『怪人二十面相』江戸川乱歩29
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「ええ、そうですが」けげんなかおのしょうねんのかおをみて、)
「ええ、そうですが」 けげんな顔の少年の顔を見て、
(しんしはうなずきながら、「わたしは、がいむしょうのつじの)
紳士はうなずきながら、「私は、外務省の辻野
(というものだが、このれっしゃであけちさんがかえられることが)
という者だが、この列車で明智さんが帰られることが
(わかったものだから、ひこうしきにおでむかえにきた)
分かったものだから、非公式にお出迎えに来た
(のですよ。すこしないみつのようけんもあるのでね」と)
のですよ。少し内密の用件もあるのでね」と
(せつめいしました。「ああ、そうですか。ぼくは、せんせいの)
説明しました。「ああ、そうですか。ぼくは、先生の
(じょしゅのこばやしっていうんです」ぼうしをとって、)
助手の小林っていうんです」 帽子を取って、
(おじぎをすると、つじのしはいっそうにこやかなかおに)
お辞儀をすると、辻野氏は一層にこやかな顔に
(なって、「ああ、きみのなまえはきいていますよ。)
なって、「ああ、きみの名前は聞いていますよ。
(じつは、いつかしんぶんにでたしゃしんで、きみのかおを)
実は、いつか新聞に出た写真で、きみの顔を
(みおぼえていたものだから、こうしてこえをかけた)
見覚えていたものだから、こうして声をかけた
(のですよ。にじゅうめんそうとのいっきうちはみごとでしたねえ。)
のですよ。二十面相との一騎打ちは見事でしたねえ。
(きみのにんきは、たいしたものですよ。わたしのうちの)
きみの人気は、大したものですよ。わたしのうちの
(こどもたちもだいのこばやしふぁんです。ははは」と、)
子どもたちも大の小林ファンです。ハハハ」と、
(しきりにほめたてるのです。こばやしくんはすこしはずかしく)
しきりにほめたてるのです。 小林君は少し恥ずかしく
(なって、ぱっとかおをあかくしないではいられません)
なって、パッと顔を赤くしないではいられません
(でした。「にじゅうめんそうといえば、しゅうぜんじではあけちさんの)
でした。「二十面相といえば、修善寺では明智さんの
(なまえをいつわったりして、ずいぶんおもいきったまねを)
名前をいつわったりして、ずいぶん思いきった真似を
(するね。それに、けさのしんぶんでは、いよいよ)
するね。それに、今朝の新聞では、いよいよ
(こくりつはくぶつかんをおそうっていうじゃないか。)
国立博物館を襲うっていうじゃないか。
(じつにけいさつをばかにしきった、あきれたたいどだ。)
実に警察をバカにしきった、あきれた態度だ。
(けっして、そのままにはしておけませんよ。)
決して、そのままにはしておけませんよ。
(あいつをたたきつぶすためだけに、あけちさんが)
あいつを叩きつぶすためだけに、明智さんが
(かえってこられるのを、ぼくはまちかねていたんだ」)
帰ってこられるのを、ぼくは待ちかねていたんだ」
(「ええ、ぼくもそうなんです。ぼく、いっしょうけんめい)
「ええ、ぼくもそうなんです。ぼく、一生懸命
(やってみましたけれど、とても、ぼくのちからには)
やってみましたけれど、とても、ぼくの力には
(およばないのです。せんせいにかたきうちをしてほしいと)
及ばないのです。先生にかたき討ちをしてほしいと
(おもって、まちかねていたんです」「きみがもっている)
思って、待ちかねていたんです」「きみが持っている
(しんぶんは、けさのものかい」「ええ、そうです。)
新聞は、今朝のものかい」「ええ、そうです。
(はくぶつかんをおそうっていうよこくじょうがのっているしんぶん)
博物館を襲うっていう予告状が載っている新聞
(です」こばやしくんはそういいながら、そのきじが)
です」 小林君はそう言いながら、その記事が
(のっているかしょをひろげてみせました。しゃかいめんのはんぶん)
載っている箇所をひろげて見せました。社会面の半分
(ほどがにじゅうめんそうのきじでうまっているのです。)
ほどが二十面相の記事で埋まっているのです。
(そのいみをかいつまんでかくと、きのう)
その意味をかいつまんで書くと、きのう
(にじゅうめんそうからこくりつはくぶつかんちょうにあててそくたつびんがとどいた)
二十面相から国立博物館長に宛てて速達便が届いた
(のですが、それには、はくぶつかんしょぞうのびじゅつひんをいってんも)
のですが、それには、博物館所蔵の美術品を一点も
(のこらず、ちょうだいするという、じつにおどろくべき)
残らず、ちょうだいするという、実に驚くべき
(せんこくぶんがしたためてあったのです。れいによって)
宣告文がしたためてあったのです。例によって
(じゅうにがつとおかという、ぬすみだすひづけまで、ちゃんと)
十二月十日という、盗み出す日付まで、ちゃんと
(めいきしてあるではありませんか。じゅうにがつとおか)
明記してあるではありませんか。十二月十日
(といえば、もうここのかかんしかないのです。)
といえば、もう九日間しかないのです。
(かいじんにじゅうめんそうのおそるべきやしんは、ちょうじょうにたっした)
怪人二十面相の恐るべき野心は、頂上に達した
(ようにおもわれます。あろうことか、こっかをあいてにして)
ように思われます。あろうことか、国家を相手にして
(たたかおうというのです。いままでおそったのは、)
戦おうというのです。今まで襲ったのは、
(みなこじんのざいほうで、にくむべきしわざにはちがい)
みな個人の財宝で、憎むべき仕業には違い
(ありませんが、よにれいのないことではありません。)
ありませんが、世に例のないことではありません。
(しかし、はくぶつかんをおそうというのは、こっかのしょゆうぶつを)
しかし、博物館を襲うというのは、国家の所有物を
(ぬすむことになるのです。むかしから、そんなだいそれた)
盗むことになるのです。昔から、そんなだいそれた
(どろぼうをもくろんだものが、ひとりだってあった)
泥棒を目論んだ者が、一人だってあった
(でしょうか。だいたんともむぼうともいいようのない)
でしょうか。大胆とも無謀とも言いようのない
(おそろしいとうぞくです。しかしかんがえてみると、)
恐ろしい盗賊です。 しかし考えてみると、
(そんなむちゃなことがいったい、できること)
そんな無茶なことが一体、出来ること
(でしょうか。はくぶつかんといえば、なんじゅうにんというおやくにんが)
でしょうか。博物館といえば、何十人というお役人が
(つとめているのです。しゅえいもいます。おまわりさんも)
勤めているのです。守衛も居ます。おまわりさんも
(います。そのうえ、こんなよこくをしたんでは、)
居ます。その上、こんな予告をしたんでは、
(どれだけけいかいがげんじゅうになるか、しれません。)
どれだけ警戒が厳重になるか、知れません。
(はくぶつかんぜんたいをおまわりさんがとりかこんでしまう)
博物館全体をお巡りさんが取り囲んでしまう
(ようなことも、おこらないとはいえません。ああ、)
ようなことも、起こらないとは言えません。 ああ、
(にじゅうめんそうはきでもくるったのではありませんか。)
二十面相は気でも狂ったのではありませんか。
(それともあいつには、このまるでふかのうとしか)
それともあいつには、このまるで不可能としか
(かんがえられないことをやってのけるじしんがある)
考えられないことをやってのける自信がある
(のでしょうか。にんげんのちえではそうぞうもできない)
のでしょうか。人間の知恵では想像も出来ない
(ような、あくまのけいかくがあるとでもいうのでしょうか。)
ような、悪魔の計画があるとでも言うのでしょうか。
(さて、にじゅうめんそうのことは、このくらいにとどめ、)
さて、二十面相のことは、このくらいにとどめ、
(わたしたちはあけちめいたんていをむかえなければ)
私たちは明智名探偵を迎えなければ
(なりません。「ああ、れっしゃがきたようだ」)
なりません。「ああ、列車が来たようだ」
(つじのしがちゅういするまでもなく、こばやししょうねんは)
辻野氏が注意するまでもなく、小林少年は
(ぷらっとほーむのはしへとんでいきました。)
プラットホームの端へ飛んで行きました。
(でむかえのひとがきのぜんれつにたって、ひだりのほうを)
出迎えの人垣の前列に立って、左のほうを
(ながめると、あけちたんていをのせたきゅうこうれっしゃは、)
ながめると、明智探偵を乗せた急行列車は、
(こくいっこく、そのかたちをおおきくしながら、ちかづいてきます。)
刻一刻、その形を大きくしながら、近づいてきます。
(さーっとくうきがしんどうして、くろいこうてつのはこがめのまえを)
サーッと空気が震動して、黒い鋼鉄の箱が目の前を
(かすめました。ちろちろとすぎていくきゃくしゃのまどのかお、)
かすめました。チロチロと過ぎていく客車の窓の顔、
(ぶれーきのきしりとともに、やがてれっしゃがていし)
ブレーキのきしりと共に、やがて列車が停止
(すると、いっとうしゃのしょうこうぐちになつかしい)
すると、一等車の昇降口に懐かしい
(あけちせんせいのすがたがみえました。くろいせびろに、)
明智先生の姿が見えました。黒い背広に、
(くろいこーと、くろいそふとぼうという、くろずくめの)
黒いコート、黒いソフト帽という、黒ずくめの
(いでたちで、はやくもこばやししょうねんにきづいて、)
いでたちで、早くも小林少年に気づいて、
(にこにこしながらてまねきをしているのです。)
ニコニコしながら手招きをしているのです。
(「せんせい、おかえりなさい」こばやしくんはうれしさに、)
「先生、お帰りなさい」 小林君は嬉しさに、
(もうむがむちゅうになって、せんせいのそばへかけより)
もう無我夢中になって、先生のそばへ駆け寄り
(ました。あけちたんていはぎょうしゃにいくつかのとらんくを)
ました。 明智探偵は業者にいくつかのトランクを
(わたすと、ぷらっとほーむへおりたち、)
渡すと、プラットホームへ降り立ち、
(こばやしくんのほうへよってきました。「こばやしくん、いろいろ)
小林君のほうへ寄ってきました。「小林君、色々
(くろうをしたそうだね。しんぶんですっかりしっているよ。)
苦労をしたそうだね。新聞ですっかり知っているよ。
(でも、ぶじでよかった」ああ、さんかげつぶりにきく)
でも、無事でよかった」 ああ、三ヶ月ぶりに聞く
(せんせいのこえです。こばやしくんはじょうきしたかおで、めいたんていを)
先生の声です。小林君は上気した顔で、名探偵を
(じっとみながら、いっそうそのそばへよりそいました。)
ジッと見ながら、一層そのそばへ寄り添いました。
(そして、どちらからともなくてがのびて、していの)
そして、どちらからともなく手が伸びて、師弟の
(かたいあくしゅがかわされたのでした。そのとき、)
固い握手がかわされたのでした。 その時、
(がいむしょうのつじのしがあけちのほうへあゆみよって、)
外務省の辻野氏が明智のほうへ歩み寄って、
(かたがきつきのめいしをさしだしながら、こえをかけ)
肩書きつきの名刺を差し出しながら、声をかけ
(ました。「あけちさんですか、いきちがって)
ました。「明智さんですか、行き違って
(おめにかかっていませんが、わたしはこういうもの)
お目にかかっていませんが、私はこういう者
(です。じつは、このれっしゃでかえることを、あるすじ)
です。実は、この列車で帰ることを、ある筋
(からみみにしたものですから、きゅうにないみつでおはなししたい)
から耳にしたものですから、急に内密でお話ししたい
(ことがあって、でむいてきたのです」あけちはめいしを)
ことがあって、出向いて来たのです」 明智は名刺を
(うけとると、なぜかかんがえごとでもするように、しばらく)
受け取ると、なぜか考え事でもするように、しばらく
(それをながめていましたが、やがて、ふときをかえた)
それをながめていましたが、やがて、ふと気をかえた
(ように、かいかつにこたえました。)
ように、快活に答えました。