半七捕物帳 猫騒動9

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第12話

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問題文

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(ひょうばんのこうこうむすこがおやごろしのたいざいをおかそうとはおもわれないので、)

評判の孝行息子が親殺しの大罪を犯そうとは思われないので、

(はんしちもすこしまよった。しかしねこばばがともかくもすなおにねこをわたしたいじょう、)

半七も少し迷った。しかし猫婆がともかくも素直に猫を渡した以上、

(ながやのものがかれをころすはずもあるまいとおもわれた。むすこのしわざでもなし、)

長屋の者がかれを殺す筈もあるまいと思われた。息子の仕業でも無し、

(ながやのものどものしわざでもないとすれば、ねこばばのしはいしゃのしんだんのとおり、)

長屋の者どもの仕業でもないとすれば、猫婆の死は医者の診断の通り、

(やはりそっちゅうのとんしということにきめてしまうよりほかはなかったが、)

やはり卒中の頓死ということに決めてしまうよりほかはなかったが、

(はんしちのうたがいはまだとけなかった。いくらとしがわかいといっても、)

半七の疑いはまだ解けなかった。いくら年が若いといっても、

(むすこはもうはたちにもなっている。ははのしをきんじょのだれにも)

息子はもう二十歳(はたち)にもなっている。母の死を近所の誰にも

(しらせないで、わざわざとなりちょうのどうしょうばいのうちまでかけていったということが、)

知らせないで、わざわざ隣り町の同商売の家まで駈けて行ったということが、

(どうもかれのふにおちなかった。といって、それほどのこうこうむすこがどうして)

どうも彼の腑に落ちなかった。と云って、それほどの孝行息子がどうして

(げんざいのははをざんこくにころしたか、そのりくつはなかなかかんがえだせなかった。)

現在の母を残酷に殺したか、その理窟はなかなか考え出せなかった。

(「なにしろ、もういちどたのんでおくが、おめえよくきをつけてくれ。)

「なにしろ、もう一度頼んでおくが、おめえよく気をつけてくれ。

(ご、ろくにちたつと、おれがようすをききにくるから」)

五、六日経つと、おれが様子を訊きに来るから」

(はんしちはねんをおしてかえった。くがつのすえにはあめがまいにちふりつづいた。)

半七は念を押して帰った。九月の末には雨が毎日降りつづいた。

(それからいつかほどたつと、くまぞうのほうからたずねてきた。)

それから五日ほど経つと、熊蔵の方からたずねてきた。

(「よくふりますね。さっそくですがれいのねこばばあのいっけんはなかなかあたりが)

「よく降りますね。早速ですが例の猫ばばあの一件はなかなか当りが

(つきませんよ。むすこはあいかわらずまいにちかせぎにでています。そうして、)

付きませんよ。息子は相変わらず毎日かせぎに出ています。そうして、

(しょうばいをはやくしまって、かえりにはきっとおふくろのてらまいりにいっているそうで、)

商売を早くしまって、帰りにはきっとおふくろの寺参りに行っているそうで、

(ながやのものもみんなほめていますよ。それにね、ながやのやつらはねこばばが)

長屋の者もみんな褒めていますよ。それにね、長屋の奴らは猫婆が

(くたばっていいきみだぐらいにおもっているんですから、)

斃死(くたば)って好い気味だぐらいに思っているんですから、

(だれもせんぎするものなんぞありゃしません。いえぬしだってじしんばんだって、)

誰も詮議する者なんぞありゃしません。家主だって自身番だって、

など

(なんともおもっていやあしませんよ。そいういうわけだから、)

なんとも思っていやあしませんよ。そいういうわけだから、

(どうにもこうにもてのつけようがなくなって・・・・・・」)

どうにもこうにも手の着けようがなくなって……」

(はんしちはしたうちした。)

半七は舌打ちした。

(「そこをなんとかするのがごようじゃあねえか。もうてめえひとりにあずけちゃあ)

「そこを何とかするのが御用じゃあねえか。もうてめえ一人にあずけちゃあ

(おかれねえ。あしたはおれがちょくせつにでばっていくからあんないしてくれ」)

置かれねえ。あしたはおれが直接に出張って行くから案内してくれ」

(あくるひもあきらしいいんきなあめがしょぼしょぼふっていたが、)

あくる日も秋らしい陰気な雨がしょぼしょぼ降っていたが、

(くまぞうはやくそくどおりにむかいにきた。ふたりはかさをならべてかたもんぜんへでていった。)

熊蔵は約束通りに迎いに来た。二人は傘をならべて片門前へ出て行った。

(ろじのなかはおもいのほかにひろかった。まっすぐにはいると、)

路地のなかは思いのほかに広かった。まっすぐにはいると、

(ひだりがわにおおきいいどがあった。そのいどがわについてひだりへまがると、)

左側に大きい井戸があった。その井戸側について左へ曲がると、

(またかぎのてにいくけんかのながやがつづいていた。しかしながやはみぎがわばかりで、)

また鉤の手に幾軒かの長屋がつづいていた。しかし長屋は右側ばかりで、

(ひだりがわのあきちはこうやのほしばにでもなっているらしく、ところまだらに)

左側の空地は紺屋(こうや)の干場にでもなっているらしく、所まだらに

(はえているひくいあきくさがあめにぬれて、いっぴきののらいぬがさむそうなかおをして)

生えている低い秋草が雨にぬれて、一匹の野良犬が寒そうな顔をして

(えさをあさっていた。)

餌をあさっていた。

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