半七捕物帳 猫騒動10
岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第12話
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問題文
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(「ここですよ」と、くまぞうはこごえでゆびさした。ねこばばのみなみどなりは)
「此処ですよ」と、熊蔵は小声で指さした。猫婆の南隣りは
(まだあきやになっているらしかった。ふたりはきたどなりのだいくのうちへはいった。)
まだ空家になっているらしかった。二人は北隣りの大工の家へはいった。
(くまぞうはだいくをしっていた。)
熊蔵は大工を識っていた。
(「ごめんください。わるいおてんきです」)
「ごめん下さい。悪いお天気です」
(そとからこえをかけると、わかいにょうぼうのおはつがでてきた。くまぞうはかまちに)
外から声をかけると、若い女房のお初が出て来た。熊蔵は框(かまち)に
(こしをかけてあいさつした。とちゅうでうちあわせがしてあるので、)
腰をかけて挨拶した。途中で打ち合わせがしてあるので、
(くまぞうはこのごろこのきんじょへひっこしてきたひとだといってはんしちをおはつにしょうかいした。)
熊蔵はこの頃この近所へ引っ越して来た人だと云って半七をお初に紹介した。
(そうして、こんどひっこしてきたうちはだいぶいたんでいるので、こっちのとうりょうに)
そうして、今度引っ越して来た家はだいぶ痛んでいるので、こっちの棟梁に
(ていれをしてもらいたいといった。そのおについて、はんしちもていねいにいった。)
手入れをして貰いたいと云った。その尾について、半七も丁寧に云った。
(「なにぶんこっちへこしてまいりましたばかりで、ごきんじょのだいくさんに)
「何分こっちへ越してまいりましたばかりで、御近所の大工さんに
(だれもおなじみがないもんですから、くまさんにたのんでこちらへおねがいに)
だれもお馴染みがないもんですから、熊さんに頼んでこちらへお願いに
(でましたので・・・・・・」)
出ましたので……」
(「さようでございましたか。おやくにはたちますまいが、こののちともに)
「左様でございましたか。お役には立ちますまいが、この後(のち)ともに
(なにぶんよろしくおねがいもうします」)
何分よろしくお願い申します」
(とくいばがいっけんふえることとおもって、おはつはえがおをつくってじょさいなくあいさつした。)
得意場が一軒ふえることと思って、お初は笑顔をつくって如才なく挨拶した。
(ふたりをむりにうちにしょうじいれて、たばこぼんやちゃなどをだした。)
二人を無理に内に招じ入れて、煙草盆や茶などを出した。
(そとのあめのおとはまだやまなかった。ひるでもうすぐらいだいどころではねずみのかけまわる)
外の雨の音はまだ止まなかった。昼でも薄暗い台所では鼠の駈けまわる
(おとがときどきにきこえた。)
音がときどきに聞えた。
(「おたくもねずみがでますねえ」と、はんしちはなにげなくいった。)
「お宅も鼠が出ますねえ」と、半七は何気なく云った。
(「ごらんのとおりのふるいうちだもんですから、ねずみがあばれてこまります」と、)
「御覧の通りの古い家だもんですから、鼠があばれて困ります」と、
など
(おはつはだいどころをみかえっていった。)
お初は台所を見返って云った。
(「ねこでもおかいになっては・・・・・・」)
「猫でもお飼いになっては……」
(「ええ」と、おはつはあいまいなへんじをしていた。かのじょのかおにはくらいかげがさした。)
「ええ」と、お初はあいまいな返事をしていた。彼女の顔には暗い影がさした。
(「ねこといえば、となりのばあさんのうちはどうしましたえ」と、)
「猫といえば、隣りの婆さんの家はどうしましたえ」と、
(くまぞうはよこあいからくちをだした。「むすこはあいかわらずせいだして)
熊蔵は横合いから口を出した。「息子は相変わらず精出して
(かせいでいるんですか」)
稼いでいるんですか」
(「ええ、あのひとはかんしんによくかせぎますよ」)
「ええ、あの人は感心によく稼ぎますよ」
(「こりゃあここだけのはなしだが・・・・・・」とくまぞうはこえをひくめた。)
「こりゃあ此処だけの話だが……」と熊蔵は声を低めた。
(「なんだかおもてちょうのほうではへんなうわさをしているようですが・・・・・・」)
「なんだか表町の方では変な噂をしているようですが……」
(「へえ、そうでございますか」
おはつのかおいろがまたかわった。)
「へえ、そうでございますか」
お初の顔色がまた変った。
