『少年探偵団』江戸川乱歩21
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(あけちたんていのはなしをききおわると、はるきしは)
明智探偵の話を聞き終わると、春木氏は
(にやにやとみょうなびしょうをうかべて、さもかんしんした)
ニヤニヤとみょうな微笑を浮かべて、さも感心した
(ようにいうのでした。「ああ、さすがはめいたんていだ。)
ように言うのでした。「ああ、さすがは名探偵だ。
(あなたはそこまでおかんがえになっていたのですか。)
あなたはそこまでお考えになっていたのですか。
(そして、そのふしぎはとけましたか」「ええ、)
そして、その不思議はとけましたか」「ええ、
(とけましたよ」「ほんとうですか」「ほんとうですとも」)
とけましたよ」「本当ですか」「本当ですとも」
(そして、ふたりはしばらくのあいだだまりこんだまま、)
そして、二人はしばらくのあいだ黙りこんだまま、
(ひじょうにしんけんなひょうじょうになって、にらみあっていました。)
非常に真剣な表情になって、にらみ合っていました。
(まるで、おたがいのこころのそこをみすかそうとでもしている)
まるで、お互いの心の底を見すかそうとでもしている
(ようです。「せつめいしてください」はるきしはあおざめた)
ようです。「説明してください」 春木氏は青ざめた
(かおにいっぱいのあせのたまをうかべて、ためいきをつくように)
顔に一杯の汗の玉を浮かべて、溜め息をつくように
(いいました。「じどうしゃのなかで、ふたりのものがとつぜん、)
言いました。「自動車の中で、二人の者が突然、
(くろいひとにかわったのは、こどもだましのようなかんたんな)
黒い人に変わったのは、子どもだましのような簡単な
(ほうほうです。ほかでもありません。くるまがはしっている)
方法です。ほかでもありません。車が走っている
(あいだに、うしろのきゃくせきからみえないように、そっと)
あいだに、うしろの客席から見えないように、ソッと
(うつむいて、よういしていたえのぐ、たぶんすすのような)
うつむいて、用意していた絵の具、多分ススのような
(ものでしょう。それでかおとてをまっくろにそめた)
ものでしょう。それで顔と手を真っ黒に染めた
(のです。じつにわけのないはなしです。へんそうのうちで、)
のです。 じつにわけのない話です。変装のうちで、
(くろいひとにばけるほど、たやすいことはありません)
黒い人に化けるほど、たやすいことはありません
(からね。ぼくはねんのために、こばやしくんに、うしろから)
からね。ぼくは念のために、小林君に、うしろから
(みえるくびすじのあたりのいろはどうだったとたずねて)
見える首筋のあたりの色はどうだったとたずねて
(みましたが、そこはようふくのえりとはんちんぐぼうで、)
みましたが、そこは洋服のえりとハンチング帽で、
(すこしもひふがみえないように、ようじんぶかくかくしてあった)
少しも皮膚が見えないように、用心深く隠してあった
(ということです」「で、いまいというひしょが、どうじに)
ということです」「で、今井という秘書が、同時に
(にかしょにあらわれたなぞはとけましたか」はるきしは、)
二ヵ所に現れたナゾはとけましたか」 春木氏は、
(まるではたしあいでもするような、おそろしくちからの)
まるで果たし合いでもするような、おそろしく力の
(こもったこえでたずねました。「たいへんきがかりと)
こもった声でたずねました。「大変気がかりと
(みえますね。ははは、それははんにんがいまいくんを)
みえますね。ハハハ、それは犯人が今井君を
(しばって、そのふくをきこみ、かおまでいまいくんにばけたと)
しばって、その服を着込み、顔まで今井君に化けたと
(かんがえるほかに、ほうほうはありません。しかし、はんにんが)
考えるほかに、方法はありません。 しかし、犯人が
(いまいくんそっくりのかおになれるものでしょうか。)
今井君そっくりの顔になれるものでしょうか。
(ほとんどふかのうなことです。でもひろいにほんに、)
ほとんど不可能なことです。でも広い日本に、
(たったひとりだけ、そのふかのうなことができるじんぶつが)
たった一人だけ、その不可能なことが出来る人物が
(おります」「それはだれかな」「にじゅうめんそうです」)
おります」「それはだれかな」「二十面相です」
(たんていは、じつにいがいななまえをずばりといって、)
探偵は、じつに意外な名前をズバリと言って、
(じっとあいてのめのなかをのぞきこみました。いきづまる)
ジッと相手の目の中をのぞきこみました。息づまる
(ようなにらみあいが、さんじゅうびょうほどもつづきました。)
ようなにらみ合いが、三十秒ほども続きました。
(「にじゅうめんそう」とは、だれでしょう。むろん、どくしゃしょくんは)
「二十面相」とは、だれでしょう。無論、読者諸君は
(ごぞんじのこととおもいます。にじゅうのちがったかおをもつと)
ご存知のことと思います。二十の違った顔を持つと
(いわれた、あのへんそうのだいめいじんです。いまはごくちゅうに)
言われた、あの変装の大名人です。今は獄中に
(つながれているはずの、きだいのほうせきどろぼうです。)
つながれているはずの、希代の宝石泥棒です。
(「おい、にじゅうめんそうくん、しばらくぶりだなあ」)
「おい、二十面相君、しばらくぶりだなあ」
(あけちたんていが、おだやかなちょうしでいって、ぽんと)
明智探偵が、おだやかな調子で言って、ポンと
(はるきしのかたをたたきました。「な、なにをいっているん)
春木氏の肩を叩きました。「な、何を言っているん
(です。わたしがにじゅうめんそうですって」)
です。私が二十面相ですって」
(「はは、しらばっくれたって、もうだめだよ。)
「ハハ、しらばっくれたって、もうだめだよ。
(ぼくはいましがた、けいむしょへいってしらべてきたんだ。)
ぼくは今しがた、刑務所へ行って調べて来たんだ。
(そして、あそこにいるのはにせもののにじゅうめんそうだという)
そして、あそこにいるのは偽者の二十面相だという
(ことがわかったのだ。きみは、さきほどからぼくがなぜ、)
ことがわかったのだ。きみは、先程からぼくがなぜ、
(あんなはなしをくどくどとしていたとおもうのだい。)
あんな話をクドクドとしていたと思うのだい。
(それはね、はなしをしながら、きみのかおをよむため)
それはね、話をしながら、きみの顔を読むため
(だったんだよ。つまり、きみをためしていたという)
だったんだよ。つまり、きみを試していたという
(わけさ。するときみは、ぼくのはなしがすすむにつれて、)
わけさ。 するときみは、ぼくの話が進むにつれて、
(だんだんあおざめてきた。そわそわしだした。みたまえ、)
段々青ざめてきた。ソワソワしだした。見たまえ、
(いっぱいのあぶらあせがでているじゃないか。それがなによりの)
一杯の脂汗が出ているじゃないか。それが何よりの
(じはくというものだ。にをひいてにをたすと、)
自白というものだ。 二を引いて二を足すと、
(もとどおりだったねえ。つまり、きみときみのこっくが、)
元通りだったねえ。つまり、きみときみのコックが、
(いまいくんとうんてんしゅにばけたうえ、しょうねんたんていだんの)
今井君と運転手に化けた上、少年探偵団の
(こどもたちをだますために、ふたりのいんどじんに)
子どもたちをだますために、二人のインド人に
(なって、みょうなおいのりまでしてみせた。)
なって、みょうなお祈りまでして見せた。
(そのいんどじんが、そのままもとのきみとこっくにもどれば)
そのインド人が、そのまま元のきみとコックに戻れば
(よかったのだから、いくらみはっていても、)
よかったのだから、いくら見張っていても、
(いんどじんはにげださないし、きみもそとからはいって)
インド人は逃げ出さないし、きみも外から入って
(こなかったというわけさ。もともとよにんではなくて、)
こなかったというわけさ。もともと四人ではなくて、
(ふたりだけのおしばいだったんだからね。)
二人だけのお芝居だったんだからね。
(だが、にじゅうめんそうがひとごろしをしないというしゅぎを)
だが、二十面相が人殺しをしないという主義を
(かえないのにはかんしんだ。むろん、きみはさいしょから)
変えないのには感心だ。無論、きみは最初から
(こばやしくんとみどりちゃんは、たすけるつもりだったのだろう」)
小林君と緑ちゃんは、助けるつもりだったのだろう」
(たんていがいいおわると、へやじゅうにとほうもないわらいごえが)
探偵が言い終わると、部屋中に途方もない笑い声が
(ひびきわたりました。「わははは、えらい、きみはさすが)
響き渡りました。「ワハハハ、偉い、きみはさすが
(あけちこごろうだよ。よくそこまでかんがえたねえ。)
明智小五郎だよ。よくそこまで考えたねえ。
(そのくろうにめんじてはくじょうしてやろう。いかにもおれは、)
その苦労に免じて白状してやろう。いかにもおれは、
(きみのこわがっているにじゅうめんそうだよ。だがねえ、)
きみの怖がっている二十面相だよ。 だがねえ、
(あけちくん、これはきみのだいしっぱいを、きみじしんでしょうこ)
明智君、これはきみの大失敗を、きみ自身で証拠
(だてたようなものなんだぜ。わかるかい。)
だてたようなものなんだぜ。わかるかい。
(きみはいつだったか、はくぶつかんでおれをたいほした)
きみはいつだったか、博物館でおれを逮捕した
(つもりでとくいげだったねえ。せけんも、いいぞいいぞと)
つもりで得意気だったねえ。世間も、いいぞいいぞと
(かっさいしたっけねえ。ところが、あれはみんな)
喝采したっけねえ。 ところが、あれはみんな
(うそだったということになるじゃないか。)
ウソだったということになるじゃないか。
(え、たんていさん、きみもとんだ、やぶへびをしたもん)
え、探偵さん、きみもとんだ、やぶへびをしたもん
(だねえ。つまらないせんさくをしないで、おれを)
だねえ。 つまらない詮索をしないで、おれを
(みのがしておけば、きみはいつまでもえいゆうで)
見のがしておけば、きみはいつまでも英雄で
(いられたんだぜ。それを、こんなことにして)
いられたんだぜ。それを、こんなことにして
(しまっちゃ、ふめいよになるじゃないか。はくぶつかんで)
しまっちゃ、不名誉になるじゃないか。博物館で
(とらえたのは、にじゅうめんそうでもなんでもない、ただの)
とらえたのは、二十面相でもなんでもない、ただの
(へっぽこやろうだということを、せけんにせんでんする)
へっぽこ野郎だということを、世間に宣伝する
(ようなもんじゃないか。ははは、ゆかいゆかい、)
ようなもんじゃないか。 ハハハ、愉快愉快、
(おれがいったい、あんなへまをするようなおとこだと)
おれが一体、あんなヘマをするような男だと
(おもったのかい。しろひげのはくぶつかんちょうさんが、じつは)
思ったのかい。白ヒゲの博物館長さんが、じつは
(かいとうにじゅうめんそうだったなんて、いかにもあけちせんせいごのみの)
怪盗二十面相だったなんて、いかにも明智先生好みの
(おもいつきだ。つまりおれは、きみのとびつきそうな)
思いつきだ。つまりおれは、きみの飛びつきそうな
(ごちそうをよういして、おまちしていたのさ。)
ごちそうを用意して、お待ちしていたのさ。
(するとあんのじょう、きみはわなにかかってしまった。)
すると案の定、きみは罠にかかってしまった。
(はくぶつかんちょうにばけていた、おれのぶかをにじゅうめんそうと)
博物館長に化けていた、おれの部下を二十面相と
(おもいこんでしまった。おれのほうで、そうおもい)
思い込んでしまった。おれのほうで、そう思い
(こませるようにしむけたのさ。むりもないよ。)
込ませるように仕向けたのさ。 無理もないよ。
(おれにはきまったかおというものがないんだからね。)
おれには決まった顔というものがないんだからね。