半七捕物帳 猫騒動6

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第12話

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問題文

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(そのさけびをききつけてきんじょのひともかけてきた。ねこばばがしんだといううわさが)

その叫びを聞き付けて近所の人も駈けて来た。猫婆が死んだという噂が

(ながやじゅうからうらまちまでつたわって、いえぬしもおどろいてかけつけた。)

長屋じゅうから裏町まで伝わって、家主もおどろいて駈け付けた。

(ひとくちにとんしというけれど、じっさいはびょうきでしんだのか、)

一と口に頓死というけれど、実際は病気で死んだのか、

(ひとにころされたのか、それがまだはっきりしなかった。)

人に殺されたのか、それがまだ判然(はっきり)しなかった。

(「それにしてもむすこはどうしたんだろう」)

「それにしても息子はどうしたんだろう」

(ばんだいやてんびんぼうがほうりだしてあるのをみると、しちのすけはもうかえって)

盤台や天秤棒がほうり出してあるのを見ると、七之助はもう帰って

(きたらしいが、どこでなにをしているのか、このさわぎのなかへかげをみせないのも)

来たらしいが、どこで何をしているのか、この騒ぎのなかへ影を見せないのも

(ふしぎにおもわれた。ともかくもいしゃをよんできて、おまきのしがいを)

不思議に思われた。ともかくも医者を呼んで来て、おまきの死骸を

(あらためてもらうと、からだにいじょうはない、あたまののうてんよりはすこしまえのほうに)

あらためて貰うと、からだに異状はない、頭の脳天よりは少し前の方に

(いっかしょのうちきずらしいものがみとめられるが、それもひとからうたれたのか、)

一ヵ所の打ち傷らしいものが認められるが、それも人から打たれたのか、

(あるいはあがりはなからころげおちるはずみになにかでうったのか、)

あるいは上がり端(はな)から転げ落ちるはずみに何かで打ったのか、

(いしゃにもたしかにみきわめがつかないらしく、けっきょくおまきはそっちゅうでたおれたという)

医者にも確かに見極めが付かないらしく、結局おまきは卒中で倒れたという

(ことになった。びょうしならばべつにむずかしいこともないと、いえぬしもまず)

ことになった。病死ならば別にむずかしいこともないと、家主もまず

(あんしんしたが、それにしてもしちのすけのゆくえがわからなかった。)

安心したが、それにしても七之助のゆくえが判らなかった。

(「むすこはどうしたんだろう」)

「息子はどうしたんだろう」

(おまきのしがいをとりまいて、こうしたうわさがくりかえされているところへ、)

おまきの死骸を取りまいて、こうした噂が繰り返されているところへ、

(しちのすけがあおいかおをしてぼんやりかえってきた。となりちょうにすんでいる)

七之助が蒼い顔をしてぼんやり帰って来た。隣り町に住んでいる

(どうしょうばいのさんきちというおとこもついてきた。さんきちはもうさんじゅういじょうで、)

同商売の三吉という男もついて来た。三吉はもう三十以上で、

(みるからにきのきいた、いせいのいいおとこであった。)

見るからに気の利いた、威勢の好い男であった。

(「いや、どうもみなさん。ありがとうございました」と、さんきちもひとびとに)

「いや、どうも皆さん。ありがとうございました」と、三吉も人々に

など

(あいさつした。「じつはいま、しちのすけがまっさおになってかけこんできて、)

挨拶した。「実は今、七之助がまっ蒼になって駈け込んで来て、

(しょうばいからかえってうちへはいると、おふくろがどまにころがりおちてしんでいたが、)

商売から帰って家へはいると、おふくろが土間に転がり落ちて死んでいたが、

(いったいどうしたらよかろうかと、こういうんです。そりゃあおれのところまで)

一体どうしたらよかろうかと、こう云うんです。そりゃあ俺のところまで

(そうだんにくることはねえ、なぜはやくおおやさんやおながやのひとたちにしらせて、)

相談に来ることはねえ、なぜ早く大家さんやお長屋の人達にしらせて、

(なんとかしまつをつけねえんだとこごとをいったようなわけなんですが、)

なんとか始末を付けねえんだと叱言(こごと)を云ったような訳なんですが、

(なにしろまだとしがわけえもんですから、ただもうめんくらってしまって、)

なにしろまだ年が若えもんですから、唯もう面喰らってしまって、

(むちゅうでわたしのところへとんできたという。それもまあむりはねえ、)

夢中で私のところへ飛んで来たという。それもまあ無理はねえ、

(ともかくもこれからいっしょにいって、みなさんによろしくおねがいもうしてやろうと、)

ともかくもこれから一緒に行って、皆さんに宜しくおねがい申してやろうと、

(こうしてでてまいりましたものでございますが、いったいまあどうしたんで)

こうして出てまいりましたものでございますが、一体まあどうしたんで

(ございましょうね」)

ございましょうね」

(「いや、べつにしさいはない。しちのすけのおふくろはきゅうびょうでしにました。)

「いや、別に仔細はない。七之助のおふくろは急病で死にました。

(おいしゃのしんだんではそっちゅうだということで・・・・・・」と、いえぬしはおちつきがおにこたえた。)

お医者の診断では卒中だということで……」と、家主はおちつき顔に答えた。

(「へえ、そっちゅうですか。ここのおふくろはさけものまねえのに、やっぱり)

「へえ、卒中ですか。ここのおふくろは酒も飲まねえのに、やっぱり

(そっちゅうなんぞになりましたかね。おっしゃるとおり、きゅうしというのじゃあ)

卒中なんぞになりましたかね。おっしゃる通り、急死というのじゃあ

(どうもしかたがございません。しちのすけ、ないてもしようがねえ、)

どうも仕方がございません。七之助、泣いてもしようがねえ、

(じゅみょうだとあきらめろよ」と、さんきちはしちのすけをはげますようにいった。)

寿命だとあきらめろよ」と、三吉は七之助を励ますように云った。

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