こえなくなり、家の中もシーンと静まり帰って

(きました。ただときどき、じゅんかいするてんいんのあしおとが、ろうかに)

きました。ただ時々、巡回する店員の足音が、廊下に

(きこえるだけです。おくのまでは、おおとりしと)

聞こえるだけです。 奥の間では、大鳥氏と

(かどのしはいにんがむかいあってすわり、おきどけいと)

門野支配人が向かい合って座り、置き時計と

(にらめっこをしていました。「かどのくん、ちょうど)

にらめっこをしていました。「門野君、ちょうど

(じゅうにじだよ。ははは、とうとう、やつはやって)

十二時だよ。ハハハ、とうとう、やつはやって

(こなかったね。じゅうにじがすぎれば、もうにじゅうろくにち)

こなかったね。十二時が過ぎれば、もう二十六日

(だからね。やくそくのきげんがきれるじゃないか。ははは」)

だからね。約束の期限が切れるじゃないか。ハハハ」

(おおとりしはやっとむねをなでおろして、わらいごえをたてる)

大鳥氏はやっと胸をなでおろして、笑い声をたてる

(のでした。「さようでございますね。さすがの)

のでした。「左様でございますね。さすがの

(にじゅうめんそうも、このげんじゅうなみはりには、かなわなかった)

二十面相も、この厳重な見張りには、かなわなかった

(とみえますね。ははは、いいきみですよ」)

とみえますね。ハハハ、いい気味ですよ」

(かどのしはいにんも、かいとうをあざけるようにわらいました。)

門野支配人も、怪盗をあざけるように笑いました。

(ところが、ふたりのわらいごえがきえるかきえないかに、)

ところが、二人の笑い声が消えるか消えないかに、

(とつじょとしてどこからともなく、いようなしわがれごえが)

突如としてどこからともなく、異様なしわがれ声が

(ひびいてきたではありませんか。「おいおい、まだあんしん)

響いてきたではありませんか。「おいおい、まだ安心

(するのははやいぜ。にじゅうめんそうのじしょには、ふかのうという)

するのは早いぜ。二十面相の辞書には、不可能という

(ことばがないのをわすれたかね」それはじつになんとも)

言葉がないのを忘れたかね」 それはじつに何とも

(いえないいんきな、まるではかばのなかからでもひびいてくる)

いえない陰気な、まるで墓場の中からでも響いてくる

(ような、いやあなかんじのこえでした。「おいかどのくん、)

ような、いやあな感じの声でした。「おい門野君、

(きみいま、なにかいいやしなかったかい」おおとりしは)

きみ今、何か言いやしなかったかい」 大鳥氏は

(ぎょっとしたように、あたりをみまわしながら、)

ギョッとしたように、あたりを見まわしながら、

(しらがのしはいにんにたずねるのでした。「いいえ、)

しらがの支配人にたずねるのでした。「いいえ、

(わたしじゃございません。しかし、なんだかへんなこえが)

私じゃございません。しかし、なんだか変な声が

(きこえたようですね」かどのろうじんはけげんなこえで、)

聞こえたようですね」 門野老人は怪訝な声で、

(おなじようにさゆうをみまわしました。「おい、へんだぜ。)

同じように左右を見まわしました。「おい、変だぜ。

(ゆだんしちゃいけないぜ。きみ、ろうかをみてごらん。)

油断しちゃいけないぜ。きみ、廊下を見てごらん。

(とのそとにだれかいるんじゃないか」おおとりしは、)

戸の外にだれか居るんじゃないか」大鳥氏は、

(もうすっかりあおざめて、はもあわないありさまです。)

もうすっかり青ざめて、歯も合わない有り様です。

(かどのしはいにんは、しゅじんよりもいくらかゆうきがあると)

門野支配人は、主人よりもいくらか勇気があると

(みえ、とくにおそれるようすもなくたっていって、かぎで)

みえ、特におそれる様子もなく立って行って、カギで

(とをひらき、そとのろうかをみわたしました。「だれもいや)

戸をひらき、外の廊下を見渡しました。「だれも居や

(しません。おかしいですね」ろうじんがそういって、)

しません。おかしいですね」 老人がそう言って、

(とをしめようとすると、またしてもどこからか)

戸をしめようとすると、またしてもどこからか

(ともなく、あのしわがれごえがきこえてきました。)

ともなく、あのしわがれ声が聞こえてきました。

(「なにをきょろきょろしているんだ。ここだよ、ここ」)

「何をキョロキョロしているんだ。ここだよ、ここ」

(こもったこえで、まるでみずのなかからものをいっている)

こもった声で、まるで水の中から物を言っている

(ようなかんじです。なにかしらぞーっとそうけだつような、)

ような感じです。何かしらゾーッと総毛立つような、

(おばけのこえです。「やい、きさまはどこにいるんだ。)

お化けの声です。「やい、貴様はどこに居るんだ。

(いったいなにものだ。ここへでてこい」かどのろうじんは、)

一体何者だ。ここへ出て来い」 門野老人は、

(やせがまんをしながら、どこにいるかわからないあいてに)

やせ我慢をしながら、どこに居るかわからない相手に

(どなりつけました。「うふふ、どこにいるとおもうね。)

どなりつけました。「ウフフ、どこに居ると思うね。

(あててみたまえ。だが、そんなことよりも、おうごんとうは)

当ててみたまえ。だが、そんなことよりも、黄金塔は

(だいじょうぶなのかね。にじゅうめんそうはやくそくをやぶったりはしない)

大丈夫なのかね。二十面相は約束を破ったりはしない

(はずだぜ」「なにをいっているんだ。おうごんとうはちゃんと)

はずだぜ」「何を言っているんだ。黄金塔はちゃんと

(とこのまにかざってあるじゃないか。とうぞくなんかにゆびいっぽん)

床の間に飾ってあるじゃないか。盗賊なんかに指一本

(ふれさせはしない」かどのろうじんはへやのなかをむやみに)

ふれさせはしない」 門野老人は部屋の中をむやみに

(あるきまわりながら、すがたのないてきといいあいました。)

歩き回りながら、姿のない敵と言い合いました。

(「うふふ、おいおい、きみはにじゅうめんそうが、)

「ウフフ、おいおい、きみは二十面相が、

(それほどおひとよしだとおもっているのかい。とこのまのは)

それほどお人よしだと思っているのかい。床の間のは

(にせもので、ほんものはつちのなかにうめてあることぐらい、)

偽物で、本物は土の中に埋めてあることぐらい、

(おれがしらないとでもおもっているのかい」それを)

おれが知らないとでも思っているのかい」 それを

(きくと、おおとりしとしはいにんはぞっとして、かおをみあわせ)

聞くと、大鳥氏と支配人はゾッとして、顔を見合わせ

(ました。ああ、かいとうはひみつをしっていたのです。)

ました。ああ、怪盗は秘密を知っていたのです。

(かどのろうじんのせっかくのくろうはなんのやくにもたたなかった)

門野老人のせっかくの苦労は何の役にも立たなかった

(のです。「おい、あのこえは、どうやらてんじょううら)

のです。「おい、あの声は、どうやら天井裏

(らしいぜ」おおとりしは、ふときがついたようにしはいにんの)

らしいぜ」 大鳥氏は、ふと気がついたように支配人の

(うでをつかんで、ひそひそとささやきました。いかにも、)

腕をつかんで、ヒソヒソとささやきました。 いかにも、

(それは、てんじょうのほうがくからひびいてくるようです。)

それは、天井の方角から響いて来るようです。

(てんじょうでもなければ、ほかににんげんひとりがかくれられる)

天井でもなければ、ほかに人間一人が隠れられる

(ばしょは、どこにもないのです。「はあ、そうかも)

場所は、どこにもないのです。「はあ、そうかも

(しれません。このてんじょうのうえに、にじゅうめんそうのやつが)

しれません。この天井の上に、二十面相のやつが

(かくれているのかもしれません」しはいにんはじっと)

隠れているのかもしれません」 支配人はジッと

(てんじょうをみあげて、ささやきかえしました。「はやく、)

天井を見上げて、ささやき返しました。「早く、

(みせのものをよんでください。そして、かまわないから)

店の者を呼んでください。そして、構わないから

(てんじょうをはがして、どろぼうをつかまえるように)

天井をはがして、泥棒をつかまえるように

(いいつけてください。さ、はやくはやく」おおとりしは、)

言いつけてください。さ、早く早く」 大鳥氏は、

(りょうてでかどのろうじんをおしやるようにしながら、せかす)

両手で門野老人を押しやるようにしながら、せかす

(のです。ろうじんはおされるままにろうかにでて、)

のです。老人は押されるままに廊下に出て、

(てんいんたちをよびあつめるために、みせのほうへいそいで)

店員たちを呼び集めるために、店のほうへ急いで

(いきました。やがて、さんにんのくっきょうなてんいんが、)

行きました。 やがて、三人の屈強な店員が、

(しゃついちまいのすがたで、きゃたつやこんぼうなどをもって、)

シャツ一枚の姿で、脚立やこん棒などを持って、

(しのびあしではいってきました。あいてにさとられないよう、)

忍び足で入って来ました。相手に悟られないよう、

(ふいにてんじょうをはがして、ぞくをつかまえよう)

不意に天井をはがして、賊をつかまえよう

(というわけです。)

という訳です。

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