耳なし芳一 4 /9
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問題文
(「かいもん!」)
「開門!」
(とさむらいがよばわると、かんぬきをはずすおとがしました。)
と侍が呼ばわると、閂を外す音がしました。
(ふたりはもんをぬけました。)
二人は門を抜けました。
(しばらくにわをよこぎると、またなにやらげんかんらしきところでたちどまりました。)
しばらく庭を横切ると、また何やら玄関らしき所で立ち止まりました。
(そこで、ごけにんはだいおんじょうでさけびました。)
そこで、御家人は大音声で叫びました。
(「もうし。ただいま、ほういちをつれてまいりました」)
「もうし。ただ今、芳一を連れて参りました」
(すると、せわしそうなあしおとがして、ふすまをすべらすおと、)
すると、せわしそうな足音がして、襖をすべらす音、
(あまどをおしあけるおと、おんなたちのはなしごえなどがきこえました。)
雨戸を押し開ける音、女たちの話し声などが聞こえました。
(そのことばつきから、このおんなたちは、)
その言葉つきから、この女たちは、
(こうきなやしきのおじょちゅうしゅうであるとわかりました。)
高貴な屋敷のお女中衆であるとわかりました。
(でも、ほういちにはいったいどんなところにつれてこられたものやら、)
でも、芳一にはいったいどんなところに連れて来られたものやら、
(とんとけんとうもつきません。)
とんと見当もつきません。
(あれこれかんがえをめぐらすひまもあらばこそ、)
あれこれ考えをめぐらす暇もあらばこそ、
(いしだんをのぼるよううながされて、いくだんかのぼりつめると、)
石段を昇るよう促されて、幾段か昇りつめると、
(ぞうりをぬぐようにめいじられました。)
草履を脱ぐように命じられました。
(そこで、おんなのひとにてをひかれて、)
そこで、女の人に手を引かれて、
(いつはてるともしらぬながい、みがきあげたいたばりをわたり、)
いつ果てるとも知らぬ長い、磨き上げた板張りを渡り、
(おもいだせぬほどかどをまがり、たまげるほどひろいたたみじきのへやをぬけて、)
思い出せぬほど角を曲がり、たまげるほど広い畳敷きの部屋を抜けて、
(とうとう、どこやらおおひろまのまんなかへとやってまいりました。)
とうとう、どこやら大広間の真ん中へとやって参りました。
(そこにはおおぜいえらいひとびとがあつまっているようすで、)
そこにはおおぜい偉い人々が集まっている様子で、
(きぬずれのおとがもりのこのはのそよめきのようにきこえてきます。)
衣ずれの音が森の木の葉のそよめきのように聞こえてきます。
(それにまた、おおきなざわめきのこえもみみにはいってきます。)
それにまた、大きなざわめきの声も耳に入ってきます。
(いずれもひくくおさえたちょうしであるものの、)
いずれも低くおさえた調子であるものの、
(そのことばはきゅうちゅうのことばでありました。)
その言葉は宮中の言葉でありました。
(ほういちはらくにするようにいわれて、)
芳一は楽にするように言われて、
(きがつくと、じぶんのためのざぶとんがだされております。)
気がつくと、自分のための座布団が出されております。
(こしをおろして、がっきのちょうしをあわせました。)
腰を下ろして、楽器の調子を合わせました。
(すると、どうやらじじょのかしらであるろうじょらしきひとのこえが、)
すると、どうやら侍女の頭である老女らしき人の声が、
(はなしかけてきて、)
話しかけてきて、
(「さあ、そのびわのおとにあわせて、へいけものがたりをかたりきかせよ、)
「さあ、その琵琶の音にあわせて、平家物語を語り聞かせよ、
(とのおおせにござります」)
との仰せにござります」
(そうはいっても、へいけものがたりをすっかりかたるにはいくばんもかかります。)
そうはいっても、平家物語をすっかり語るには幾晩もかかります。
(そこで、ほういちはおもいきってたずねてみました。)
そこで、芳一は思い切って尋ねてみました。
(「<へいけ>のぜんきょくとなると、そうたやすくかたれるものではございません。)
「<平家>の全曲となると、そうたやすく語れるものではございません。
(どのだんをかたってきかせよとのごしょもうなのでしょうか」)
どの段を語って聞かせよとのご所望なのでしょうか」
(そのおんなのこえがこたえます。)
その女の声が答えます。
(「だんのうらのかっせんのだんをおかたりなさいーー)
「壇ノ浦の合戦の段をお語りなさいーー
(あれがいちばんあわれぶこうござりますゆえ」)
あれが一番あわれ深うござりますゆえ」