『少年探偵団』江戸川乱歩23
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(「どうしたんです。あいつはやねへにげたんですか」)
「どうしたんです。あいつは屋根へ逃げたんですか」
(いりぐちにいたごにんのけいかんが、あけちたんていのそばに)
入り口にいた五人の警官が、明智探偵のそばに
(かけよって、くちぐちにたずねました。「そうですよ。)
駆け寄って、口々にたずねました。「そうですよ。
(じつにばかなまねをしたものです。われわれはただ、)
じつに馬鹿な真似をしたものです。我々はただ、
(このいえをとりかこんで、じっとまっていてもいいの)
この家を取り囲んで、ジッと待っていてもいいの
(ですよ。そのうちに、やつらはつかれきって、)
ですよ。そのうちに、やつらは疲れきって、
(こうさんしてしまうでしょう。これは、とらえたもどうぜん)
降参してしまうでしょう。これは、とらえたも同然
(です」たんていは、ぞくをあわれむようにつぶやきました。)
です」 探偵は、賊を哀れむようにつぶやきました。
(けいかんたちはすぐさまかいかにかけおり、もんのそとにたいき)
警官たちはすぐさま階下に駆けおり、門の外に待機
(しているけいかんたいに、このことをつたえました。いや、)
している警官隊に、このことを伝えました。いや、
(おしえられるまでもなくけいかんたいのほうでも、もうそれに)
教えられるまでもなく警官隊のほうでも、もうそれに
(きづいていました。ごじゅうにんあまりのおまわりさんが、)
気づいていました。五十人余りのおまわりさんが、
(おもてぐちとうらぐちからもんないになだれこみ、たちまちたてものの)
表口と裏口から門内になだれこみ、たちまち建物の
(しほうに、ありものがさぬえんじんをはってしまいました。)
四方に、アリものがさぬ円陣をはってしまいました。
(しきかんなかむらそうさかかりちょうのさしずで、ふたりのけいかんが、)
指揮官中村捜査係長の指図で、二人の警官が、
(どこかへはしりさったかとおもうと、やがてごふんも)
どこかへ走り去ったかと思うと、やがて五分も
(たたないうちに、ふきんのしょうぼうしょからしょうぼうじどうしゃが)
たたないうちに、付近の消防署から消防自動車が
(ていないにすべりこみ、きかいじかけのひじょうばしごがやみの)
邸内にすべりこみ、機械仕掛けの非常バシゴが闇の
(やねめがけて、するするとのびあがりました。)
屋根めがけて、スルスルと伸び上がりました。
(そのはしごに、ぼうしのあごひもをかけ、くつをぬいで)
そのハシゴに、帽子のあごヒモをかけ、靴をぬいで
(くつしただけになったけいかんが、つぎからつぎへと)
靴下だけになった警官が、次から次へと
(よじのぼり、かいちゅうでんとうをふりてらしながら、)
よじのぼり、懐中電灯を振り照らしながら、
(やねのうえでほかくがはじまりました。にじゅうめんそうと)
屋根の上で捕獲が始まりました。 二十面相と
(こっくは、てをつなぐようにして、やねのちょうじょうちかくに)
コックは、手をつなぐようにして、屋根の頂上近くに
(たちはだかっていました。やねにはいあがった)
立ちはだかっていました。屋根に這い上がった
(けいかんたちは、それをとおまきにして、なわをにぎりしめ、)
警官たちは、それを遠まきにして、縄を握りしめ、
(ゆだんなくじりじりとぞくにせまっていきます。)
油断なくジリジリと賊にせまっていきます。
(「わははは」やみのおおぞらに、きちがいのような)
「ワハハハ」 闇の大空に、キチガイのような
(たかわらいがばくはつしました。ぞくたちは、このきけんな)
高笑いが爆発しました。賊たちは、この危険な
(ばめんで、なにをおもったのか、こえをそろえてわらいだした)
場面で、何を思ったのか、声をそろえて笑いだした
(のです。「わははは、ゆかいゆかい、じつにすばらしい)
のです。「ワハハハ、愉快愉快、じつに素晴らしい
(けしきだなあ。ひとり、ふたり、さんにん、よにん、ごにん、おお、)
景色だなあ。一人、二人、三人、四人、五人、おお、
(のぼってくるのぼってくる。おまわりさんでやねが)
登ってくる登ってくる。おまわりさんで屋根が
(うまりそうだ。しょくん、あしもとにきをつけて、)
うまりそうだ。 諸君、足元に気をつけて、
(すべらないようにようじんしたまえ。よつゆでぬれている)
すべらないように用心したまえ。夜露でぬれている
(からね。ここからころがりおちたら、いのちがないぜ。)
からね。ここから転がり落ちたら、命がないぜ。
(おお、そこへのぼってきたのは、なかむらけいぶじゃないか。)
おお、そこへ登ってきたのは、中村警部じゃないか。
(ごくろうさま。しばらくぶりだねえ」にじゅうめんそうは、)
ご苦労さま。しばらくぶりだねえ」 二十面相は、
(ぼうじゃくぶじんにわめきちらしています。「いかにも、わしは)
傍若無人に喚き散らしています。「いかにも、わしは
(なかむらだ。きさまも、とうとうねんぐをおさめるときがきた)
中村だ。貴様も、とうとう年貢をおさめる時がきた
(ようだね。つまらないきょせいをはらないで、おとなしく)
ようだね。つまらない虚勢をはらないで、大人しく
(こうさんするがいい」なかむらかかりちょうは、さとすように)
降参するがいい」 中村係長は、さとすように
(どなりかえしました。「わはは、これはおかしい。)
どなりかえしました。「ワハハ、これはおかしい。
(こうさんといったか。きみたちは、おれをふくろのねずみ)
降参と言ったか。きみたちは、おれを袋のネズミ
(とでもおもっているのかい。もうにげばがないとでも)
とでも思っているのかい。もう逃げ場がないとでも
(おもっているのかい。ところが、おれはけっして)
思っているのかい。ところが、おれは決して
(つかまえられないんだぜ。おれのしごとは、)
つかまえられないんだぜ。おれの仕事は、
(これからだ。あんなほうせきひとつぐらいで、ねんぐを)
これからだ。あんな宝石一つぐらいで、年貢を
(おさめてたまるものか。おいなかむらくん、ひとつなぞを)
おさめてたまるものか。 おい中村君、一つナゾを
(あたえようか。おれたちが、このやねからどうやって)
与えようか。おれたちが、この屋根からどうやって
(にげだすかというのだ。とけるかい。ははは、)
逃げ出すかというのだ。とけるかい。ハハハ、
(にじゅうめんそうはまじゅつしなんだぜ。こんどは、どんな)
二十面相は魔術師なんだぜ。今度は、どんな
(すばらしいまほうをつかうか、ひとつあててみたまえ」)
素晴らしい魔法を使うか、一つ当ててみたまえ」
(ぞくは、あくまでぼうじゃくぶじんです。にじゅうめんそうはきょせいを)
賊は、あくまで傍若無人です。 二十面相は虚勢を
(はっているのでしょうか。いや、どうもそうでは)
はっているのでしょうか。いや、どうもそうでは
(なさそうです。なにか、たしかににげだせるというかくしんを)
なさそうです。何か、確かに逃げ出せるという確信を
(もっているらしくみえます。しかし、しほうはっぽうから)
持っているらしくみえます。 しかし、四方八方から
(とりかこまれた、このやねのうえを、どうやってのがれる)
取り囲まれた、この屋根の上を、どうやってのがれる
(つもりでしょう。いったい、そんなことが)
つもりでしょう。一体、そんなことが
(できるのでしょうか。)
出来るのでしょうか。
(「あくまのしょうてん」)
「悪魔の昇天」
(なかむらかかりちょうはかいとうがなにをいおうと、そんなくちあらそいには)
中村係長は怪盗が何を言おうと、そんな口争いには
(おうじませんでした。ぞくはなんのいみもない、きょせいを)
応じませんでした。賊は何の意味もない、虚勢を
(はっているのだとおもったからです。そこで、おくじょうの)
はっているのだと思ったからです。そこで、屋上の
(けいかんたちに、いよいよさいごのこうげきのさしずをしました。)
警官たちに、いよいよ最後の攻撃の指図をしました。
(それとどうじに、じゅうすうめいのけいかんがくちぐちになにかわめき)
それと同時に、十数名の警官が口々に何か喚き
(ながら、ふたりのぞくめがけてとっしんしました。やねのうえの)
ながら、二人の賊めがけて突進しました。屋根の上の
(けいかんたいのえんじんが、みるみるちぢまっていくのです。)
警官隊の円陣が、みるみる縮まっていくのです。
(ふたりのぞくはやねのちょうじょうのちゅうおうに、たがいにてを)
二人の賊は屋根の頂上の中央に、互いに手を
(とりあってたちすくんでいます。もう、それいじょう)
取り合って立ちすくんでいます。もう、それ以上
(どこへもうごくばしょはありません。それっという)
どこへも動く場所はありません。ソレッという
(かけごえとともになかむらかかりちょうがふたりにむかって、)
かけ声と共に中村係長が二人に向かって、
(とびかかっていきました。つづいてふたり、さんにん、)
とびかかっていきました。続いて二人、三人、
(よにんと、けいかんたちはぞくをおしつぶそうとでもする)
四人と、警官たちは賊を押しつぶそうとでもする
(ように、しほうからそのばしょにかけよりました。)
ように、四方からその場所に駆け寄りました。
(ところが、これはどうしたというのでしょう。)
ところが、これはどうしたというのでしょう。
(なかむらかかりちょうがぱっととびつくとどうじに、ふたりのぞくの)
中村係長がパッと飛びつくと同時に、二人の賊の
(すがたが、まるでかきけすようになくなってしまった)
姿が、まるでかき消すようになくなってしまった
(のです。それとはしらないけいかんたちは、)
のです。 それとは知らない警官たちは、
(くらさのために、ついおもいちがいをしてかかりちょうにくみついて)
暗さのために、つい思い違いをして係長に組みついて
(いくというありさまで、しばらくのあいだは、なにが)
いくという有り様で、しばらくのあいだは、何が
(なんだかわけのわからない、どうしうちがつづきました。)
なんだか訳のわからない、同士討ちが続きました。
(かかりちょうのおそろしいどなりごえに、けいかんたちははっとして)
係長のおそろしいどなり声に、警官たちはハッとして
(たちなおってみますと、じぶんたちがおさえつけている)
立ち直ってみますと、自分たちが押さえつけている
(のは、ぞくではなくじょうかんであることにきづきました。)
のは、賊ではなく上官であることに気付きました。
(まるできつねにつままれたようなかんじです。)
まるでキツネにつままれたような感じです。
(「あかりだ、あかり。だれか、かいちゅうでんとうでてらせ」)
「明かりだ、明かり。だれか、懐中電灯で照らせ」
(かかりちょうが、もどかしげにさけびました。しかし、)
係長が、もどかしげに叫びました。 しかし、
(かいちゅうでんとうをもっていたひとたちは、ぞくにとびかかるとき、)
懐中電灯を持っていた人たちは、賊に飛びかかる時、
(やねのうえになげだしてしまったので、まっくらななかで)
屋根の上に投げだしてしまったので、真っ暗な中で
(きゅうにそれをさがすわけにもいきません。ただうろたえる)
急にそれを探す訳にもいきません。ただうろたえる
(ばかりです。すると、ちょうどそのときでした。)
ばかりです。 すると、ちょうどそのときでした。
(やねのうえがとつぜんぱっとあかるくなったのです。まるで)
屋根の上が突然パッと明るくなったのです。まるで
(まひるのようなこうせんです。けいかんたちは、まぶしさに)
真昼のような光線です。警官たちは、まぶしさに
(めもくらむばかりでした。「ああ、さーちらいとだ」)
目もくらむばかりでした。「ああ、サーチライトだ」
(だれかが、さもうれしげにさけびました。いかにも)
だれかが、さも嬉しげに叫びました。いかにも
(それは、さーちらいとのひかりでした。)
それは、サーチライトの光でした。