緋のエチュード 8

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(しゃこうかいのにだいはながたのようにねたみあっている。)

社交界の二大花形のように妬みあっている。

(もしかれらがいっしょにてがかりをおうなら、)

もし彼らが一緒に手がかりを追うなら、

(このじけんはちょっとおもしろいことになりそうだ」)

この事件はちょっと面白い事になりそうだ」

(わたしはかれがゆうゆうとしたたいどでおだやかにはなすのをきいておどろいた。)

私は彼がゆうゆうとした態度で穏やかに話すのを聞いて驚いた。

(「どうかんがえてもいっこくのゆうよもならない」わたしはさけんだ。)

「どう考えても一刻の猶予もならない」私は叫んだ。

(「わたしがいってつじばしゃをよんでこようか?」)

「私が行って辻馬車を呼んで来ようか?」

(「いくべきかどうか、けっしんがつかないな。)

「行くべきかどうか、決心がつかないな。

(ぼくはてがつけられないほどたいだなにんげんだ。だれよりもね、)

僕は手がつけられないほど怠惰な人間だ。誰よりもね、

(きぶんがのったときは、かつどうてきになれるときもあるが」)

気分が乗った時は、活動的になれる時もあるが」

(「これはきみがのぞんでいたぜっこうのきかいじゃないのか」)

「これは君が望んでいた絶好の機会じゃないのか」

(「わとそん、それがぼくにとってなんになる?)

「ワトソン、それが僕にとってなんになる?

(ぼくがこのじけんをかいけつしたとしよう。ぐれっぐそん、れすとれーど、)

僕がこの事件を解決したとしよう。グレッグソン、レストレード、

(そしてほかのどうりょうが、ひこうしきのじんぶつによってもたらされたてがらを)

そして他の同僚が、非公式の人物によってもたらされた手柄を

(ぜんぶひとりじめにすることになるさ」)

全部独り占めにすることになるさ」

(「しかしかれはきみのたすけをもとめているよ」)

「しかし彼は君の助けを求めているよ」

(「そうだ。かれはぼくがじぶんよりすぐれていることをしっている。)

「そうだ。彼は僕が自分より優れている事を知っている。

(そしてぼくにたいしてはそれをみとめている。)

そして僕に対してはそれを認めている。

(しかしだれかべつのにんげんにそれをみとめるくらいなら、)

しかし誰か別の人間にそれを認めるくらいなら、

(じぶんのしたをひきぬくだろう。しかし、いってのぞいてみるのもわるくないか。)

自分の舌を引き抜くだろう。しかし、行って覗いてみるのも悪くないか。

(ぼくはじぶんのきょうみのためにやってみよう。)

僕は自分の興味のためにやってみよう。

など

(もしほかになにもなくてもかれらをわらってやれるかもしれないな。いこう!」)

もし他に何もなくても彼らを笑ってやれるかもしれないな。行こう!」

(かれはやるきのないたいどから、)

彼はやる気のない態度から、

(いってんしてかつどうてきなほっさがおきたようなふんいきになり、)

一転して活動的な発作が起きたような雰囲気になり、

(あわててこーとをきて、ばたばたしはじめた。)

慌ててコートを着て、バタバタし始めた。

(「きみもぼうしをかぶって」かれはいった。)

「君も帽子を被って」彼は言った。

(「ぼくにきてほしいのか?」)

「僕に来て欲しいのか?」

(「そうだ。ほかにすることがなければな」)

「そうだ。他にすることがなければな」

(いっぷんご、われわれはものすごいいきおいでぶりくすとんろーどに)

一分後、我々は物凄い勢いでブリクストン・ロードに

(むかうばしゃにならんでのっていた。)

向かう馬車に並んで乗っていた。

(きりがたちこめたくもりぞらのあさだった。)

霧が立ち込めた曇り空の朝だった。

(やねのうえにちゃいろいいろのべーるがたちこめ、)

屋根の上に茶色い色のベールが立ちこめ、

(そのしたにあるどろいろのとおりをうつしているようにみえた。)

その下にある泥色の通りを映しているように見えた。

(わがゆうじんはさいこうにじょうきげんで、くれもなのばいおりんや、)

我が友人は最高に上機嫌で、クレモナのバイオリンや、

(すとらでばりとあまーてぃのちがいについてしゃべりつづけた。)

ストラデバリとアマーティの違いについてしゃべりつづけた。

(わたしはむくちだった。どんよりしたてんきと、これからさきのいんきなしごとで、)

私は無口だった。どんよりした天気と、これから先の陰気な仕事で、

(ゆううつになっていたのだ。)

憂鬱になっていたのだ。

(「きみは、めのまえのもんだいについてあまりかんがえていないようだが」)

「君は、目の前の問題についてあまり考えていないようだが」

(わたしはついにほーむずのおんがくろんこうをさえぎっていった。)

私は遂にホームズの音楽論考を遮って言った。

(「まだでーたがない」かれはこたえた。)

「まだデータがない」彼は答えた。

(「すべてのしょうこをつかむまえにりろんをくみたてるのはおおきなあやまりだ。)

「全ての証拠を掴む前に理論を組み立てるのは大きな誤りだ。

(ゆがんだけんかいになる」)

ゆがんだ見解になる」

(「でーたはすぐにてにはいるだろう」わたしはゆびでしめしながらいった。)

「データはすぐに手に入るだろう」私は指で示しながら言った。

(「これがぶりくすとんろーどだ。そしてもしおおきなまちがいをしていなければ、)

「これがブリクストンロードだ。そしてもし大きな間違いをしていなければ、

(あれがもんだいのいえだ」)

あれが問題の家だ」

(「そうだな。とめろ、ぎょしゃ、とめろ!」)

「そうだな。止めろ、御者、止めろ!」

(いえはそこからまだひゃくやーどはあったが、かれはおりるといってきかず、)

家はそこからまだ百ヤードはあったが、彼は降りるといってきかず、

(のこりはとほでいくことになった。)

残りは徒歩で行く事になった。

(だいさんろーりんすとんがーでんは、ぶきみでおどろおどろしいたてものだった。)

第三ローリンストンガーデンは、不気味でおどろおどろしい建物だった。

(それはとおりからすこしいりこんだところにたっている)

それは通りから少し入り込んだところに建っている

(よんけんのうちのいっけんだった。ひとがすんでいるいえがにけんで、)

四軒のうちの一軒だった。人が住んでいる家が二軒で、

(あきやがにけんだった。あきやはいっかいからさんかいまで、)

空家が二軒だった。空家は一階から三階まで、

(うつろでものさびしくいんきなまどがならんでおり、よごれたまどがらすのところどころに)

虚ろで物寂しく陰気な窓が並んでおり、汚れた窓ガラスの所々に

(「かしや」のかんばんがはくないしょうのようにぼんやりとうかんでいるいがい、)

「貸家」の看板が白内障のようにぼんやりと浮かんでいる以外、

(なにもみえなかった。いえととおりのあいだのちいさなにわには、)

何も見えなかった。家と通りの間の小さな庭には、

(ところどころいろのわるいくさがおいしげっていた。)

ところどころ色の悪い草が生い茂っていた。

(そのにわをよこぎってきいろいいろのほそいみちがとおっていた。みちは、)

その庭を横切って黄色い色の細い道が通っていた。道は、

(つちとじゃりをまぜたものでできているらしかった。)

土と砂利を混ぜたもので出来ているらしかった。

(さくやじゅうふりつづいていたあめにぬれて、どこもかしこもびしょびしょだった。)

昨夜中降り続いていた雨に濡れて、どこもかしこもびしょびしょだった。

(にわのきょうかいにはさんふぃーとのたかさのれんがべいがあり、)

庭の境界には三フィートの高さの煉瓦塀があり、

(そのうえにもくせいのてすりがついていた。)

その上に木製の手すりがついていた。

(このへいにくっきょうなじゅんさがもたれかかっていて、)

この塀に屈強な巡査が持たれかかっていて、

(そのまわりにしょうにんずうのやじうまがかたまりになっていた。)

その周りに少人数の野次馬が塊になっていた。

(かれらはくびをつきだしてめをこらし、)

彼らは首を突き出して目を凝らし、

(なかでおきていることをちょっとでもみようと、むだなどりょくをしていた。)

中で起きていることをちょっとでも見ようと、無駄な努力をしていた。

(わたしは、しゃーろっくほーむずがただちにいえのなかにかけこんで、)

私は、シャーロックホームズがただちに家の中に駆け込んで、

(すぐこのじけんのちょうさにはいるものとよそうしていた。)

すぐこの事件の調査に入るものと予想していた。

(かれのたいどはそれまでとかわらないようにみえた。このじょうきょうかでは、)

彼の態度はそれまでと変わらないように見えた。この状況下では、

(わたしにはきどっているようにみえたほどかれはむとんちゃくなようすで、)

私には気取っているように見えたほど彼は無頓着な様子で、

(ほどうをゆっくりいったりきたりし、じめん、そら、むかいがわのいえ、)

歩道をゆっくり行ったり来たりし、地面、空、向かい側の家、

(いちれんのてすりをぼんやりとみた。このちょうさをおえると、)

一連の手すりをぼんやりと見た。この調査を終えると、

(かれはしせんをじめんからはなさずゆっくりとこみちをすすんだ。)

彼は視線を地面から離さずゆっくりと小道を進んだ。

(こみちというよりもわきにはえているくさのうえをあるいていた。)

小道と言うよりも脇に生えている草の上を歩いていた。

(かれはにどたちどまった。そしていちど、かれはほほえみ、)

彼は二度立ち止まった。そして一度、彼は微笑み、

(まんぞくそうなこえをあげるのがきこえた。)

満足そうな声を上げるのが聞こえた。

(ぬれたねんどっぽいつちのうえにたくさんのあしあとがのこされていた。)

濡れた粘土っぽい土の上に沢山の足跡が残されていた。

(しかしけいさつがそのうえをいったりきたりしていたので、)

しかし警察がその上を行ったり来たりしていたので、

(ほーむずがそこからどのようにしてなにかをよみとれるのか、)

ホームズがそこからどのようにして何かを読取れるのか、

(けんとうもつかなかった。それでもかれのかんさつりょくがいかにするどく、)

見当もつかなかった。それでも彼の観察力がいかに鋭く、

(すばやいかということをおもいしらされていたので、わたしにはなにもみえなくても、)

素早いかということを思い知らされていたので、私には何も見えなくても、

(ほーむずがそこからひじょうにおおくのじょうほうをよみとれるのはまちがいなかった。)

ホームズがそこから非常に多くの情報を読み取れるのは間違いなかった。

(われわれはいえのとぐちで、てちょうをてにしたおとことであった。せがたかく、)

我々は家の戸口で、手帳を手にした男と出会った。背が高く、

(かおはしろく、かみはあまいろだった。かれはかけよってくると、)

顔は白く、髪は亜麻色だった。彼は駆け寄って来ると、

(こうふんしてほーむずのてをしっかりとにぎった。)

興奮してホームズの手をしっかりと握った。

(「おこしいただいてほんとうにありがとうございます」かれはいった。)

「お越しいただいて本当にありがとうございます」彼は言った。

(「なにもかもそのままのじょうたいでのこしています」)

「何もかもそのままの状態で残しています」

(「あれはどうなんだ!」ほーむずはこみちをさしてこたえた。)

「あれはどうなんだ!」ホームズは小道を指して答えた。

(「もしやぎゅうのむれがとおっても、これいじょうめちゃめちゃにはできん。)

「もし野牛の群れが通っても、これ以上めちゃめちゃには出来ん。

(しかしぐれっぐそん、とうぜんじぶんなりのけつろんがでたから、)

しかしグレッグソン、当然自分なりの結論が出たから、

(きみはこれをきょかしたんだろうな」)

君はこれを許可したんだろうな」

(「わたしはいえのなかでやることがいっぱいあったので」)

「私は家の中でやる事がいっぱいあったので」

(けいぶはいいわけするようにいった。「どうりょうの、)

警部は言い訳するように言った。「同僚の、

(れすとれーどもここにきています。このけんについてはかれにまかせていました」)

レストレードもここに来ています。この件については彼に任せていました」

(ほーむずはちらっとわたしをみてひにくっぽくまゆをつりあげた。)

ホームズはちらっと私を見て皮肉っぽく眉をつり上げた。

(「きみとれすとれーどのようなおとこがげんばにいれば、)

「君とレストレードのような男が現場にいれば、

(だいさんしゃがはっけんすることはほとんどないだろうな」かれはいった。)

第三者が発見することはほとんどないだろうな」彼は言った。

(ぐれっぐそんはまんぞくしたようにてをすりあわせた。)

グレッグソンは満足したように手を擦り合わせた。

(「わたしはできることはぜんぶやったとおもっています」かれはこたえた。)

「私は出来ることは全部やったと思っています」彼は答えた。

(「しかしきみょうなじけんで、)

「しかし奇妙な事件で、

(あなたがそういうじけんにきょうみがあるとしっていたので」)

あなたがそういう事件に興味があると知っていたので」

(「ここにつじばしゃできたのではないな?」ほーむずはたずねた。)

「ここに辻馬車で来たのではないな?」ホームズは尋ねた。

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