『妖怪博士』江戸川乱歩16
○少年探偵団シリーズ第3作品『妖怪博士』
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順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | berry | 6921 | S++ | 7.1 | 97.5% | 664.3 | 4718 | 120 | 100 | 2024/10/06 |
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問題文
(「いや、ここでそんなひにちのあらそいをしていても)
「いや、ここでそんな日にちの争いをしていても
(はじまりません。それでは、こういうことにしよう)
始まりません。それでは、こういうことにしよう
(じゃありませんか。わたしたちとしては、どなたであれ、)
じゃありませんか。私たちとしては、どなたであれ、
(すこしでもはやくしょるいをとりもどし、こどもをさがしだして)
少しでも早く書類を取り戻し、子どもを探し出して
(くださればよいのですから。おふたりべつべつに、できる)
くださればよいのですから。お二人別々に、出来る
(だけはやくはんにんをつきとめていただくことにしてはどう)
だけ早く犯人を突き止めていただくことにしてはどう
(でしょう。なにもあなたがたをきょうそうさせるつもりは)
でしょう。何もあなた方を競争させるつもりは
(ないのですが、とのむらさんも、せっかくこうしてじょりょくを)
ないのですが、殿村さんも、せっかくこうして助力を
(もうしでてくださったのですから、おことわりするわけにも)
申し出てくださったのですから、お断りする訳にも
(いきませんし。ねえ、あけちさん、どうでしょうか」)
いきませんし。ねえ、明智さん、どうでしょうか」
(「いや、あいかわさん。おとなげないこうろんなんかはじめて、)
「いや、相川さん。大人げない口論なんか始めて、
(しつれいしました。そういうことでしたら、ぼくとしては)
失礼しました。そういうことでしたら、ぼくとしては
(もんだいありません。このとのむらくんとやらと、はんにん)
問題ありません。この殿村君とやらと、犯人
(さがしのきょうそうをしてみましょう。ぼくのほうには、まだ)
探しの競争をしてみましょう。ぼくのほうには、まだ
(そうさのてがかりはひとつもないので、このきょうそうは、)
捜査の手がかりは一つもないので、この競争は、
(ぼくのほうにおおきなふりがあるわけですね。しかし、)
ぼくのほうに大きな不利がある訳ですね。しかし、
(すこしもかまいません。かえってはたらきがいがあるという)
少しも構いません。かえって働きがいがあるという
(ものです」あけちはおだやかに、あいかわぎしちょうのもうしでに)
ものです」明智は穏やかに、相川技師長の申し出に
(おうじました。「とのむらさんは、いかがでしょうか」)
応じました。「殿村さんは、いかがでしょうか」
(「あけちくんでは、あいてにとってふそくじゃが、そっちが)
「明智君では、相手にとって不足じゃが、そっちが
(やるというのなら、わしもちょうせんにおうじましょう。)
やると言うのなら、わしも挑戦に応じましょう。
(だがあけちくん、きみはいまのうちにこうさんしたほうがよくは)
だが明智君、きみは今のうちに降参したほうがよくは
(ないかね。とてもこのきょうそうは、かちめがなさそうだ」)
ないかね。とてもこの競争は、勝ち目がなさそうだ」
(とのむらは、あくまでふゆかいなあくたいをつくのでした。)
殿村は、あくまで不愉快な悪態をつくのでした。
(「こじきのしょうねん」)
「乞食の少年」
(それからしばらくたって、あけちたんていととのむらたんていは、)
それからしばらく経って、明智探偵と殿村探偵は、
(たがいにまをおかずにとうようせいさくがいしゃのもんをでました。)
互いに間をおかずに東洋製作会社の門を出ました。
(とのむらはわかれのあいさつをするでもなく、ぶあいそうな、)
殿村は別れのあいさつをするでもなく、不愛想な、
(てきいにもえためでじろりとあけちをにらんでおいて、)
敵意に燃えた目でジロリと明智をにらんでおいて、
(まがりくねったすてっきをつきながら、からだをふたつに)
曲がりくねったステッキをつきながら、体を二つに
(おるようにして、よちよちとあるいていきます。)
折るようにして、ヨチヨチと歩いていきます。
(すると、どこにかくれていたのか、ひとりのこじきの)
すると、どこに隠れていたのか、一人の乞食の
(こどもが、せきもんのなかからひょっこりすがたをあらわしました。)
子どもが、石門の中からヒョッコリ姿を現しました。
(のびほうだいにのびたかみのけ、すすをぬったようにくろく)
伸び放題に伸びた髪の毛、ススを塗ったように黒く
(よごれたかお、ぼろぼろにさけやぶれたようふく。としはじゅうよんか)
よごれた顔、ボロボロに裂け破れた洋服。歳は十四か
(じゅうごほどの、みるからにきたないこじきのしょうねんです。こじきは)
十五ほどの、見るからに汚い乞食の少年です。乞食は
(もんのそとへでると、まだそこにたって、とのむらのうしろすがたを)
門の外へ出ると、まだそこに立って、殿村の後ろ姿を
(みおくっていたあけちたんていをひょいとみあげました。)
見送っていた明智探偵をヒョイと見上げました。
(あけちも、どうようにこじきのかおをみました。そして、ふたりの)
明智も、同様に乞食の顔を見ました。そして、二人の
(めとめがぶつかると、あけちとこじきのしょうねんは、なぜか)
目と目がぶつかると、明智と乞食の少年は、なぜか
(いみありげににっこりとわらいました。)
意味ありげにニッコリと笑いました。
(おや、あけちたんていは、こんなきたないこじきと、しりあい)
おや、明智探偵は、こんな汚い乞食と、知り合い
(なのでしょうか。しりあいでなければ、あんなにも)
なのでしょうか。知り合いでなければ、あんなにも
(したしそうなえがおをみせるはずはないのですが。)
親しそうな笑顔を見せるはずはないのですが。
(しかしこじきのしょうねんは、べつにものをいうでもなく、)
しかし乞食の少年は、別に物を言うでもなく、
(そのまま、とのむらのあとをおうようにたちさっていき)
そのまま、殿村のあとを追うように立ち去って行き
(ました。つえをつきせなかをまるくして、よちよちとあるく)
ました。杖をつき背中を丸くして、ヨチヨチと歩く
(たんてい、そのすこしうしろから、おともでもするようについて)
探偵、その少し後ろから、お供でもするように付いて
(いくこじきのこぞう。ふたりのすがたは、まるできみょうなおやこの)
行く乞食の小僧。二人の姿は、まるで奇妙な親子の
(ようにみえました。あけちたんていはじむしょにかえると、)
ように見えました。 明智探偵は事務所に帰ると、
(そのままかいかのようしつにとじこもって、のんきにどくしょを)
そのまま階下の洋室に閉じこもって、のんきに読書を
(はじめました。べつにそうさくのためにがいしゅつするようすもない)
始めました。別に捜索のために外出する様子もない
(のです。ゆうしょくをすませてからも、やっぱりおなじへやに)
のです。 夕食を済ませてからも、やっぱり同じ部屋に
(とじこもったまま、こんどはつくえのうえにかみをひろげて、)
閉じこもったまま、今度は机の上に紙をひろげて、
(むずかしいすうがくのけいさんをはじめました。これはあけちのひとつの)
難しい数学の計算を始めました。これは明智の一つの
(どうらくで、ひまでこまるときにはいつも、ふつうのひとにはあたまの)
道楽で、暇で困る時にはいつも、普通の人には頭の
(いたくなるような、すうがくのもんだいをといてたのしむのがくせ)
痛くなるような、数学の問題を解いて楽しむのがクセ
(でした。みょうなどうらくもあるものです。しかし、)
でした。みょうな道楽もあるものです。しかし、
(そんなのんきなまねをしていいのでしょうか。みっかの)
そんなのんきな真似をしていいのでしょうか。三日の
(うちにはんにんをはっけんするというやくそくではありませんか。)
うちに犯人を発見するという約束ではありませんか。
(あいてのとのむらはいまごろきっと、ひじょうないきごみでかつどうして)
相手の殿村は今頃きっと、非常な意気込みで活動して
(いるにちがいありません。ですがあけちは、そのたいせつな)
いるに違いありません。ですが明智は、その大切な
(じかんを、じけんとはなんのかんけいもないすうがくのけいさんをして、)
時間を、事件とは何の関係もない数学の計算をして、
(まったくむだについやしているのです。いったい、あけちは)
まったく無駄に費やしているのです。一体、明智は
(なにをかんがえているのでしょう。ところが、そのよるの)
何を考えているのでしょう。 ところが、その夜の
(はちじごろになって、みょうなことがおこりました。)
八時頃になって、みょうなことが起こりました。
(すうがくのけいさんにむちゅうになっているあけちのへやへ、まどから)
数学の計算に夢中になっている明智の部屋へ、窓から
(しのびこむものがいたのです。まどのそと、まっくらにきが)
忍び込む者がいたのです。窓の外、真っ暗に木が
(しげっているにわに、ひとのかげがうごいたかとおもうと、)
しげっている庭に、人の影が動いたかと思うと、
(なにものかがまどがらすにぴったりとかおをあてて、へやの)
何者かが窓ガラスにピッタリと顔を当てて、部屋の
(なかをのぞいているようすでしたが、やがてそろそろと)
中をのぞいている様子でしたが、やがてソロソロと
(まどがひらかれ、ひとりのきたないこじきのしょうねんが、そこから)
窓がひらかれ、一人の汚い乞食の少年が、そこから
(しつないへはいりこんできたではありませんか。ああ、)
室内へ入り込んで来たではありませんか。ああ、
(あいつです。ひるま、とのむらたんていのあとをおっていった、)
あいつです。昼間、殿村探偵のあとを追って行った、
(あのこじきのしょうねんです。あけちたんていのへやへしのびこんで、)
あの乞食の少年です。明智探偵の部屋へ忍び込んで、
(いったいなにをするつもりなのでしょう。もしかしたら、)
一体何をするつもりなのでしょう。もしかしたら、
(とのむらのめいれいで、あけちにきがいをくわえるためにやってきた)
殿村の命令で、明智に危害を加えるためにやって来た
(のではないでしょうか。しかし、あけちたんていともあろう)
のではないでしょうか。しかし、明智探偵ともあろう
(ものが、いくらけいさんにねっちゅうしていたからといって、)
者が、いくら計算に熱中していたからといって、
(まどがひらき、ひとがしのびこんだのにきづかないはずは)
窓がひらき、人が忍び込んだのに気づかないはずは
(ありません。こじきのしょうねんがまどをのりこして、そこに)
ありません。乞食の少年が窓を乗り越して、そこに
(たったとき、たんていはつくえのうえからひょいとかおをあげて、)
立った時、探偵は机の上からヒョイと顔を上げて、
(そのほうをふりかえりました。あけちはこじきのしょうねんを)
そのほうを振り返りました。明智は乞食の少年を
(みて、あっとおどろいたでしょうか。また、こじきのしょうねんは)
見て、アッと驚いたでしょうか。また、乞食の少年は
(たんていにはっけんされて、ぎょっとしてにげだした)
探偵に発見されて、ギョッとして逃げ出した
(でしょうか。いやいや、けっしてそうではなかった)
でしょうか。いやいや、決してそうではなかった
(のです。じつにふしぎなことに、たんていもこじきのしょうねんも、)
のです。実に不思議なことに、探偵も乞食の少年も、
(すこしもおどろくようすはなく、おたがいにかおをみあわせて、)
少しも驚く様子はなく、お互いに顔を見合わせて、
(にこにことわらいだしたのです。それから、ますます)
ニコニコと笑いだしたのです。 それから、ますます
(みょうなことがおこりました。こじきのしょうねんは)
みょうなことが起こりました。乞食の少年は
(なんのえんりょもなく、つかつかとあけちのつくえのそばにすすみ)
何の遠慮もなく、ツカツカと明智の机のそばに進み
(よったかとおもうと、たんていのみみにくちをあてて、なにかしら)
寄ったかと思うと、探偵の耳に口を当てて、何かしら
(ぼそぼそとささやきはじめたのです。そして、ながいあいだ)
ボソボソとささやき始めたのです。そして、長い間
(ささやいてからかおをあげて、またにっこりとわらい)
ささやいてから顔を上げて、またニッコリと笑い
(ました。あけちたんていはこじきのしょうねんのことばを、しきりに)
ました。 明智探偵は乞食の少年の言葉を、しきりに
(うなずきながらきいていましたが、ききおわると)
うなずきながら聞いていましたが、聞き終わると
(むごんのままみぎてをあげて、みょうなあいずをしました。)
無言のまま右手を上げて、みょうな合図をしました。
(するとこじきのしょうねんは、だまってつくえのそばからはなれ、)
すると乞食の少年は、黙って机のそばから離れ、
(まどにかけよって、ひらりとそとのやみへすがたをけして)
窓に駆け寄って、ヒラリと外の闇へ姿を消して
(しまいました。)
しまいました。