夜長姫と耳男2

1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
初出:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
入力:砂場清隆
校正:田中敬三
2006年2月21日作成
青空文庫作成ファイル
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問題文
(よながのちょうじゃのししゃあなまろもあにでしたちのいいぶんにりがあるようだとかんがえた。)
夜長の長者の使者アナマロも兄弟子たちの言い分に理があるようだと考えた。
(そこでおれをひそかにべっしつへよんで、)
そこでオレをひそかに別室へよんで、
(「おまえのししょうはもうろくしてあんなことをいったが、)
「お前の師匠はモウロクしてあんなことを云ったが、
(まさかおまえはちょうじゃのまねきにすすんでおうじるほどむこうみずではあるまいな」)
まさかお前は長者の招きに進んで応じるほど向う見ずではあるまいな」
(こういわれると、おれはむらむらとはらがたった。)
こう云われると、オレはムラムラと腹が立った。
(そのときまでおやかたのことばをうたがったり、)
その時まで親方の言葉を疑ったり、
(じぶんのうでにふあんをかんじていたのがいっときにかききえて、かおにちがこみあげた。)
自分の腕に不安を感じていたのが一時に掻き消えて、顔に血がこみあげた。
(「おれのうでじゃあふそくなほど、よながのちょうじゃはとうといひとですかい。)
「オレの腕じゃア不足なほど、夜長の長者は尊い人ですかい。
(はばかりながら、おれのきざんだぶつぞうがふそくだというてらはてんかにひとつもないはずだ」)
はばかりながら、オレの刻んだ仏像が不足だという寺は天下に一ツもない筈だ」
(おれはめもくらみみみもふさがり、さけびたてるわがすがたを)
オレは目もくらみ耳もふさがり、叫びたてるわが姿を
(ときをつくるのようだとおもったほどだ。あなまろはくしょうした。)
トキをつくるのようだと思ったほどだ。アナマロは苦笑した。
(「あいでしどもとちんじゅのほこらをつくるのとはわけがちがうぞ。)
「相弟子どもと鎮守のホコラを造るのとはワケがちがうぞ。
(おまえがうでくらべをするのは、おまえのしとならんで)
お前が腕くらべをするのは、お前の師と並んで
(ひだのさんめいじんとうたわれているあおがさとふるかまだぞ」)
ヒダの三名人とうたわれている青ガサとフル釜だぞ」
(「あおがさもふるかまも、おやかたすらもおそろしいとおもうものか。)
「青ガサもフル釜も、親方すらも怖ろしいと思うものか。
(おれがいっしんふらんにやれば、おれのいのちがおれのつくるてらやぶつぞうにやどるだけだ」)
オレが一心不乱にやれば、オレのイノチがオレの造る寺や仏像に宿るだけだ」
(あなまろはあわれんでためいきをもらすようなおももちであったが、)
アナマロはあわれんで溜息をもらすような面持であったが、
(どうおもいなおしてか、おれをおやかたのかわりにちょうじゃのやしきへつれていった。)
どう思い直してか、オレを親方の代りに長者の邸へ連れていった。
(「きさまはしあわせものだな。)
「キサマは仕合せ者だな。
(きさまのつくったしなものがおめがねにかなうはずはないが、)
キサマの造った品物がオメガネにかなう筈はないが、
(にほんぢゅうのおとこというおとこがまだみぬこいにむねをこがしている)
日本中の男という男がまだ見ぬ恋に胸をこがしている
(よながひめさまのおんみちかくでくらすことができるのだからさ。)
夜長姫サマの御身ちかくで暮すことができるのだからさ。
(せいぜいしごとをながびかせて、いっときもながくとうりゅうのくふうをめぐらすがよい。)
せいぜい仕事を長びかせて、一時も長く逗留の工夫をめぐらすがよい。
(どうせかなわぬしごとのくふうはいらぬことだ」)
どうせかなわぬ仕事の工夫はいらぬことだ」
(みちみち、あなまろはこんなことをいっておれをいらだたせた。)
道々、アナマロはこんなことを云ってオレをイラだたせた。
(「どうせかなわぬおれをつれていくことはありますまい」)
「どうせかなわぬオレを連れて行くことはありますまい」
(「そこがむしのかげんだな。きさまはうんのいいやつだ」)
「そこが虫のカゲンだな。キサマは運のいい奴だ」
(おれはたびのとちゅうであなまろにわかれていくどかたちかえろうとおもった。)
オレは旅の途中でアナマロに別れて幾度か立ち帰ろうと思った。
(しかし、あおがさやふるかまとわざをきそうめいよがおれをゆうわくした。)
しかし、青ガサやフル釜と技を競う名誉がオレを誘惑した。
(かれらをおそれてにげたとおもわれるのがしんがいであった。)
彼らを怖れて逃げたと思われるのが心外であった。
(おれはじぶんにいいきかせた。)
オレは自分に云いきかせた。
(「いっしんふらんに、おれのいのちをうちこんだしごとをやりとげればそれでいいのだ。)
「一心不乱に、オレのイノチを打ちこんだ仕事をやりとげればそれでいいのだ。
(めだまがふしあなどうぜんのやつらのめがねにかなわなくとも、それがなんだ。)
目玉がフシアナ同然の奴らのメガネにかなわなくとも、それがなんだ。
(おれがきざんだぶつぞうをみちのほこらにあんちして、)
オレが刻んだ仏像を道のホコラに安置して、
(そのしたにあなをほって、つちにうずもれてしぬだけのことだ」)
その下に穴を掘って、土に埋もれて死ぬだけのことだ」
(たしかにおれはいきてかえらぬようなひつうなかくごをむねにかためていた。)
たしかにオレは生きて帰らぬような悲痛な覚悟を胸にかためていた。
(つまりはあおがさやふるかまをおそれるこころのせいであろう。)
つまりは青ガサやフル釜を怖れる心のせいであろう。
(しょうじきなところ、じしんはなかった)
正直なところ、自信はなかった