半七捕物帳 広重と河獺3
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問題文
(ぐんえもんをかえしたあとで、しんべえはすぐにかんだのはんしちをよんで、)
軍右衛門を帰したあとで、新兵衛はすぐに神田の半七を呼んで、
(そのいっけんをあらましはなしてきかせた。)
その一件をあらまし話してきかせた。
(「まずそういうわけなんだから、なわばりちがいかもしれねえが、)
「まずそういう訳なんだから、縄張り違いかも知れねえが、
(ひとつふみこんでやってみてくれ。こういうしごとはおまえにかぎる。)
一つ踏み込んでやってみてくれ。こういう仕事はお前にかぎる。
(いや、おだてるんじゃねえが、やしきのしごとはちっとめんどうだから)
いや、おだてるんじゃねえが、屋敷の仕事はちっと面倒だから
(だれでもいいというわけにもいかねえ。さむいところをごくろうだが、)
誰でも好いというわけにも行かねえ。寒いところを御苦労だが、
(なにぶんたのむよ」)
なにぶん頼むよ」
(「かしこまりました。まあ、なんとかたぐってみましょう」と、)
「かしこまりました。まあ、なんとか手繰ってみましょう」と、
(はんしちはかんがえながらいった。)
半七は考えながら云った。
(「てんぐがさらうというのもいまどきははやらねえ」と、しんべえはわらった。)
「天狗がさらうというのも今どきは流行らねえ」と、新兵衛は笑った。
(「なにかこれにはあやがあるだろう。あらってみたらまたおもしろいたねが)
「何かこれには綾があるだろう。洗ってみたら又面白い種が
(あるかもしれねえぜ」)
あるかも知れねえぜ」
(「そうかもしれません。なにしろこれからたまちへいって、)
「そうかも知れません。なにしろこれから田町へ行って、
(ごようにんにあってきましょう」)
御用人に逢って来ましょう」
(はんしちははっちょうぼりをでて、ぞうりのつまさきをあさくさへむけた。くろぬまのやしきの)
半七は八丁堀を出て、草履の爪先を浅草へむけた。黒沼の屋敷の
(つうようもんをくぐってようにんをたずねると、ぐんえもんはまちかねていたように)
通用門をくぐって用人をたずねると、軍右衛門は待ち兼ねていたように
(かれをじぶんのながやへあんないした。)
彼を自分の長屋へ案内した。
(「なにかごめいわくないっけんがしゅったいしましたそうで、)
「なにか御迷惑な一件が出来(しゅったい)しましたそうで、
(おさっしもうしあげます」と、はんしちはまずあいさつした。)
お察し申し上げます」と、半七はまず挨拶した。
(「まったくおさっしください」と、ぐんえもんはすこしはげかかったひたいぎわに)
「まったくお察しください」と、軍右衛門は少し禿げかかった額ぎわに
(おおきいしわをきざんでみせた。「なにぶんにもすじみちのわからぬいっけんで、)
大きい皺をきざんで見せた。「なにぶんにも筋道の判らぬ一件で、
(てまえどももまことにめいわくしている。えたいのわからぬこむすめのしがいを)
手前共もまことに迷惑している。得体のわからぬ小娘の死骸を
(そのままとりすててしまえばなんのしさいもないことであるが、)
そのまま取り捨ててしまえば何の仔細もない事であるが、
(しゅじんがどうしてもふしょうちで、そのみよりのものをさがしだして)
主人がどうしても不承知で、その身よりの者を探し出して
(かならずひきわたしてやれという。さりとてあてどもないたずねもの、)
必ず引き渡してやれという。さりとて当途(あてど)もない尋ねもの、
(だいいちにそのしがいがどこをどうしてやしきのやねのうえになげこまれたのか、)
第一にその死骸が何処をどうして屋敷の屋根の上に投げ込まれたのか、
(それすらいっこうにけんとうのつかぬようなしまつで、われわれはなはだこんきゃくしているが、)
それすら一向に見当のつかぬような始末で、われわれ甚だ困却しているが、
(そちらはしょうばいがら、なんとかすじみちをたどってたんさくしてはくださるまいか」)
そちらは商売柄、なんとか筋道をたどって探索しては下さるまいか」
(「へえ、こやまのだんなからもおはなしがございましたから、)
「へえ、小山の旦那からもお話しがございましたから、
(なんとかひとはたらきいたしたいとぞんじておりますが・・・・・・。)
何とか一と働きいたしたいと存じて居りますが……。
(そこでそのしがいというのはどこにございます。てらのほうへでも)
そこでその死骸というのは何処にございます。寺の方へでも
(おあずけになりましたか」)
お預けになりましたか」
(「いや、ゆうこくまではてまえのながやにおいてある、いちおうみてください」)
「いや、夕刻までは手前の長屋に置いてある、一応見てください」
(ようにんのながやはさんじょうとろくじょうとはちじょうのみまにすぎなかった。)
用人の長屋は三畳と六畳と八畳の三間に過ぎなかった。
(そのはちじょうのざしきのかたすみに、ちいさいむすめのしがいがきたまくらにねかされて、)
その八畳の座敷の片隅に、小さい娘の死骸が北枕に寝かされて、
(さすがにみずとせんこうとがそなえてあった。はんしちははいよってむすめのしがいをのぞいた。)
さすがに水と線香とが供えてあった。半七は這い寄って娘の死骸をのぞいた。
(ねんのためにしがいをだきおこしてからだじゅうをあらためてみた。)
念のために死骸を抱き起こして身体じゅうをあらためて見た。
(「すっかりはいけんしました」と、はんしちはしがいをもとのようにねかしながらいった。)
「すっかり拝見しました」と、半七は死骸を元のように寝かしながら云った。
(それからたってえんがわへでて、ちょうずばちでりょうてをきよめてきて、)
それから起って縁側へ出て、手水鉢で両手を浄(きよ)めて来て、
(しばらくだまってかんがえていた。)
しばらく黙って考えていた。
(「わかりましたか」と、ぐんえもんはまちかねてさいそくした。)
「判りましたか」と、軍右衛門は待ち兼ねて催促した。
(「いや、すぐにはどうも・・・・・・。そこで、こころえのためにうかがって)
「いや、すぐにはどうも……。そこで、心得のために伺って
(おきたいのでございますが、ゆうべからけさにかけて、)
置きたいのでございますが、ゆうべから今朝にかけて、
(べつにおこころあたりはなんにもございませんでしたか」)
別にお心当たりはなんにもございませんでしたか」