『少年探偵団』江戸川乱歩25
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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問題文
(そらには、かなりつよいかぜがふいているらしく、ききゅうは)
空には、かなり強い風が吹いているらしく、気球は
(ひじょうなそくどで、ほくせいのほうこうにとんでいます。みるみる)
非常な速度で、北西の方向に飛んでいます。みるみる
(うちにむらをこえ、もりをこえ、くまがやしのじょうくうをつうか)
うちに村を越え、森を越え、熊谷市の上空を通過
(して、ぐんまけんのほうへとびさっていくのです。)
して、群馬県のほうへ飛び去っていくのです。
(くまがやしのけいさつしょいんは、とびさるふうせんをながめて、)
熊谷市の警察署員は、飛び去る風船をながめて、
(じだんだをふんでくやしがりましたが、いくら)
地団駄を踏んでくやしがりましたが、いくら
(くやしがっても、こうしゃほうでいおとすことも)
くやしがっても、高射砲で射落とすことも
(できませんし、へりこぷたーをとばしてきかんじゅうで)
出来ませんし、ヘリコプターを飛ばして機関銃で
(しゃげきする、などということはおもいもよりません。)
射撃する、などということは思いもよりません。
(ただなにもしないで、そらをみまもるほかはないのでした。)
ただ何もしないで、空を見守るほかはないのでした。
(しかし、このことがでんわによってとうきょうにつたえられ)
しかし、このことが電話によって東京に伝えられ
(ますと、しんぶんしゃはまってましたとばかりに、)
ますと、新聞社は待ってましたとばかりに、
(それぞれがしょぞくするへりこぷたーにしゅつどうをめいじ)
それぞれが所属するヘリコプターに出動を命じ
(ました。ぞくをとらえるのぞみはなくても、せめて)
ました。賊をとらえる望みはなくても、せめて
(かいききゅうをついせきして、そのしゃしんをさつえいしたり、きじを)
怪気球を追跡して、その写真を撮影したり、記事を
(つくったりして、じけんのけいかをほうどうするためです。)
作ったりして、事件の経過を報道するためです。
(ごうけいよんだいのへりこぷたーが、たがいにまえになったり)
合計四台のヘリコプターが、互いに前になったり
(うしろになったりして、とうきょうのそらをしゅっぱつしました。)
うしろになったりして、東京の空を出発しました。
(そして、おそろしいすぴーどをだして、ちょうど)
そして、おそろしいスピードをだして、ちょうど
(くまがやしとたかさきしのちゅうかんのそらで、ぞくのききゅうにおいついて)
熊谷市と高崎市の中間の空で、賊の気球に追いついて
(しまったのです。それから、ぐんまけんなんぶのおおぞらに、)
しまったのです。 それから、群馬県南部の大空に、
(おもいがけないくうちゅうしょーがはじまりました。よんだいの)
思いがけない空中ショーが始まりました。 四台の
(へりこぷたーは、しほうからぞくのききゅうをつつむように)
ヘリコプターは、四方から賊の気球を包むように
(して、とんでいます。しかし、ぷろぺらのないききゅう)
して、飛んでいます。しかし、プロペラのない気球
(には、このかこみをやぶって、のがれるちからは)
には、この囲みをやぶって、のがれる力は
(ありません。かぜのままにふきながされているだけ)
ありません。風のままに吹き流されているだけ
(です。にじゅうめんそうは、いまやじゆうをうばわれたもどうぜんです。)
です。 二十面相は、今や自由を奪われたも同然です。
(とはいえ、へりこぷたーのほうでこれをきゅうにとらえる)
とはいえ、ヘリコプターのほうでこれを急にとらえる
(ほうほうもありません。ただ、ふうせんとおなじそくどでひこう)
方法もありません。ただ、風船と同じ速度で飛行
(しながら、こんきよくついせきをつづけるほかはないのです。)
しながら、根気よく追跡を続けるほかはないのです。
(このふしぎなくうちゅうしょーがつうかする、)
この不思議な空中ショーが通過する、
(まちやむらのひとたちは、しごともなにもうちすてて、)
町や村の人たちは、仕事も何もうちすてて、
(さきをあらそっていえのそとにとびだし、そらをみあげてくちぐちに)
先を争って家の外に飛び出し、空を見上げて口々に
(なにかをさけぶのでした。はたけののうみんもすきくわをなげ)
何かを叫ぶのでした。畑の農民もスキクワを投げ
(だしてそらをみまもっています。しょうがっこうのがらすまど)
だして空を見守っています。小学校のガラス窓
(からは、おとこのこやおんなのこのかおがいっかしょにかたまって)
からは、男の子や女の子の顔が一ヶ所に固まって
(います。ちょうどそのしたをとおりすぎるきしゃのまどにも、)
います。ちょうどその下を通り過ぎる汽車の窓にも、
(そらをみあげるひとのかおばかりです。よんだいの)
空を見上げる人の顔ばかりです。 四台の
(へりこぷたーは、ひしがたのいちをとって、つなをはった)
ヘリコプターは、ひし形の位置をとって、綱をはった
(ように、くろいききゅうをまんなかにはさみながら、どこまでも)
ように、黒い気球を真ん中に挟みながら、どこまでも
(どこまでもとんでいきます。ときにはいちだいの)
どこまでも飛んでいきます。 時には一台の
(へりこぷたーが、ぞくをおどかすように、すーっと)
ヘリコプターが、賊をおどかすように、スーッと
(ききゅうのまえをかすめたりします。にじゅうめんそうは、)
気球の前をかすめたりします。二十面相は、
(どんなきもちでいるのでしょう。このそらのかこみに)
どんな気持ちでいるのでしょう。この空の囲みに
(おちいっても、まだにげるつもりなのでしょうか。)
おちいっても、まだ逃げるつもりなのでしょうか。
(やがて、たかさきしのちかくにさしかかったとき、)
やがて、高崎市の近くにさしかかったとき、
(とうとうにじゅうめんそうのうんがつきました。くろいききゅうは)
とうとう二十面相の運がつきました。黒い気球は
(とつぜん、ふりょくをうしなったように、みるみるかこうをはじめた)
突然、浮力を失ったように、みるみる下降を始めた
(のです。ききゅうのどこかがやぶれて、がすがもれている)
のです。 気球のどこかがやぶれて、ガスがもれている
(ようすです。おお、ごらんなさい。いままではりきっていた)
様子です。おお、ご覧なさい。今まで張り切っていた
(くろいききゅうに、すこしずつしわがふえていくでは)
黒い気球に、少しずつシワが増えていくでは
(ありませんか。おそろしいこうけいでした。いっぷん、にふん、)
ありませんか。 おそろしい光景でした。一分、二分、
(さんぷん、しわはこくいっこくとふえていき、ききゅうはごむだまを)
三分、シワは刻一刻と増えていき、気球はゴム玉を
(おしつぶしたようなかたちにかわってしまいました。)
押しつぶしたような形に変わってしまいました。
(かぜがつよいものですから、かこうしながらも、たかさきしの)
風が強いものですから、下降しながらも、高崎市の
(ほうがくへふきつけられていきます。よんだいの)
方角へ吹きつけられていきます。四台の
(へりこぷたーは、それにつれて、かじをしたにむけ)
ヘリコプターは、それにつれて、かじを下に向け
(ながら、ひしがたのじんけいをみだしませんでした。たかさきしの)
ながら、ひし形の陣形を乱しませんでした。 高崎市の
(おかのうえには、こんくりーとづくりのきょだいなかんのんぞうが、)
丘の上には、コンクリート造りの巨大な観音像が、
(くもをつくばかりにそびえています。そのまえのひろば)
雲を突くばかりにそびえています。その前の広場
(にも、きかいなそらのしょーをけんぶつするために、おおくの)
にも、奇怪な空のショーを見物するために、多くの
(ひとがむらがっていたのですが、そのひとびとは、どんな)
人が群がっていたのですが、その人々は、どんな
(ぼうけんえいがにもれいのないような、むねがどきどきする)
冒険映画にも例のないような、胸がドキドキする
(こうけいをみることができました。はれわたったあおぞらを、)
光景を見ることが出来ました。 晴れ渡った青空を、
(きゅうこうかしてくるよんだいのへりこぷたー、そのせんとうには、)
急降下してくる四台のヘリコプター、その先頭には、
(しわくちゃになったまっくろなかいぶつが、もうまったく)
シワくちゃになった真っ黒な怪物が、もうまったく
(ふりょくをうしなって、ひじょうなそくりょくでちじょうへとついらくしてくる)
浮力を失って、非常な速力で地上へと墜落してくる
(のです。きずついたききゅうは、だいかんのんぞうのずじょうにせまり)
のです。 傷ついた気球は、大観音像の頭上にせまり
(ました。さーっとふきすぎるかぜに、しわくちゃの)
ました。サーッと吹き過ぎる風に、シワくちゃの
(ききゅうが、いまにもかんのんさまのおかおにまきつきそうにみえ)
気球が、今にも観音さまのお顔に巻き付きそうに見え
(ました。わー、わーっというさけびごえが、ちじょうのぐんしゅうの)
ました。ワー、ワーッという叫び声が、地上の群衆の
(なかからわきおこります。ききゅうはかんのんさまのおかおを)
中から沸き起こります。 気球は観音さまのお顔を
(なで、むねをこすって、くろいかいちょうのように、じめんへと)
なで、胸をこすって、黒い怪鳥のように、地面へと
(まいくだってきました。そして、またわーっとさけび)
舞いくだってきました。そして、またワーッと叫び
(ながら、あとずさりするぐんしゅうのまえに、よこなぐりに)
ながら、あとずさりする群衆の前に、横なぐりに
(ふきつけられて、とうとうくろいざんがいをさらした)
吹きつけられて、とうとう黒い残骸をさらした
(のでした。ききゅうのかごは、よこだおしになりじめんにおちて)
のでした。 気球のカゴは、横倒しになり地面に落ちて
(かぜにふかれたききゅうは、ずるずるとごじゅうめーとるほども)
風に吹かれた気球は、ズルズルと五十メートルほども
(ひきずられて、やっととまりました。なかのふたりは、)
引きずられて、やっと止まりました。中の二人は、
(かごといっしょにたおれたまま、きをうしなったのか、いつまで)
カゴと一緒に倒れたまま、気を失ったのか、いつまで
(たってもおきあがるようすさえありません。しんぶんしゃの)
たっても起き上がる様子さえありません。 新聞社の
(よんだいのへりこぷたーは、ぞくのさいごをみとどけると、)
四台のヘリコプターは、賊の最期を見届けると、
(このふきんにちゃくりくちはないものですから、そのまま、)
この付近に着陸地はないものですから、そのまま、
(またよんわのとびのようにあおぞらたかくまいあがって、)
また四羽のトビのように青空高く舞い上がって、
(とうきょうのほうがくへと、とびさりました。そのご、すぐに)
東京の方角へと、飛び去りました。そのご、すぐに
(ぐんしゅうをかきわけてすうめいのけいかんが、くろいききゅうのまえに)
群衆をかきわけて数名の警官が、黒い気球の前に
(あらわれました。たかさきのけいさつしょでは、にじゅうめんそうとうぼうの)
現れました。高崎の警察署では、二十面相逃亡の
(ことは、ゆうべのうちにつうちをうけていましたので、)
ことは、ゆうべのうちに通知を受けていましたので、
(とおくのそらにあやしいききゅうがあらわれると、すぐそれと)
遠くの空に怪しい気球が現れると、すぐそれと
(さっして、ききゅうがかこうをはじめたころには、けいかんたいの)
察して、気球が下降を始めた頃には、警官隊の
(じどうしゃが、かんのんぞうのちてんへとはしっていたのでした。)
自動車が、観音像の地点へと走っていたのでした。
(けいかんたちはよこだおしになったききゅうのかごにかけよって、)
警官たちは横倒しになった気球のカゴに駆け寄って、
(かごからはんしんをのりだしてきをうしなっている、)
カゴから半身を乗り出して気を失っている、
(にじゅうめんそうとしろいうわぎのこっくをいきなりだきおこそう)
二十面相と白い上着のコックをいきなり抱き起こそう
(としました。ところが、そのつぎのしゅんかんには、)
としました。 ところが、そのつぎの瞬間には、
(なんだかみょうなことがおこったのです。)
なんだかみょうなことが起こったのです。
(ふたりのぞくをはんぶんだきおこしたけいかんたちが、)
二人の賊を半分抱き起こした警官たちが、
(なにをおもったのか、とつぜんてをはなしてしまいました。)
何を思ったのか、突然手を放してしまいました。
(すると、ふたりのぞくはこつんとおとをたてて、)
すると、二人の賊はコツンと音をたてて、
(じめんへなげだされたのです。)
地面へ投げ出されたのです。