半七捕物帳 津の国屋18
関連タイピング
-
プレイ回数179かな142打
-
プレイ回数3847長文1069打
-
プレイ回数1135歌詞かな940打
-
プレイ回数3971歌詞かな1406打
-
プレイ回数681長文2054打
-
プレイ回数117長文かな3030打
-
プレイ回数570長文1666打
-
プレイ回数936長文1162打
問題文
(じぶんがせわをしたほうこうにんがひょうばんがいいのはけっこうであるが、もしつのくにやのうちわに)
自分が世話をした奉公人が評判がいいのは結構であるが、もし津の国屋の内輪に
(そんなひみつがしのんでいるとすれば、そのほうこうにんをしゅうせんしたじぶんのみのうえにも)
そんな秘密が忍んでいるとすれば、その奉公人を周旋した自分の身の上にも
(どんなかかりあいがおこらないともかぎらないと、もじはるはそれがために)
どんな係り合いが起らないとも限らないと、文字春はそれがために
(またよけいなくろうをました。しかしそののちもべつになにごともなしにすぎて、ことしももう)
また余計な苦労を増した。併しその後も別に何事もなしに過ぎて、今年ももう
(しわすのはじめになった。そこざむいひがいくにちもつづいて、ときどきにおおきいあられがふった。)
師走のはじめになった。底寒い日が幾日もつづいて、時々に大きい霰が降った。
(「おい、ししょう。もうおきたかえ」)
「おい、師匠。もう起きたかえ」
(しわすのよっかのあさ、もういつつ(ごぜんはちじ)をすぎたころに、だいくのかねきちが)
師走の四日の朝、もう五ツ(午前八時)を過ぎたころに、大工の兼吉が
(もじはるのうちのこうしをあけた。)
文字春の家の格子をあけた。
(「あら、とうりょう。なんぼあたしだって・・・・・・。もうこのとおり、あさのおけいこを)
「あら、棟梁。なんぼあたしだって……。もうこのとおり、朝のお稽古を
(ふたりもかたづけたんですよ。せっきしわすじゃありませんか」)
二人も片付けたんですよ。節季師走じゃありませんか」
(「そんなにはやおきをしているならしっているのかえ。つのくにやのいっけんを・・・・・・」)
「そんなに早起きをしているなら知っているのかえ。津の国屋の一件を……」
(「つのくにやの・・・・・・。どうしたんです。なにかあったんですか」と、もじはるは)
「津の国屋の……。どうしたんです。何かあったんですか」と、文字春は
(ながひばちのうえへくびをのばした。)
長火鉢の上へ首を伸ばした。
(「とんでもねえことができてしまって、ほんとうにおどろいたよ」と、かねきちも)
「とんでもねえことが出来てしまって、ほんとうに驚いたよ」と、兼吉も
(ひばちのまえにすわって、まずいっぷくすった。)
火鉢の前に坐って、まず一服すった。
(「おかみさんとばんとうさんがどぞうのなかでくびをくくったんだ」)
「おかみさんと番頭さんが土蔵の中で首をくくったんだ」
(「まあ・・・・・・」)
「まあ……」
(「まったくびっくりするじゃねえか。なんということだ。あきれてしまった」)
「全くびっくりするじゃねえか。何ということだ。呆れてしまった」
(かねきちはののしるようにいいながら、ひばちのこべりできせるをぽんぽんとたたくと、)
兼吉は罵るように云いながら、火鉢の小縁で煙管をぽんぽんと叩くと、
(もじはるのかおのいろははいのようになった。)
文字春の顔の色は灰のようになった。
(「どうしたんでしょうねえ、しんじゅうでしょうか」と、かのじょはこごえできいた。)
「どうしたんでしょうねえ、心中でしょうか」と、彼女は小声で訊いた。
(「まあ、そうらしい。べつにかきおきらしいものもみあたらねえようだが、)
「まあ、そうらしい。別に書置らしいものも見当たらねえようだが、
(おとことおんながいっしょにしんでいりゃまずおさだまりのしんじゅうだろうよ」)
男と女が一緒に死んでいりゃまずお定まりの心中だろうよ」
(「だって、あんまりとしがちがうじゃありませんか」)
「だって、あんまり年が違うじゃありませんか」
(「そこがしあんのほかとでもいうんだろう。でいりばのことを)
「そこが思案のほかとでもいうんだろう。出入り場のことを
(わるくいいたかねえが、あのおかみさんもいったいよくねえからね。)
悪く云いたかねえが、あのおかみさんも一体よくねえからね。
(いつかもはなしたとおり、おやすというもらいこをむごくおいだしたのも、)
いつかも話した通り、お安という貰い娘をむごく追い出したのも、
(おかみさんがだんなにふっこんだにそういねえ。そんなことがやっぱり)
おかみさんが旦那に吹っ込んだに相違ねえ。そんなことがやっぱり
(たたっているのかもしれねえよ。なにしろつのくにやはおおさわぎさ。ふたりもいちどに)
祟っているのかも知れねえよ。なにしろ津の国屋は大騒ぎさ。二人も一度に
(しんでいるんだから、ないぶんにもなんにもなることじゃあねえ。とりあえずしゅじんを)
死んでいるんだから、内分にも何にもなることじゃあねえ。取りあえず主人を
(したやからよんでくるやら、ごけんしをうけるやら、うちじゅうはひっくりかえるような)
下谷から呼んでくるやら、御検視を受けるやら、家じゅうは引っくり返るような
(そうどうだ。なんといってもでいりばのことだから、おいらもけさからてつだいに)
騒動だ。なんと云っても出入り場のことだから、おいらも今朝から手伝いに
(いってはいるが、むすめとほうこうにんばかりじゃあどうすることもできねえので)
行ってはいるが、娘と奉公人ばかりじゃあどうすることも出来ねえので
(よわっている」 「そうでしょうねえ」)
弱っている」 「そうでしょうねえ」
(おかくのはなしがいまさらのようにおもいあわされて、もじはるはふかいためいきをついた。)
お角の話が今更のように思い合わされて、文字春は深い溜息をついた。
(「それでごけんしはもうすんだんですか」)
「それで御検視はもう済んだんですか」
(「いや、ごけんしはいまきたところだ。そんなところにうろついていると)
「いや、御検視は今来たところだ。そんなところにうろついていると
(めんどうだから、おいらはちょいとはずしてきて、ごけんしのひきあげたころに)
面倒だから、おいらはちょいとはずして来て、御検視の引き揚げた頃に
(またでかけようとおもっているんだ」)
又出かけようと思っているんだ」
(「それじゃあ、あたしももうすこしあとにいきましょう。そんなわけじゃあ)
「それじゃあ、あたしももう少し後に行きましょう。そんな訳じゃあ
(おくやみというのもへんだけれど、まんざらしらないかおもできませんからね」)
お悔やみというのも変だけれど、まんざら知らない顔も出来ませんからね」
(「そりゃあそうさ。ましてししょうはあすこのうちまでゆうれいをあんないしてきたんだもの」)
「そりゃあそうさ。まして師匠はあすこの家まで幽霊を案内して来たんだもの」
(「いやですよ」と、もじはるはなきごえをだした。「ごしょうですから、)
「いやですよ」と、文字春は泣き声をだした。「後生ですから、
(もうそんなはなしはよしてくださいよ。なんのいんがで、あたしはこんなかかりあいに)
もうそんな話は止して下さいよ。なんの因果で、あたしはこんな係り合いに
(なったんでしょうねえ」)
なったんでしょうねえ」