堀辰雄 あいびき 2

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タグ小説
堀辰雄の短編小説
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問題文

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(どうやらしんさいのときからそっくりそのままにされているらしい。)

どうやら震災の時からそっくりそのままにされているらしい。

(このいえのもちぬしであるがいこくじんはしんさいのときしんでしまったかもしれない。)

この家の持主である外国人は震災の時死んでしまったかも知れない。

(ふたりはそのあきやをかきのちゅうとからさいしょみたときふとかれらのこころにうかんだあるかんがえを)

二人はその空家を垣の中途から最初見たときふと彼等の心に浮んだ或る考えを

(いつかわすれてしまったかのように、そんなことばかりしゃべりあっている。)

いつか忘れてしまったかのように、そんなことばかりしゃべり合っている。

(が、そのいえのうらてに、そこのていえんからちょうどろだいへのぼるようなぐあいにして)

が、その家の裏手に、そこの庭園から丁度露台へ上るような工合にして

(ちょくせつにそのいえのにかいへつうじているらしい、きづたのからんだようふうのかいだんを)

直接にその家の二階へ通じているらしい、木蔦のからんだ洋風の階段を

(みいだしたときに、しょうねんよりいくぶんませているらしいしょうじょは)

見出した時に、少年よりいくぶん早熟ているらしい少女は

(おもいきったようにいった。)

思い切ったように言った。

(「ちょっとあれへのぼってみないこと?」)

「ちょっとあれへ上って見ないこと?」

(「うん・・・・・・」しょうねんはなまへんじをしている。)

「うん……」少年は生返事をしている。

(「そんならわたしがさきへいくわ・・・・・・」)

「そんなら私が先へ行くわ……」

(それでもといいかねて、やはりしょうねんはじぶんがさきにたってそのきづたのからんだ)

それでもと云いかねて、やはり少年は自分が先に立ってその木蔦のからんだ

(かいだんをすこしあぶなっかしそうなあしつきでのぼっていった。)

階段をすこし危なっかしそうな足つきで上って行った。

(が、そのちゅうとまでのぼったかとおもうと、しょうねんはきゅうにあしをとめた。)

が、その中途まで上ったかと思うと、少年は急に足を止めた。

(そこのかべのうえにかれのかおをあかくするようならくがきのかいてあるのを)

そこの壁の上に彼の顔を赧くするような落書の描いてあるのを

(はっけんしたからである。しょうねんはくるりときびすをかえすと、)

発見したからである。少年はくるりと踵を返すと、

(「やっぱりわるいからよそうよ」といいながら、)

「やっぱり悪いから止そうよ」と云いながら、

(ずんずんひとりでさきにおりてしまった。しょうじょはそこにひとりきりとりのこされて、)

ずんずん一人で先に降りてしまった。少女はそこに一人きり取り残されて、

(しばらくあっけにとられているようにみえたが、やがてかのじょもかれのあとをおった。)

しばらく呆気にとられているように見えたが、やがて彼女も彼のあとを追った。

(そうしてそのままふたりはかれらのlove-sceneにはもってこいにみえた)

そうしてそのまま二人は彼等のlove-sceneには持ってこいに見えた

など

(そのあきやのにわからとうとうたちさったのである。)

その空家の庭からとうとう立ち去ったのである。

(しょうねんはそのいえをとおざかるにつれ、つくづくじぶんに)

少年はその家を遠ざかるにつれ、つくづく自分に

(ぼうけんしんのたりないことをかなしむばかりであった。)

冒険心の足りないことを悲しむばかりであった。

(そうしてそのあたりのがいじんきょりゅうちかもしれないようかんばかりのたちならんだ)

そうしてその辺の外人居留地かも知れない洋館ばかりの立ち並んだ

(みしらないまちのなかをしょうじょとかたをならべてあるきながら、)

見知らない町の中を少女と肩をならべて歩きながら、

(そういうよわむしのじぶんにたいしてじぶんじしんではらをたててでもいるかのように、)

そういう弱虫の自分に対して自分自身で腹を立ててでもいるかのように、

(きゅうにいつになくおしゃべりになった。)

急に何時になくおしゃべりになった。

(「きみ、めりめえというひとのしょうせつをよんだことがある?」)

「君、メリメエという人の小説を読んだことがある?」

(「いいえ、ないわ」)

「いいえ、ないわ」

(「そうかい、ぼくはそのひとのしょうせつがとてもすきなんだがなあ・・・・・・)

「そうかい、僕はその人の小説がとても好きなんだがなあ……

(ぼくはそのひとのたんぺんでね、「まだむ/るくれえすがい」というのを)

僕はその人の短篇でね、『マダム・ルクレエス街』というのを

(よんだことがあるんだ・・・・・・そのなかにね、ちょうど、いまみたいないえがでてくるんだぜ、)

読んだことがあるんだ……その中にね、丁度、今みたいな家が出てくるんだぜ、

(それはいたりいのはなしだけれど・・・・・・ところがそのあきやのにかいのながいすがね、)

それは伊太利の話だけれど……ところがその空家の二階の長椅子がね、

(ひとつだけほこりがちっともたまっていなくて、なんだかしじゅうひとに)

一つだけ埃がちっとも溜まっていなくて、何だか始終人に

(つかわれているみたいだったんだ・・・・・・じつはそこでね、まいばんあるおひめさまがそのこいびとと)

使われている見たいだったんだ……実はそこでね、毎晩あるお姫様がその恋人と

(あいびきをしていたということがあとでわかるんだよ。そういえば、いまのあそこの)

あいびきをしていたということが後でわかるんだよ。そう云えば、今のあそこの

(にかいもね、ぼくはなんだかそんなひみつでもありそうなきがしてならなかったよ・・・・・・)

二階もね、僕は何だかそんな秘密でもありそうな気がしてならなかったよ……

(やはりさっきのぼってみればよかったなあ・・・・・・」)

やはりさっき上って見ればよかったなあ……」

(「まあ・・・・・・」しょうじょはそんなとっぴょうしもないしょうねんのはなしをききながら)

「まあ……」少女はそんな突拍子もない少年の話を聴きながら

(かおをまっかにしていた。それにきがつくと、しょうねんもかおをまっかにした。)

顔を真っ赤にしていた。それに気がつくと、少年も顔を真っ赤にした。

(そうしてしばらくきまりわるそうにふたりはだまってあるいていたが、)

そうしてしばらく気まり悪そうに二人は黙って歩いていたが、

(こんどはしょうじょのほうがくちをきいた。)

今度は少女の方が口をきいた。

(「あなたはずいぶんくうそうかね」)

「あなたは随分空想家ね」

(「そうかなあ・・・・・・」どうもこれはしょうねんのくちぐせのようにみえる。)

「そうかなあ……」どうもこれは少年の口癖のように見える。

(きがついてみると、いつのまにかふたりのまえにはごろくにんの、しなじんのこどもたちが)

気がついて見ると、いつの間にか二人の前には五六人の、支那人の子供たちが

(たちはだかっていてひやかすようにかれらをみあげているのである。ふたりはいっそう)

立ちはだかっていて冷やかすように彼等を見上げているのである。二人は一層

(まごまごした。いつのまにこんなしなじんまちへなどあしをふみいれたのかしら。・・・・・・)

まごまごした。いつの間にこんな支那人町へなど足を踏み入れたのかしら。……

(それはどこのまちにもぽかぽかとひのあたっているような、)

それは何処の町にもぽかぽかと日の当っているような、

(なんとなくうっとりするような、ごがつのあるごごのことであった。)

何となくうっとりするような、五月の或る午後のことであった。

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