『少年探偵団』江戸川乱歩20
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(あけちたんていが、それをせつめいするのがおしいという)
明智探偵が、それを説明するのが惜しいという
(ようにことばをきって、あいてのかおをながめました。)
ように言葉を切って、相手の顔をながめました。
(「もっとおおきなむだというのは、なんですか」)
「もっと大きな無駄というのは、なんですか」
(「それはね、いんどじんがまっぱだかになって、すみだがわを)
「それはね、インド人が真っ裸になって、隅田川を
(およいでみせたり、とうきょうじゅうのまちまちを、うろついて)
泳いでみせたり、東京中の町々を、うろついて
(みせたりして、せけんをさわがせたことですよ。それから)
みせたりして、世間を騒がせたことですよ。 それから
(また、しのざきさんのおじょうちゃんとおなじとしごろのこどもを、)
また、篠崎さんのお嬢ちゃんと同じ年頃の子どもを、
(にども、わざとまちがえてさらったことですよ。)
二度も、わざと間違えてさらったことですよ。
(いったいなんのために、そんなむだなことをやってみせた)
一体なんのために、そんな無駄なことをやってみせた
(のでしょう。え、はるきさん、あなたはどうおかんがえに)
のでしょう。え、春木さん、あなたはどうお考えに
(なりますか」「さあ、わたしにはわかりませんねえ」)
なりますか」「さあ、私にはわかりませんねえ」
(はるきしはあおざめたかおで、すこしそわそわしながら)
春木氏は青ざめた顔で、少しソワソワしながら
(こたえました。「おわかりになりませんか。じゃ、)
答えました。「おわかりになりませんか。じゃ、
(ぼくのかんがえをもうしましょう。それはね、ぞくはせんでんを)
ぼくの考えを申しましょう。それはね、賊は宣伝を
(したかったのですよ。わたしは、こんなまっくろないんどじん)
したかったのですよ。私は、こんな真っ黒なインド人
(ですよ。わたしはしのざきけのおじょうちゃんをさらおうとして)
ですよ。私は篠崎家のお嬢ちゃんをさらおうとして
(いますよ。というように、せけんにむかって、)
いますよ。というように、世間に向かって、
(いやせけんというよりも、しのざきのごしゅじんにむかって、)
いや世間というよりも、篠崎のご主人に向かって、
(これでもかとつげて、しらせたかったのです。)
これでもかと告げて、知らせたかったのです。
(そしてしのざきさんが、さてはいんどじんがほんごくから、)
そして篠崎さんが、さてはインド人が本国から、
(のろいのほうせきをとりもどしにやってきたんだなと、)
呪いの宝石を取り戻しにやって来たんだなと、
(しんじこむようにしむけたのです。なぜでしょう。)
信じ込むように仕向けたのです。 なぜでしょう。
(なぜそんな、ばかばかしいせんでんをしたのでしょう。)
なぜそんな、馬鹿馬鹿しい宣伝をしたのでしょう。
(もし、ほんとうのいんどじんがふくしゅうのためにやってきた)
もし、本当のインド人が復讐のためにやって来た
(のなら、せんでんするどころか、できるだけすがたをみられ)
のなら、宣伝するどころか、出来るだけ姿を見られ
(ないように、せけんにしられないようにほねをおるはず)
ないように、世間に知られないように骨を折るはず
(じゃありませんか。つまり、あべこべなのです」)
じゃありませんか。つまり、あべこべなのです」
(「え、といいますと」はるきしが、びっくりした)
「え、と言いますと」 春木氏が、ビックリした
(ようにききかえしました。ちょうどそのとき)
ように聞き返しました。 ちょうどそのとき
(でした。ふたりのかいわのなかで「あべこべ」という)
でした。二人の会話の中で「あべこべ」という
(ことばがそのままかたちとなって、へやのいっぽうのまどのそとに)
言葉がそのまま形となって、部屋の一方の窓の外に
(あらわれたではありませんか。がらすまどのいちばんうえの)
現れたではありませんか。 ガラス窓の一番上の
(すみに、ひょいとにんげんのかおがあらわれたのです。それが、)
隅に、ひょいと人間の顔が現れたのです。それが、
(まるでそらからぶらさがったように、まっさかさま)
まるで空からぶら下がったように、真っ逆さま
(なのです。つまり、あべこべなのです。そのおとこは、)
なのです。つまり、あべこべなのです。 その男は、
(がらすまどのそとのやみのなかから、かみのけをだらんとしたに)
ガラス窓の外の闇の中から、髪の毛をダランと下に
(たらし、まっかにのぼせたかおをしており、さかさまの)
垂らし、真っ赤にのぼせた顔をしており、逆さまの
(めで、へやのなかのようすをじろじろとながめています。)
目で、部屋の中の様子をジロジロとながめています。
(いったいどうして、ひとのかおがそらからさがってきたりした)
一体どうして、人の顔が空からさがってきたりした
(のでしょう。じつに、ふしぎではありませんか。)
のでしょう。じつに、不思議ではありませんか。
(いや、それよりもみょうなのは、はるきしが)
いや、それよりもみょうなのは、春木氏が
(そのがらすのそとのさかさまのかおをみても、すこしも)
そのガラスの外の逆さまの顔を見ても、少しも
(おどろかなかったことです。そのかおになにかめくばせ)
驚かなかったことです。その顔に何か目くばせ
(のようなことをしました。すると、さかさまのかおは、)
のようなことをしました。 すると、逆さまの顔は、
(それにこたえるようにあいずのまばたきをして、そのまま)
それに答えるように合図のまばたきをして、そのまま
(そらのほうへ、すーっときえてしまいました。)
空のほうへ、スーッと消えてしまいました。
(いったいあれはなにものでしょう。なんだか、ついさっきみた)
一体あれは何者でしょう。なんだか、ついさっき見た
(ばかりのようなかおです。ああ、そうです、そうです。)
ばかりのような顔です。ああ、そうです、そうです。
(ほかでもない、はるきしがやとっているこっくなのです。)
ほかでもない、春木氏が雇っているコックなのです。
(さっきこうちゃをはこんできためしつかいなのです。)
さっき紅茶を運んできた召し使いなのです。
(それにしても、なんというへんてこなことでしょう。)
それにしても、なんというヘンテコなことでしょう。
(こっくがいえのそとのくうちゅうからぶらさがってきて、)
コックが家の外の空中からぶらさがってきて、
(まどをのぞくなんて、はなしにきいたこともないでは)
窓をのぞくなんて、話に聞いたこともないでは
(ありませんか。でも、そのまどは、ちょうどあけちたんていの)
ありませんか。 でも、その窓は、ちょうど明智探偵の
(まうしろにあったものですから、たんていはそんなきみょうな)
真後ろにあったものですから、探偵はそんな奇妙な
(ひとのかおがあらわれたことなどすこしもしりませんでした。)
人の顔が現れたことなど少しも知りませんでした。
(みなさん、なんだかきがかりではありませんか。)
みなさん、なんだか気がかりではありませんか。
(あけちたんていはだいじょうぶなのでしょうか。もしやこのいえ)
明智探偵は大丈夫なのでしょうか。もしやこの家
(には、なにかおそろしいいんぼうがたくらまれているのでは)
には、何かおそろしい陰謀がたくらまれているのでは
(ないでしょうか。)
ないでしょうか。
(「おくじょうのかいじん」)
「屋上の怪人」
(あけちたんていはなにもしらずにはなしつづけました。「あべこべ)
明智探偵は何も知らずに話し続けました。「あべこべ
(といいますのはね、このじけんのはんにんは、かれがみせかけ)
と言いますのはね、この事件の犯人は、彼が見せかけ
(ようとしたり、せんでんしたりしたのとは、まるではんたい)
ようとしたり、宣伝したりしたのとは、まるで反対
(なものではないかということです。つまり、はんにんは)
なものではないかということです。 つまり、犯人は
(くろいいんどじんではなくて、そのはんたいのしろいにほんじん)
黒いインド人ではなくて、その反対の白い日本人
(であった。しのざきさんのおじょうちゃんをさらったのも、)
であった。篠崎さんのお嬢ちゃんをさらったのも、
(ほうせきにつきまとうのろいかのようにみせかけるためで、)
宝石につきまとう呪いかのように見せかけるためで、
(けっしていのちをとろうなどというかんがえはなかった、という)
決して命をとろうなどという考えはなかった、という
(ことです。そのしょうこに、みどりちゃんもこばやしくんも、)
ことです。 その証拠に、緑ちゃんも小林君も、
(ちゃんとたすかっているじゃありませんか。もしほんとうに)
ちゃんと助かっているじゃありませんか。もし本当に
(ころすつもりだったら、あれほどくろうしてさらって)
殺すつもりだったら、あれほど苦労してさらって
(おきながら、さいごもみとどけないで、たちさってしまう)
おきながら、最期も見届けないで、立ち去ってしまう
(わけがないのです。すべてはせけんのめを、べつのほうめんに)
わけがないのです。 すべては世間の目を、別の方面に
(そらすためのしゅだんにすぎなかったのですよ。それほど)
そらすための手段にすぎなかったのですよ。それほど
(までのくろうをしなければならなかったのをみると、)
までの苦労をしなければならなかったのをみると、
(このはんにんは、よほどせけんにしれわたっているやつに)
この犯人は、よほど世間に知れ渡っているやつに
(ちがいありません。ね、そうじゃありませんか」)
違いありません。ね、そうじゃありませんか」
(「では、あなたは、はんにんはいんどじんじゃないと)
「では、あなたは、犯人はインド人じゃないと
(おっしゃるのですか」はるきしが、みょうにしわがれた)
おっしゃるのですか」 春木氏が、みょうにしわがれた
(こえでたずねました。「そうです。はんにんはにほんじんに)
声でたずねました。「そうです。犯人は日本人に
(ちがいないとおもうのです」たんていはびしょうをうかべながら、)
違いないと思うのです」 探偵は微笑を浮かべながら、
(じっとはるきしをみつめました。「でも、たしかに)
ジッと春木氏を見つめました。「でも、確かに
(いんどじんがいたじゃありませんか。わたしがへやをかした)
インド人が居たじゃありませんか。私が部屋を貸した
(ことは、かりにしんようしていただけないとしても、)
ことは、仮に信用していただけないとしても、
(ここのにかいにいたのをこどもたちがみたということ)
ここの二階に居たのを子どもたちが見たということ
(ですし、きけばこばやしくんとおじょうちゃんがのったくるまの)
ですし、聞けば小林君とお嬢ちゃんが乗った車の
(うんてんしゅとじょしゅが、いつのまにかくろいひとにかわって)
運転手と助手が、いつのまにか黒い人に変わって
(いて、ふたりはそれをたしかにみたといっていましたが」)
いて、二人はそれを確かに見たと言っていましたが」
(「ははは。はるきさん、それがみんなうそだった)
「ハハハ。春木さん、それがみんなウソだった
(としたら、どうでしょう。こばやしくんのいうところに)
としたら、どうでしょう。 小林君の言うところに
(よりますと、さいしょあのじどうしゃにのったとき、じょしゅせきに)
よりますと、最初あの自動車に乗ったとき、助手席に
(いたのは、たしかにしのざきさんのひしょのいまいくんだった)
居たのは、確かに篠崎さんの秘書の今井君だった
(そうです。それがどうしてとつぜん、くろいひとにかわった)
そうです。それがどうして突然、黒い人に変わった
(のでしょう。いや、そればかりではありません。)
のでしょう。 いや、そればかりではありません。
(ちょうどそのころ、ほんもののいまいくんはようげんじのけいだいに、)
ちょうどその頃、本物の今井君は養源寺の境内に、
(てあしをしばられてころがっていたのですよ。)
手足をしばられて転がっていたのですよ。
(ひとりのいまいくんが、どうじににかしょにあらわれるなんて、)
一人の今井君が、同時に二ヵ所に現れるなんて、
(まったくふかのうなことじゃありませんか。はるきさん、)
まったく不可能なことじゃありませんか。春木さん、
(このてんをぼくは、じつにおもしろくおもうのです」)
この点をぼくは、じつに面白く思うのです」