『怪人二十面相』江戸川乱歩47

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少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文

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(「しかしあけちくん、たとえ、そんなほうほうではこびだす)

「しかし明智君、例え、そんな方法で運び出す

(ことができたとしても、ぞくがどうやって)

ことが出来たとしても、賊がどうやって

(ちんれつしつへはいったのか、いつのまにほんものとにせものを)

陳列室へ入ったのか、いつの間に本物と偽物を

(おきかえたかというなぞはとけませんね」)

置き換えたかというナゾは解けませんね」

(けいじぶちょうがあけちのことばをしんじかねるように)

刑事部長が明智の言葉を信じかねるように

(いうのです。「おきかえは、きのうのよふけに)

言うのです。「置き換えは、昨日の夜ふけに

(やりました」あけちは、なにもかもしりぬいているような)

やりました」 明智は、何もかも知り抜いているような

(くちょうでかたりつづけます。「ぞくのぶかがばけたひとたちは、)

口調で語り続けます。「賊の部下が化けた人たちは、

(まいにちここへしごとにくるときに、にせもののびじゅつひんを)

毎日ここへ仕事に来る時に、偽物の美術品を

(すこしずつはこびいれました。えはほそくまいて、)

少しずつ運び入れました。絵は細く巻いて、

(ぶつぞうはぶんかいしてて、あし、くび、どうというように)

仏像は分解して手、足、首、胴というように

(べつべつにつつみこみ、だいくどうぐといっしょにもちこめば、)

別々に包みこみ、大工道具と一緒に持ちこめば、

(うたがわれるきづかいはありません。)

疑われる気遣いはありません。

(みな、ぬすみだされることばかりけいかいしている)

みな、盗み出されることばかり警戒している

(のですから、もちこむものにちゅういなんかしません)

のですから、持ち込む物に注意なんかしません

(からね。そうしてもぞうひんはぜんぶ、ふるいざいもくのやまに)

からね。そうして模造品は全部、古い材木の山に

(おおいかくされて、ゆうべのよふけをまっていた)

覆い隠されて、ゆうべの夜ふけを待っていた

(のです」「だが、それをだれがちんれつしつへおきかえた)

のです」「だが、それをだれが陳列室へ置き換えた

(のです。みな、ゆうがたにかえってしまうじゃ)

のです。みな、夕方に帰ってしまうじゃ

(ありませんか。たとえ、そのうちなんにんかがこっそり)

ありませんか。例え、そのうち何人かがコッソリ

など

(こうないへのこっていたとしても、どうやってちんれつしつへ)

構内へ残っていたとしても、どうやって陳列室へ

(はいることができるんですか。よるは、すっかり)

入ることが出来るんですか。夜は、すっかり

(でいりぐちがとざされてしまうのです。かんないには、)

出入り口が閉ざされてしまうのです。館内には、

(かんちょうさんやさんにんのしゅくちょくいんがいっすいもしないで)

館長さんや三人の宿直員が一睡もしないで

(みはっていました。そのひとたちにしられないように、)

見張っていました。その人たちに知られないように、

(あのたくさんのしなものをおきかえるなんて、まったく)

あのたくさんの品物を置き換えるなんて、まったく

(ふかのうじゃありませんか」かんいんのひとりが、)

不可能じゃありませんか」 館員の一人が、

(じつにもっともなしつもんをしました。「それにはまた、)

実にもっともな質問をしました。「それにはまた、

(じつにだいたんふてきなしゅだんがよういしてあったのです。)

実に大胆不敵な手段が用意してあったのです。

(ゆうべのさんにんのしゅくちょくいんというのは、けさそれぞれ)

ゆうべの三人の宿直員というのは、今朝それぞれ

(じたくへかえったのでしょう。ひとまず、そのさんにんの)

自宅へ帰ったのでしょう。ひとまず、その三人の

(じたくへでんわをかけて、しゅじんがかえったかどうか)

自宅へ電話をかけて、主人が帰ったかどうか

(たしかめてみてください」あけちが、またしても)

確かめてみてください」明智が、またしても

(みょうなことをいいだしました。さんにんのしゅくちょくいんは)

みょうなことを言いだしました。三人の宿直員は

(だれもでんわをもっていませんでしたが、)

だれも電話を持っていませんでしたが、

(それぞれふきんのいえにでんわがありましたので、)

それぞれ付近の家に電話がありましたので、

(かんいんのひとりがさっそくでんわをかけてみると、)

館員の一人がさっそく電話をかけてみると、

(さんにんがさんにんとも、ゆうべいらいまだじたくへかえって)

三人が三人とも、ゆうべ以来まだ自宅へ帰って

(いないことがわかりました。しゅくちょくいんたちのかてい)

いないことが分かりました。宿直員たちの家庭

(では、こんなじけんですから、きょうもとまり)

では、こんな事件ですから、今日も泊まり

(なのだろうと、あんしんしていたというのです。)

なのだろうと、安心していたと言うのです。

(「さんにんがはくぶつかんをでてからもうはち、くじかんもたつ)

「三人が博物館を出てからもう八、九時間も経つ

(のにそろいもそろって、まだきたくしていない)

のにそろいもそろって、まだ帰宅していない

(というのは、すこしおかしいじゃありませんか。)

というのは、少しおかしいじゃありませんか。

(ゆうべてつやをしたつかれたからだで、まさかあそびまわって)

ゆうべ徹夜をした疲れた体で、まさか遊びまわって

(いるわけではないでしょう。なぜさんにんが)

いる訳ではないでしょう。なぜ三人が

(かえらなかったのか、このいみがおわかりですか」)

帰らなかったのか、この意味がお分かりですか」

(あけちは、またいちどうのかおをぐるっとみまわしておいて、)

明智は、また一同の顔をグルッと見まわしておいて、

(ことばをつづけました。「ほかでもありません。さんにんは、)

言葉を続けました。「他でもありません。三人は、

(にじゅうめんそうのいちみにゆうかいされたのです」)

二十面相の一味に誘拐されたのです」

(「え、ゆうかいされただと。それはいつのことです」)

「え、誘拐されただと。それはいつのことです」

(かんいんがさけびました。「きのうのゆうがた、さんにんがそれぞれ)

館員が叫びました。「昨日の夕方、三人がそれぞれ

(やきんのために、じたくからでたところをです」)

夜勤のために、自宅から出たところをです」

(「え、え、きのうのゆうがたですって。じゃあ、)

「え、え、昨日の夕方ですって。じゃあ、

(ゆうべここにいたさんにんは」「にじゅうめんそうのぶかです。)

ゆうべここに居た三人は」「二十面相の部下です。

(ほんとうのしゅくちょくいんはぞくのそうくつへおしこめておいて、)

本当の宿直員は賊の巣窟へ押し込めておいて、

(そのかわりにぞくのぶかがはくぶつかんのしゅくちょくをつとめた)

その代わりに賊の部下が博物館の宿直を務めた

(のです。なんてわけのないはなしでしょう。)

のです。なんて訳のない話でしょう。

(ぞくがみはりばんをつとめたんですから、にせもののびじゅつひんに)

賊が見張り番を務めたんですから、偽物の美術品に

(おきかえるなんて、じつにぞうさもないことだった)

置き換えるなんて、実に造作もないことだった

(のです。みなさん、これがにじゅうめんそうのやりくちですよ。)

のです。 みなさん、これが二十面相のやり口ですよ。

(にんげんわざではできそうもないことを、ちょっとした)

人間わざでは出来そうもないことを、ちょっとした

(あたまのはたらきでやすやすとやってのけるのです」)

頭の働きで易々とやってのけるのです」

(あけちたんていは、にじゅうめんそうのあたまのよさをほめるように)

明智探偵は、二十面相の頭のよさをほめるように

(いって、ずっとてをつないでいたかんちょうの)

言って、ずっと手をつないでいた館長の

(きたこうじろうはかせのてくびをいたいほど、ぎゅっとにぎりしめ)

北小路老博士の手首を痛いほど、ギュッと握りしめ

(ました。「うーん、あれがぞくのてしただったのか。)

ました。「うーん、あれが賊の手下だったのか。

(うかつじゃった。わしがうかつじゃった」ろうはかせは)

うかつじゃった。わしがうかつじゃった」 老博士は

(しろひげをふるわせて、くやしそうにうめきました。)

白ヒゲを震わせて、悔しそうに呻きました。

(りょうめがつりあがって、かおがまっさおになり、)

両目が吊り上がって、顔が真っ青になり、

(みるもおそろしいふんどのぎょうそうです。しかしろうはかせは、)

見るも恐ろしい憤怒の形相です。しかし老博士は、

(さんにんのにせものをどうしてみやぶることができなかった)

三人の偽者をどうして見破ることが出来なかった

(のでしょう。にじゅうめんそうならわからないが、)

のでしょう。二十面相なら分からないが、

(てしたのさんにんが、かんちょうにもわからないほどじょうずに)

手下の三人が、館長にも分からないほど上手に

(へんそうしていたなんてかんがえられないことです。)

変装していたなんて考えられないことです。

(きたこうじはかせともあろうひとがそんなにやすやすと)

北小路博士ともあろう人がそんなに易々と

(だまされるなんて、すこしおかしくはないでしょうか。)

だまされるなんて、少しおかしくはないでしょうか。

(「かいとうほばく」)

「怪盗捕縛」

(「だが、あけちくん」けいしそうかんは、せつめいがおわるのを)

「だが、明智君」警視総監は、説明が終わるのを

(まちかまえていたように、あけちたんていにたずねました。)

待ち構えていたように、明智探偵にたずねました。

(「きみはまるで、きみじしんがにじゅうめんそうでもある)

「きみはまるで、きみ自身が二十面相でもある

(ように、びじゅつひんをうばったじゅんじょについて)

ように、美術品を奪った順序について

(くわしくせつめいされたが、それはみんな、)

詳しく説明されたが、それはみんな、

(きみのそうぞうなのかね。それとも、なにかたしかなこんきょでも)

きみの想像なのかね。それとも、何か確かな根拠でも

(あるのかね」「もちろん、そうぞうではありません。)

あるのかね」「もちろん、想像ではありません。

(ぼくは、このみみでにじゅうめんそうのぶかからいっさいの)

ぼくは、この耳で二十面相の部下から一切の

(ひみつをきいて、しったのです。いま、きいてきた)

秘密を聞いて、知ったのです。今、聞いてきた

(ばかりなのです」「え、え、なんだって。)

ばかりなのです」「え、え、なんだって。

(きみはにじゅうめんそうのぶかにあったのか。いったいどこで。)

きみは二十面相の部下に会ったのか。一体どこで。

(どうして」さすがのけいしそうかんも、このふいうちには、)

どうして」 さすがの警視総監も、この不意打ちには、

(どぎもをぬかされてしまいました。)

度肝を抜かされてしまいました。

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