半七捕物帳 鷹のゆくえ2
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | だだんどん | 6084 | A++ | 6.6 | 92.1% | 618.5 | 4112 | 349 | 65 | 2024/09/29 |
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問題文
(かれらがやがいへおたかならしにでるばあいには、おおくそのふきんのゆうじょやに)
かれらが野外へお鷹馴らしに出る場合には、多くその付近の遊女屋に
(いっぱくするのをれいとしていた。よしわらとちがって、しんじゅくやしながわにははたごやに)
一泊するのを例としていた。よし原と違って、新宿や品川には旅籠屋に
(きゅうじのおんなをおくというめいぎでえいぎょうしているのであるから、かれらのしゅくはくを)
給仕の女をおくという名義で営業しているのであるから、かれらの宿泊を
(こばむわけにはいかない。それがいっしゅのよわいものいじめであって、いったんかれらを)
拒むわけには行かない。それが一種の弱い者いじめであって、一旦かれらを
(しゅくはくさせたいじょうは、ほかのきゃくをとることをゆるされないのである。)
宿泊させた以上は、ほかの客を取ることを許されないのである。
(しゃみせんやたいこはもちろん、うかつにろうかをあるいても、おたかをおどろかしたという)
三味線や太鼓は勿論、迂闊に廊下をあるいても、お鷹をおどろかしたという
(かどできびしくいためつけられるのであるから、うちじゅうのものは)
廉(かど)で厳しく痛め付けられるのであるから、家中(うちじゅう)の者は
(いきをころしてしずまりかえっていなければならない。したがって、そのいちやは)
息を殺して鎮まり返っていなければならない。したがって、その一夜は
(えいぎょうていしである。どんななじみきゃくがきてもことわるほかはない。)
営業停止である。どんな馴染み客が来ても断わるほかはない。
(それはゆうじょやにとってはなはだしいくつうであるので、せいぜいかれらを)
それは遊女屋に取って甚(はなは)だしい苦痛であるので、せいぜい彼等を
(ゆうぐうしたうえに、あるばあいにはいくらかの「そでのした」をもつかって、たいていのことを)
優遇した上に、或る場合にはいくらかの「袖の下」をも遣って、大抵のことを
(みのがしてもらうのである。そのやっかいきわまるおたかじょうさんにんがしながわのまるやに)
見逃して貰うのである。その厄介きわまる御鷹匠三人が品川の丸屋に
(とまりこんだよるに、ひとつのちんじがしゅったいした。)
泊まり込んだ夜に、一つの椿事が出来(しゅったい)した。
(さんにんのたかじょうはみついきんのすけ、くらしまいしろう、ほんだまたさくで、いずれもまだにじゅういちにの)
三人の鷹匠は光井金之助、倉島伊四郎、本多又作で、いずれもまだ二十一二の
(わかいものであるので、まるやのほうでもこころえていてきゅうじとしておやえ、おたま、)
若い者であるので、丸屋の方でも心得ていて給仕としてお八重、お玉、
(おきたというさんにんのかかえをだした。そのなかでいちばんきりょうの)
お北という三人の抱妓(かかえ)を出した。そのなかで一番容貌(きりょう)の
(いいおやえがきんのすけのそばについていることになった。きんのすけもさんにんのたかじょうの)
いいお八重が金之助のそばに付いていることになった。金之助も三人の鷹匠の
(なかではいちばんのとししたで、おとこぶりもわるくない、おとなしやかなおとこであった。)
なかでは一番の年下で、男振りも悪くない、おとなしやかな男であった。
(ふつうのきゃくとはちがうので、おんなたちもせいぜいちゅういしてつとめていたが、そのなかでも)
普通の客とは違うので、女達もせいぜい注意して勤めていたが、そのなかでも
(おやえはとくべつにきをつけてわかいたかじょうをかんたいした。おたかじょうといえばいちがいに)
お八重は特別に気をつけて若い鷹匠を歓待した。御鷹匠といえば一概に
(おそろしいもののようにかんがえていたおやえは、あんがいにうぶでおとなしい)
恐ろしいもののように考えていたお八重は、案外に初心(うぶ)でおとなしい
(きんのすけをにくからずおもったらしい。こうして、なかよくいちやをあかしたが、)
金之助を憎からず思ったらしい。こうして、仲よく一夜を明かしたが、
(あさになってさんにんがかえりじたくをしているあいだに、おやえときんのすけとがなにか)
朝になって三人が帰り支度をしている間に、お八重と金之助とが何か
(ふざけだしたらしく、おんなはおとこをぶったりたたいたりしてきゃっきゃっと)
ふざけ出したらしく、女は男を打(ぶ)ったり叩いたりしてきゃっきゃっと
(わらった。いつものいいがかりとはちがって、それがほんとうにたいせつのたかを)
笑った。いつもの云いがかりとは違って、それがほんとうに大切の鷹を
(おどろかしかしたらしく、にわかにはばたきをあらくしたたかはそのおを)
驚かしたらしく、俄(にわ)かに羽搏(はばた)きをあらくした鷹はその緒を
(ふりきってとびたった。まるやはしゅくのやまがわにあるうちで、あいにくおやえの)
振り切って飛び起った。丸屋は宿の山側にある家(うち)で、あいにくお八重の
(ざしきのしょうじがあけはなされていたので、たかはそのままおもてへとびさってしまった。)
座敷の障子が明け放されていたので、鷹はそのまま表へ飛び去ってしまった。
(ふいのできごとにおどろかされて、ふたりはあれあれといっているうちに、)
不意の出来事におどろかされて、二人はあれあれと云っているうちに、
(とりのすがたはもうみえなくなった。そのさわぎをききつけていしろうもまたさくも)
鳥の姿はもう見えなくなった。その騒ぎを聞きつけて伊四郎も又作も
(びっくりしてかけつけたが、いまさらどうするすべもないので、さんにんは)
びっくりして駈けつけたが、今更どうする術(すべ)もないので、三人は
(かおのいろをかえて、しばらくはただぼんやりとつったっていた。)
顔の色を変えて、しばらくは唯(ただ)ぼんやりと突っ立っていた。
(ましてそのほんにんのきんのすけはほとんどいきているこころもちはなかった。)
まして其の本人の金之助は殆(ほとん)ど生きている心持はなかった。
(それにかかりあいのおやえもどんなおとがめをうけるかとふるえあがった。)
それに係り合いのお八重もどんなお咎(とが)めをうけるかとふるえ上がった。
(なにしろ、これはないみつにしておいて、なんとかしてかのおたかを)
なにしろ、これは内密にして置いて、なんとかして彼(か)のお鷹を
(さがしだすよりほかはないと、としかさのいしろうがまずいいだした。)
探し出すよりほかはないと、年嵩(としかさ)の伊四郎がまず云い出した。
(じっさいそれよりほかにはちえもくふうもないので、ふたりもそれにどういして、)
実際それよりほかには知恵も工夫もないので、二人もそれに同意して、
(まるやのものにもかたくくちどめをしておいて、そうそうにせんだぎのおたかじょへ)
丸屋の者にも固く口止めをして置いて、早々に千駄木の御鷹所(おたかじょ)へ
(かえってきた。とうにんのきんのすけはもちろんであるが、つれだっていたいしろう、またさくも)
帰って来た。当人の金之助は勿論であるが、連れ立っていた伊四郎、又作も
(なんらかのおとがめはまぬかれないので、そのしんるいいちもんがにわかにうろたえさわいで、)
何等かのお咎めは免れないので、その親類一門が俄かにうろたえ騒いで、
(よりあつまっていろいろのひょうぎのはてが、これはないみつにまちかたのてを)
寄りあつまっていろいろの評議の果てが、これは内密に町方(まちかた)の手を
(かりてせんぎするのがいちばんちかみちであるらしいということにけっていして、きんのすけの)
借りて詮議するのが一番近道であるらしいということに決定して、金之助の
(おじのやざえもんがとりあえずやまざきぜんべえのところへかけつけたのであった。)
叔父の弥左衛門が取りあえず山崎善兵衛のところへ駈けつけたのであった。
(このじじょうをくわしくはなしたうえ、ぜんべえはひといきついた。)
この事情をくわしく話した上、善兵衛は一と息ついた。
(「まあ、そんなすじみちなのだが、どうだろう、なんとかなるめえか。)
「まあ、そんな筋道なのだが、どうだろう、何とかなるめえか。
(こころがらとはいいながら、ほんにんはまずせっぷく、つれのものもおやくごめんか、)
心柄とは云いながら、本人はまず切腹、連れのものも御役御免か、
(きんしんもうしつけられるか、なにしろおおぜいのなんぎにもなることだ。)
謹慎申し付けられるか、なにしろ大勢の難儀にもなることだ。
(かんがえてみればかわいそうだからな」)
考えてみれば可哀そうだからな」
(「そうでございますよ。おたかじょうもこのごろあんまりはねをのばしすぎるからね」)
「そうでございますよ。御鷹匠もこの頃あんまり羽を伸ばし過ぎるからね」
(と、はんしちはいった。「しかしそれはまあそれにして、できたことは)
と、半七は云った。「併(しか)しそれはまあそれにして、出来たことは
(なんとかしてやらざあなりますまい。まったくかわいそうですからね」)
何とかしてやらざあなりますまい。まったく可哀そうですからね」
(「なんとかなるだろうか」)
「なんとかなるだろうか」
(「いきものですからね」と、はんしちはくびをかしげていた。)
「生き物ですからね」と、半七は首をかしげていた。
(おなじいきもののうちでもとぶとりときてはもっともしまつがわるい。ましてたかのような)
おなじ生き物のうちでも飛ぶ鳥と来ては最も始末がわるい。まして鷹のような
(すばやいとりはどこへとんでいってしまったかわからない。それをさがしだす)
素捷(すばや)い鳥はどこへ飛んで行ってしまったか判らない。それを探し出す
(というのはまったくこんなんなしごとであると、さすがのはんしちもむねをかかえた。)
というのは全く困難な仕事であると、さすがの半七も胸をかかえた。
(「まあ、なんとかくふうしてみましょう」)
「まあ、なんとか工夫して見ましょう」
(「くふうしてくれ。みついきんのすけのおじもなみだをこぼしてたのんでいったのだからな」)
「工夫してくれ。光井金之助の叔父も涙をこぼして頼んで行ったのだからな」
(「かしこまりました」)
「かしこまりました」
(ともかくもうけあって、はんしちはぜんべえのやしきをでたが、どうかんがえても)
ともかくも受け合って、半七は善兵衛の屋敷を出たが、どう考えても
(これはなんぎのやくめであった。くもをつかむたずねものというが、これはそらをとぶ)
これは難儀の役目であった。雲をつかむ尋ね物というが、これは空を飛ぶ
(たずねものである。かんだへかえるとちゅうもかれはいろいろにかんがえた。)
尋ねものである。神田へ帰る途中も彼はいろいろに考えた。
(「うちへかえってもしようがねえ。ともかくもしながわへいってみよう」)
「家(うち)へ帰ってもしようがねえ。ともかくも品川へ行って見よう」
(こうおもいなおして、かれはさらにつまさきをみなみにむけると、このごろのそらのくせで、)
こう思い直して、かれは更に爪先を南に向けると、この頃の空の癖で、
(しぐれをはこびだしそうなうすぐらいくもがかれのあたまのうえにひろがってきた。)
時雨(しぐれ)を運び出しそうな薄暗い雲が彼の頭の上にひろがって来た。