駆込み訴え11
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問題文
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(わたしも、もうすでにどきょうがついていたのだ。)
私も、もうすでに度胸がついていたのだ。
(はじるよりはにくんだ。あのひとのいまさらながらのいじわるさをにくんだ。)
恥じるよりは憎んだ。あの人の今更ながらの意地悪さを憎んだ。
(このようにでしたちみなのまえでこうぜんとわたしをはずかしめるのが、)
このように弟子たち皆の前で公然と私を辱かしめるのが、
(あのひとのこれまでのしきたりなのだ。)
あの人の之(これ)までの仕来りなのだ。
(ひとみずと。えいえんにとけあうことのないしゅくめいが、)
火と水と。永遠に解け合う事の無い宿命が、
(わたしとあいつとのあいだにあるのだ。)
私とあいつとの間に在るのだ。
(いぬかねこにあたえるように、)
犬か猫に与えるように、
(ひとつまみのぱんくずをわたしのくちにおしいれて、)
一つまみのパン屑を私の口に押し入れて、
(それがあいつのせめてものはらいせだったのか。)
それがあいつのせめてもの腹いせだったのか。
(ははん。ばかなやつだ。)
ははん。ばかな奴だ。
(だんなさま、あいつはわたしに、)
旦那さま、あいつは私に、
(おまえのなすことをすみやかになせといいました。)
おまえの為すことを速かに為せと言いました。
(わたしはすぐにりょうていからはしりでて、)
私はすぐに料亭から走り出て、
(ゆうやみのみちをひたはしりにはしり、ただいまここにまいりました。)
夕闇の道をひた走りに走り、ただいまここに参りました。
(そうしていそぎ、このとおりうったえもうしあげました。)
そうして急ぎ、このとおり訴え申し上げました。
(さあ、あのひとをばっしてください。)
さあ、あの人を罰して下さい。
(どうともかってに、ばっしてください。)
どうとも勝手に、罰して下さい。
(とらえて、ぼうでなぐってすっぱだかにしてころすがよい。)
捕えて、棒で殴って素裸にして殺すがよい。
(もう、もうわたしはがまんならない。)
もう、もう私は我慢ならない。
(あれは、いやなやつです。ひどいひとだ。)
あれは、いやな奴です。ひどい人だ。
など
(わたしをいままで、あんなにいじめた。はははは、ちきしょうめ。)
私を今まで、あんなにいじめた。はははは、ちきしょうめ。
(あのひとはいま、けでろんのおがわのかなた、げっせまねのそのにいます。)
あの人はいま、ケデロンの小川の彼方、ゲッセマネの園にいます。
(もうはや、あのにかいざしきのゆうげもすみ、)
もうはや、あの二階座敷の夕餐もすみ、
(でしたちとともにげっせまねのそのにいき、)
弟子たちと共にゲッセマネの園に行き、
(いまごろは、きっとてんへおいのりをささげているじこくです。)
いまごろは、きっと天へお祈りを捧げている時刻です。
(でしたちのほかにはだれもおりません。)
弟子たちのほかには誰も居りません。
(いまならなんなくあのひとをとらえることができます。)
今なら難なくあの人を捕えることが出来ます。