『怪人二十面相』江戸川乱歩31
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(たがいに、あいてをほろぼさないではやまない、)
互いに、相手を滅ぼさないではやまない、
(はげしいてきいにもえたふたり、だいとうぞくとめいたんていは、)
激しい敵意に燃えた二人、大盗賊と名探偵は、
(まるでしたしいともだちのようにだんしょうしております。)
まるで親しい友だちのように談笑しております。
(しかし、ふたりともこころのなかはすんぶんのゆだんもなく)
しかし、二人とも心の中は寸分の油断もなく
(はりきっているのです。これほどだいたんなしわざをする)
張りきっているのです。 これほど大胆な仕業をする
(ぞくのことですから、そのうらにはどんなよういができて)
賊のことですから、その裏にはどんな用意が出来て
(いるかわかりません。おそろしいのは、)
いるか分かりません。恐ろしいのは、
(ぞくのぽけっとのぴすとるだけではないのです。)
賊のポケットのピストルだけではないのです。
(さっきのひとくせありげなぼーいちょうも、ぞくのてしたでない)
さっきの一癖ありげなボーイ長も、賊の手下でない
(とはかぎりません。そのほかにも、このほてるのなか)
とは限りません。その他にも、このホテルの中
(には、どれほどぞくのてしたがまぎれこんでいるか、)
には、どれほど賊の手下がまぎれこんでいるか、
(しれたものではないのです。いまのふたりのたちばは)
知れたものではないのです。 今の二人の立ち場は
(けんどうのたつじんとたつじんがしらはをかまえて)
剣道の達人と達人が白刃を構えて
(にらみあっているのと、すこしもかわりありません。)
にらみあっているのと、少しもかわりありません。
(きりょくときりょくのたたかいです。うさぎのけほどの)
気力と気力の戦いです。ウサギの毛ほどの
(ささいなゆだんが、たちどころにしょうぶをけっしてしまう)
些細な油断が、たちどころに勝負を決してしまう
(のです。ふたりは、ますますあいきょうよく)
のです。 二人は、ますますあいきょうよく
(はなしつづけています。かおはにこやかにえみが)
話し続けています。顔はにこやかに笑みが
(くずれています。しかしにじゅうめんそうのひたいには、)
くずれています。しかし二十面相のひたいには、
(さむいのにあせのたまがういていました。ふたりとも、)
寒いのに汗の玉が浮いていました。二人とも、
(そのめだけはまるでひのように、らんらんと)
その目だけはまるで火のように、ランランと
(もえかがやいていました。)
燃え輝いていました。
(「とらんくとえれべーたー」)
「トランクとエレベーター」
(めいたんていは、ぷらっとほーむでぞくをつかまえようと)
名探偵は、プラットホームで賊を捕まえようと
(おもえば、なんのわけもなかったのです。どうして、)
思えば、何の訳もなかったのです。どうして、
(このこうきかいをみのがしてしまったのでしょう。)
この好機会を見逃してしまったのでしょう。
(どくしゃしょくんは、くやしくおもっているかもしれませんね。)
読者諸君は、悔しく思っているかもしれませんね。
(しかし、これはめいたんていのじしんがどれほどつよいかを)
しかし、これは名探偵の自信がどれほど強いかを
(かたるものです。ぞくをみくびっているから、こういう)
語るものです。賊を見くびっているから、こういう
(はなれわざができるのです。たんていははくぶつかんのたからには、)
離れ業が出来るのです。探偵は博物館の宝には、
(ぞくのゆびをいっぽんもそめさせないじしんがありました。)
賊の指を一本も染めさせない自信がありました。
(れいのびじゅつじょうのたからも、そのほかのかぞえきれない)
例の美術城の宝も、その他の数えきれない
(とうなんひんもすべてとりかえすしんねんがありました。)
盗難品も全て取り返す信念がありました。
(それにはいま、ぞくをつかまえてしまっては、かえって)
それには今、賊を捕まえてしまっては、かえって
(ふりなのです。にじゅうめんそうには、おおくのてしたが)
不利なのです。二十面相には、多くの手下が
(います。もししゅりょうがつかまったならば、そのぶか)
います。もし首領が捕まったならば、その部下
(のものがぬすみためたたからを、どんなふうにしょぶんして)
の者が盗み溜めた宝を、どんなふうに処分して
(しまうか、しれたものではないからです。たいほは、)
しまうか、知れたものではないからです。逮捕は、
(そのたいせつなたからのかくしばしょをたしかめてからでも)
その大切な宝の隠し場所を確かめてからでも
(おそくはありません。そこで、せっかくでむかえて)
遅くはありません。 そこで、せっかく出迎えて
(くれたぞくをしつぼうさせるよりは、いっそ、)
くれた賊を失望させるよりは、いっそ、
(そのさそいにのったとみせかけ、にじゅうめんそうのちえの)
その誘いに乗ったと見せかけ、二十面相の知恵の
(ていどをためしてみるのもいっきょうであろうとかんがえた)
程度を試してみるのも一興であろうと考えた
(のでした。「あけちくん、いまのぼくのたちばという)
のでした。「明智君、今のぼくの立ち場という
(ものをそうぞうしてみたまえ。きみは、ぼくを)
ものを想像してみたまえ。きみは、ぼくを
(つかまえようとおもえば、いつだってできるのですぜ。)
捕まえようと思えば、いつだって出来るのですぜ。
(ほら、そこのべるをおせばいいのだ。)
ほら、そこのベルを押せばいいのだ。
(そしてぼーいにおまわりさんをよんでこいと)
そしてボーイにお巡りさんを呼んでこいと
(めいじさえすればいいのだ。ははは、なんてすばらしい)
命じさえすればいいのだ。ハハハ、なんて素晴らしい
(ぼうけんだ。このきもち、きみにわかりますか。)
冒険だ。この気持ち、きみに分かりますか。
(いのちがけですよ。ぼくはいま、なんじゅうめーとるともしれない)
命がけですよ。ぼくは今、何十メートルとも知れない
(ぜっぺきの、はじっこにたっているのですよ」)
絶壁の、はじっこに立っているのですよ」
(にじゅうめんそうはあくまでふてきです。そういいながら、)
二十面相はあくまで不敵です。そう言いながら、
(めをほそくしてたんていのかおをみつめ、おかしそうに)
目を細くして探偵の顔を見つめ、おかしそうに
(おおごえでわらいだすのでした。「ははは」あけちこごろうも、)
大声で笑いだすのでした。「ハハハ」 明智小五郎も、
(まけないおおわらいをしました。「きみ、なにもそう)
負けない大笑いをしました。「きみ、なにもそう
(びくびくすることはありゃしない。きみのしょうたいを)
ビクビクすることはありゃしない。きみの正体を
(しりながら、のこのこここまでやってきたぼく)
知りながら、ノコノコここまでやって来たぼく
(だもの、いまきみをつかまえるきなんかすこしもない)
だもの、今きみを捕まえる気なんか少しもない
(のだよ。ぼくはただ、ゆうめいなにじゅうめんそうくんとちょっと)
のだよ。ぼくはただ、有名な二十面相君とちょっと
(はなしをしてみたかっただけさ。なあに、きみをつかまえる)
話をしてみたかっただけさ。なあに、きみを捕まえる
(ことなんか、いそぐことはありゃしない。はくぶつかんの)
ことなんか、急ぐことはありゃしない。博物館の
(しゅうげきまで、まだここのかかんもあるじゃないか。まあ、)
襲撃まで、まだ九日間もあるじゃないか。まあ、
(ゆっくり、きみのむだぼねおりをはいけんするつもりだよ」)
ゆっくり、きみの無駄骨折りを拝見するつもりだよ」
(「ああ、さすがはめいたんていだねえ。ふとっぱらだねえ。)
「ああ、さすがは名探偵だねえ。太っ腹だねえ。
(ぼくは、きみにほれこんでしまったよ。ところで、)
ぼくは、きみにほれこんでしまったよ。ところで、
(きみがぼくをつかまえないとすれば、どうやら、)
きみがぼくを捕まえないとすれば、どうやら、
(ぼくがきみをつかまえることになりそう)
ぼくがきみを捕まえることになりそう
(だねえ」にじゅうめんそうはだんだん、こえのちょうしをすごく)
だねえ」 二十面相は段々、声の調子をすごく
(しながら、にやにやとうすきみわるくわらうのでした。)
しながら、ニヤニヤと薄気味悪く笑うのでした。
(「あけちくん、こわくはないかね。それともきみは、)
「明智君、怖くはないかね。それともきみは、
(ぼくがむいみにきみをここへつれこんだとでもおもって)
ぼくが無意味にきみをここへ連れこんだとでも思って
(いるのかい。ぼくには、なんのよういもないと)
いるのかい。ぼくには、何の用意もないと
(おもっているのかね。ぼくがだまって、きみを)
思っているのかね。ぼくが黙って、きみを
(このへやからそとへだすとでも、かんちがいしているのじゃ)
この部屋から外へ出すとでも、勘違いしているのじゃ
(ないのかね」「さあ、どうだかねえ。きみがいくら)
ないのかね」「さあ、どうだかねえ。きみがいくら
(ださないといっても、ぼくはここからでて)
出さないと言っても、ぼくはここから出て
(いくよ。これからがいむしょうへいかなければならない、)
行くよ。これから外務省へ行かなければならない、
(いそがしいからだだからね」あけちはいいながら、)
忙しい体だからね」 明智は言いながら、
(ゆっくりたちあがって、どあとははんたいのほうへ)
ゆっくり立ち上がって、ドアとは反対のほうへ
(あるいていきました。そして、なにかけしきでもながめる)
歩いていきました。そして、なにか景色でもながめる
(ように、のんきらしくがらすごしにまどのそとを)
ように、のんきらしくガラス越しに窓の外を
(みやって、かるくあくびをしながらはんかちを)
見やって、軽くあくびをしながらハンカチを
(とりだして、かおをぬぐっております。そのとき、)
取り出して、顔をぬぐっております。 その時、
(いつのまにべるをおしたのか、さっきのがんじょうな)
いつの間にベルを押したのか、さっきの頑丈な
(ぼーいちょうと、おなじくくっきょうなもうひとりのぼーいが、)
ボーイ長と、同じく屈強なもう一人のボーイが、
(どあをあけてつかつかとはいってきました。)
ドアをあけてツカツカと入ってきました。
(そしててーぶるのまえで、ちょくりつふどうのしせいを)
そしてテーブルの前で、直立不動の姿勢を
(とりました。「おいおいあけちくん、きみは、ぼくの)
とりました。「おいおい明智君、きみは、ぼくの
(ちからをまだしらないようだね。ここはてつどうほてる)
力をまだ知らないようだね。ここは鉄道ホテル
(だからとおもってあんしんしているのじゃないかね。)
だからと思って安心しているのじゃないかね。
(ところがね、きみ、たとえばこのとおりだ」)
ところがね、きみ、例えばこの通りだ」
(にじゅうめんそうはそういっておいて、ふたりのおおおとこのぼーい)
二十面相はそう言っておいて、二人の大男のボーイ
(のほうをふりむきました。「きみたち、あけちせんせいに)
のほうを振り向きました。「きみたち、明智先生に
(ごあいさつもうしあげるんだ」するとふたりのおとこは、)
ごあいさつ申し上げるんだ」 すると二人の男は、
(たちまちにひきのやじゅうのようなものすごいひょうじょうに)
たちまち二匹の野獣のような物凄い表情に
(なって、いきなりあけちをめがけてつきすすんできます。)
なって、いきなり明智を目がけて突き進んできます。
(「まちたまえ、ぼくをどうしようというのだ」)
「待ちたまえ、ぼくをどうしようというのだ」
(あけちはまどをせにして、きっとみがまえました。)
明智は窓を背にして、キッと身構えました。