半七捕物帳 広重と河獺13
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問題文
(じゅうえもんはまさきちをみしっているといった。まさきちもじゅうえもんをみしっていると)
十右衛門は政吉を見識っていると云った。政吉も十右衛門を見識っていると
(いった。しかしじゅうえもんがなにものかにおそわれたときはいっさいむちゅうで、)
云った。しかし十右衛門が何者かに襲われた時は一切夢中で、
(だれがどうしたものかちっともおぼえていないというのである。)
誰がどうしたものかちっとも覚えていないと云うのである。
(これにははんしちもすこしよわった。そのうちふとおもいだしたことがあったので、)
これには半七も少し弱った。そのうちふと思い出したことがあったので、
(かれはじゅうえもんにきいた。)
彼は十右衛門に訊いた。
(「わたしはおまえさんのみせのものにきいてしっているが、おまえさんは)
「わたしはお前さんの店の者に聞いて知っているが、おまえさんは
(かおやくびにはそれほどのけがをしながら、うちへかえってきたときには)
顔や首にはそれほどの怪我をしながら、家へ帰って来た時には
(ちもたいていとまっていたというが、どこでちどめのてあてをしてきなすったえ」)
血も大抵止まっていたというが、どこで血止めの手当をして来なすったえ」
(「あさくさへまいりましてから、かごやにたのんでみずをくんできてもらいました」)
「浅草へまいりましてから、駕籠屋にたのんで水を汲んで来て貰いました」
(「かごやにもたのんだかもしらねえが、あらものやでもみずをくんでもらやあ)
「駕籠屋にも頼んだかも知らねえが、荒物屋でも水を汲んで貰やあ
(しませんでしたか」)
しませんでしたか」
(じゅうえもんはぎょっとしたらしい。かれはだまってうつむいてしまった。)
十右衛門はぎょっとしたらしい。かれは黙って俯向いてしまった。
(「なぜそれをかくしなさる。それがわたしにわからねえ。あのきんじょでよるおそくまで)
「なぜそれを隠しなさる。それが私に判らねえ。あの近所で夜遅くまで
(おきているのはあらものやだから、わたしはきのうあすこへいって)
起きているのは荒物屋だから、わたしはきのうあすこへ行って
(なにかこころあたりのことはなかったかときくと、はじめはあいまいなことを)
何か心当りのことはなかったかと訊くと、はじめはあいまいなことを
(いっていたが、しまいにはとうとうはくじょうして、かみさんがおまえさんに)
云っていたが、しまいにはとうとう白状して、かみさんがお前さんに
(いっしゅももらったことまではなしましたよ。そのいっしゅはさいふに)
一朱ももらったことまで話しましたよ。その一朱は財布に
(いれてあったんじゃありませんか」)
いれてあったんじゃありませんか」
(「それはかみいれにいれてありましたのでございます。さいふはひもをつけて)
「それは紙入れに入れてありましたのでございます。財布は紐をつけて
(くびにかけておりました」)
頸にかけて居りました」
(「そうですか。そこでいまいうとおり、なぜあらものやのふうふにくちどめを)
「そうですか。そこで今云う通り、なぜ荒物屋の夫婦に口止めを
(しなすったんだ」)
しなすったんだ」
(「そんなことがせけんにきこえましてはがいぶんがわるいともぞんじまして・・・・・・。)
「そんなことが世間にきこえましては外聞が悪いとも存じまして……。
(しかしさいふまでふんしついたしましては、もうないぶんにもあいなりませぬので、)
しかし財布まで紛失いたしましては、もう内分にも相成りませぬので、
(おかみにはおてすうをかけておそれいります」)
お上にはお手数をかけて恐れ入ります」
(いいながら、かれはまさきちをじろりとみた。そのねたましげなめのひかりを)
云いながら、彼は政吉をじろりと視た。その妬ましげな眼のひかりを
(はんしちはみのがさなかった。これはあくまでもこのじけんをものとりのように)
半七は見逃さなかった。これはあくまでも此の事件を物取りのように
(いいたてて、まさきちをつみにおとそうとするかれのしたごころであるらしいと、)
云い立てて、政吉を罪に落とそうとする彼の下心であるらしいと、
(はんしちはすいりょうした。わかいめかけにたいするろうじんのしっとーーそれがねとなって)
半七は推量した。若い妾にたいする老人の嫉妬ーーそれが根となって
(このうったえをおこしたものだろうと、はんしちはかんていした。)
この訴えを起したものだろうと、半七は鑑定した。
(それにしてもかれのうったえがまったくのうそではないのは、げんにまさきちが)
それにしても彼の訴えがまったくの嘘ではないのは、現に政吉が
(にりょうのかねをひろったことによってあきらかにしょうこだてられる。)
二両の金を拾ったことに因ってあきらかに証拠立てられる。
(じゅうえもんのうったえはどこまでがほんとうで、まさきちのもうしたてはどこまでが)
十右衛門の訴えは何処までがほんとうで、政吉の申し立ては何処までが
(ほんとうか、そのすんぽうをはかるものさしをみつけだすのに)
ほんとうか、その寸法を測る尺度(ものさし)を見つけ出すのに
(はんしちもくるしんだ。そのひもたしかなしらべはつかないので、)
半七も苦しんだ。その日も確かな調べは付かないので、
(じゅうえもんはやどへさげられ、まさきちはひとまずはっちょうぼりのおおばんやへおくられた。)
十右衛門は宿へ下げられ、政吉はひとまず八丁堀の大番屋へ送られた。
(このままですめばまさきちはすこぶるふりえきであった。いかにかれがむじつを)
このままで済めば政吉は頗る不利益であった。いかに彼が冤罪(むじつ)を
(うったえても、こばんにまいをもっていたというしょうこがあるいじょう、なかなか)
訴えても、小判二枚を持っていたという証拠がある以上、なかなか
(そのうたがいははれそうもなかった。しかもかれはこううんであった。)
その疑いは晴れそうもなかった。しかも彼は幸運であった。
(むごんのしょうにんがげんもりばしのかわしもにあらわれて、このじけんのしんそうをせつめいしてくれた。)
無言の証人が源森橋の川しもにあらわれて、この事件の真相を説明してくれた。