『少年探偵団』江戸川乱歩24
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(みればようかんのもんないにいちだいのとらっくがとまっていて、)
見れば洋館の門内に一台のトラックが止まっていて、
(そのうえにこがたのさーちらいとがすえつけられ、にめいの)
その上に小型のサーチライトがすえつけられ、二名の
(さぎょうふくをきたひとが、そのつよいひかりをやねのしゃめんにむけて)
作業服を着た人が、その強い光を屋根の斜面に向けて
(いるのでした。これは、けいしちょうそなえつけの)
いるのでした。 これは、警視庁そなえつけの
(いどうしきさーちらいとなのです。なかむらかかりちょうは、ぞくがやみの)
移動式サーチライトなのです。 中村係長は、賊が闇の
(おくじょうへにげあがったとしると、すぐさましょうぼうしょへ)
屋上へ逃げ上がったと知ると、すぐさま消防署へ
(つかいをだしましたが、そのとき、もうひとりのけいかん)
使いを出しましたが、そのとき、もう一人の警官
(には、でんわでけいしちょうへさーちらいとをもってくる)
には、電話で警視庁へサーチライトを持って来る
(ことをいらいさせたのです。それがいま、てばやく)
ことを依頼させたのです。それが今、手早く
(さーちらいとをふきんのでんとうせんにむすびつけ、やねのうえを)
サーチライトを付近の電灯線に結びつけ、屋根の上を
(てらしはじめたのです。けいかんたちは、そのまひるのような)
照らし始めたのです。 警官たちは、その真昼のような
(ひかりのなかで、きょろきょろとぞくのすがたをさがしもとめました。)
光の中で、キョロキョロと賊の姿を探し求めました。
(そして、ひとびとのめがやねのうえからだんだん、そらのほうに)
そして、人々の目が屋根の上から段々、空のほうに
(うつっていったときです。「あ、あれだ、あれ」ひとりの)
移っていった時です。「あ、あれだ、あれ」 一人の
(けいかんがとんきょうなこえをたてて、やみのおおぞらをゆびさしました。)
警官が頓狂な声をたてて、闇の大空を指さしました。
(すると、やねのうえのけいかんたちはもちろん、ちじょうの)
すると、屋根の上の警官たちはもちろん、地上の
(すうじゅうめいのけいかんたちも、あまりのいがいさにあーっと、)
数十名の警官たちも、あまりの意外さにアーッと、
(おどろきのさけびごえをあげました。ああ、ごらんなさい。)
驚きの叫び声をあげました。 ああ、ご覧なさい。
(にじゅうめんそうはそらにのぼっていたのです。あくまはしょうてんした)
二十面相は空にのぼっていたのです。悪魔は昇天した
(のです。やみのそらをぐんぐんとのぼっていく、)
のです。 闇の空をグングンとのぼっていく、
(おおきなおおきな、くろいごむだまのようなものがみえ)
大きな大きな、黒いゴム玉のようなものが見え
(ました。ききゅうです。ぜんたいをまっくろにぬったききゅうです。)
ました。気球です。全体を真っ黒に塗った気球です。
(こうこくききゅうのにばいもある、まっくろなかいぶつです。)
広告気球の二倍もある、真っ黒な怪物です。
(そのききゅうのしたにさがったかごのなかに、ちいさいふたりの)
その気球の下にさがったカゴの中に、小さい二人の
(ひとのすがたがみえます。くろいせびろのにじゅうめんそうと、)
人の姿が見えます。黒い背広の二十面相と、
(しろいうわぎのこっくです。かれらはけいかんたちをあざわらう)
白い上着のコックです。彼らは警官たちをあざわらう
(かのように、じっとげかいをながめています。ひとびとは)
かのように、ジッと下界をながめています。 人々は
(それをみて、やっとにじゅうめんそうのなぞをとくことが)
それを見て、やっと二十面相のナゾをとくことが
(できました。かいとうのさいごのきりふだは、このききゅうだった)
出来ました。怪盗の最後の切り札は、この気球だった
(のです。ああ、なんというとっぴなおもいつきでしょう。)
のです。ああ、なんという突飛な思いつきでしょう。
(ふつうのとうぞくなどには、まるでかんがえもおよばない、)
普通の盗賊などには、まるで考えも及ばない、
(ずばぬけたげいとうではありませんか。にじゅうめんそうはまんいちの)
ずば抜けた芸当ではありませんか。 二十面相は万一の
(ために、このくろいききゅうをよういしておいたのです。)
ために、この黒い気球を用意しておいたのです。
(そしてこんや、あけちたんていとあうすこしまえに、そのききゅうに)
そして今夜、明智探偵と会う少し前に、その気球に
(がすをみたし、やねのちょうじょうにつなぎとめておいた)
ガスを満たし、屋根の頂上に繋ぎとめておいた
(のです。ぜんたいがまっくろにぬってあるものですから、)
のです。全体が真っ黒に塗ってあるものですから、
(こんなやみよには、とおりがかりのひとにはっけんされるしんぱいも)
こんな闇夜には、通りがかりの人に発見される心配も
(なかったわけです。いや、とおりがかりのひとどころでは)
なかった訳です。 いや、通りがかりの人どころでは
(ありません。やねのうえのけいかんたちにさえ、このききゅうは)
ありません。屋根の上の警官たちにさえ、この気球は
(すこしもきづかれませんでした。それというのも、)
少しも気づかれませんでした。それというのも、
(さすがのけいかんたちも、まさかききゅうとはおもっても)
さすがの警官たちも、まさか気球とは思っても
(みませんでしたから、やねばかりをみていて、)
みませんでしたから、屋根ばかりを見ていて、
(そのうえのほうのそらなどは、ながめようともしなかった)
その上のほうの空などは、ながめようともしなかった
(のです。またかりに、ながめたとしても、やみのなかの)
のです。また仮に、ながめたとしても、闇の中の
(くろいききゅうがはっきりみわけられるとは、かんがえられ)
黒い気球がハッキリ見分けられるとは、考えられ
(ません。ふたりのぞくはけいかんたちにおいつめられたとき、)
ません。 二人の賊は警官たちに追いつめられた時、
(とっさにききゅうのかごにとびのり、つなぎとめてあった)
とっさに気球のカゴに飛び乗り、繋ぎとめてあった
(つなをせつだんしたのでしょう。それがくらやみのなかのはやわざ)
綱を切断したのでしょう。それが暗闇の中の早技
(だったものですから、とつぜんふたりのすがたがきえたように)
だったものですから、突然二人の姿が消えたように
(かんじられたにちがいありません。なかむらかかりちょうはじだんだを)
感じられたに違いありません。 中村係長は地団駄を
(ふみ、くやしがりましたが、ぞくがしょうてんして)
踏み、くやしがりましたが、賊が昇天して
(しまっては、もう、どうすることもできないのです。)
しまっては、もう、どうすることも出来ないのです。
(ごじゅうめいあまりのけいかんたいは、そらをあおいで、くちぐちになにか)
五十名余りの警官隊は、空をあおいで、口々に何か
(わけのわからないさけびごえをたてるばかりでした。)
訳のわからない叫び声をたてるばかりでした。
(にじゅうめんそうがのっているくろいききゅうは、げかいのおどろきを)
二十面相が乗っている黒い気球は、下界の驚きを
(あとにして、ゆうゆうとおおぞらにのぼっていきます。)
あとにして、悠々と大空にのぼっていきます。
(ちじょうのさーちらいとは、ききゅうとともにこうどをたかめ)
地上のサーチライトは、気球と共に高度を高め
(ながら、くらやみのそらにおおきなしろいしまもようをえがいて)
ながら、暗闇の空に大きな白いしま模様をえがいて
(います。そのしろいしまもようのなかを、ぞくのききゅうは)
います。 その白いしま模様の中を、賊の気球は
(こくいっこく、そのかたちをちいさくしながら、たかくたかく、)
刻一刻、その形を小さくしながら、高く高く、
(むげんのそらへと、とおざかっていきました。かごのなかの)
無限の空へと、遠ざかっていきました。 カゴの中の
(ふたりのすがたは、とっくにみえなくなっていました。)
二人の姿は、とっくに見えなくなっていました。
(やがて、かごそのものさえも、あるかないかにちいさく)
やがて、カゴそのものさえも、あるかないかに小さく
(なり、さいごにはききゅうがてにすぼーるほどのくろいたまに)
なり、最後には気球がテニスボールほどの黒い玉に
(なって、さーちらいとのひかりのなかをゆらめいていました)
なって、サーチライトの光の中をゆらめいていました
(が、それさえも、いつしかやみのおおぞらにとけこむ)
が、それさえも、いつしか闇の大空に溶け込む
(ように、みえなくなってしまいました。)
ように、見えなくなってしまいました。
(「かいききゅうのさいご」)
「怪気球の最後」
(「にじゅうめんそう、くうちゅうににげる」というしらせが)
「二十面相、空中に逃げる」という知らせが
(つたわると、けいしちょうやかくけいさつしょがいうまでもなく、)
伝わると、警視庁や各警察署が言うまでもなく、
(かくしんぶんしゃのほうどうじんは、たちまちいろめきたちました。)
各新聞社の報道陣は、たちまち色めき立ちました。
(すぐさま、けいしちょうしゅのうぶのきんきゅうかいぎがひらかれ、)
すぐさま、警視庁首脳部の緊急会議がひらかれ、
(そのけっか、さーちらいとによってぞくのゆくえを)
その結果、サーチライトによって賊の行方を
(つきとめることになりました。まもなくとうきょうふきんのそら)
つきとめることになりました。 まもなく東京付近の空
(には、じゅうすうほんのさーちらいとのこうせんがいりみだれました。)
には、十数本のサーチライトの光線が入り乱れました。
(せんそうのようなさわぎです。とないのこうそうけんちくぶつのおくじょう)
戦争のような騒ぎです。都内の高層建築物の屋上
(からも、いくつかのさーちらいとがてらしだされ、)
からも、いくつかのサーチライトが照らしだされ、
(けいしちょうやしんぶんしゃのへりこぷたーは、よるがあけるのを)
警視庁や新聞社のヘリコプターは、夜が明けるのを
(まってとびだすために、えんじんをあたためて、)
待って飛び出すために、エンジンをあたためて、
(たいきのしせいをとりました。しかし、これほどの)
待機の姿勢をとりました。 しかし、これほどの
(おおさわぎをしても、くろいききゅうは、どうしてもみつける)
大騒ぎをしても、黒い気球は、どうしても見つける
(ことができませんでした。そのよるは、そらいちめんにくもが)
ことが出来ませんでした。その夜は、空一面に雲が
(ひくくたれていましたので、ききゅうはくものなかへはいって)
低く垂れていましたので、気球は雲の中へ入って
(しまったのかもしれません。けっきょく、せっかくの)
しまったのかもしれません。結局、せっかくの
(くうちゅうそうさくもよるがあけるまでは、なんのこうかもなくおわり)
空中捜索も夜が明けるまでは、何の効果もなく終わり
(ました。ところが、そのよくあさのことです。さいたまけん)
ました。ところが、その翌朝のことです。埼玉県
(くまがやしふきんのひとびとは、よるのうちにはれわたったあおぞらに、)
熊谷市付近の人々は、夜のうちに晴れ渡った青空に、
(なにかまっくろなごむふうせんのようなものがとんでいるのを)
何か真っ黒なゴム風船のようなものが飛んでいるのを
(はっけんして、たちまちおおさわぎをはじめました。そのあさの)
発見して、たちまち大騒ぎを始めました。 その朝の
(しんぶんが、ゆうべのとうきょうでのできごとをおおきくかきたてて)
新聞が、ゆうべの東京での出来事を大きく書きたてて
(いたものですから、ひとびとはすぐくろいふうせんのしょうたいを)
いたものですから、人々はすぐ黒い風船の正体を
(さとることができたのです。ぞくのききゅうは、よなかから)
悟ることが出来たのです。 賊の気球は、夜中から
(ふきはじめたとうなんのかぜにおくられて、よるのうちにここまで)
吹き始めた東南の風に送られて、夜のうちにここまで
(ただよってきたものにちがいありません。)
ただよってきたものに違いありません。
(「にじゅうめんそうだ。にじゅうめんそうがそらをとんでいるのだ」)
「二十面相だ。二十面相が空を飛んでいるのだ」
(くまがやしないはもちろん、ふきんのまちやむらでも、そういう)
熊谷市内はもちろん、付近の町や村でも、そういう
(ぶきみなこえがひろがっていき、ひとびとはいえをからにして、)
不気味な声が広がっていき、人々は家をからにして、
(がいろへはしりでて、あるいはやねのうえにのぼって、)
街路へ走り出て、あるいは屋根の上にのぼって、
(あおぞらにうかぶくろいふうせんをながめました。)
青空に浮かぶ黒い風船をながめました。