耳なし芳一 6 /9

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芳一の様子を不審に思った和尚はひそかに寺男に後をつけさせました。
小泉八雲/原作

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問題文

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(ほういちがもどったのは、かれこれよあけちかくでした。)

芳一が戻ったのは、かれこれ夜明け近くでした。

(が、てらをあけたことはだれにもきづかれておりません。)

が、寺をあけたことは誰にも気づかれておりません。

(かえりがひどくおそくなったおしょうは、)

帰りがひどく遅くなった和尚は、

(てっきりほういちがねてしまったものとおもったのです。)

てっきり芳一が寝てしまったものと思ったのです。

(ほういちはひるのあいだにしばらくきゅうそくをとり、)

芳一は昼の間にしばらく休息を取り、

(さくばんのふしぎなできごとのことはひとことももらしませんでした。)

昨晩の不思議な出来事のことは一言も漏らしませんでした。

(つぎのばんも、まよなかになると、れいのさむらいがふたたびむかえにきて、)

次の晩も、真夜中になると、例の侍がふたたび迎えに来て、

(ほういちをこうきなかたがたのあつまりへとあんないしました。)

芳一を高貴な方々の集まりへと案内しました。

(そのせきでほういちはさくやえたようなせいこうをはくしました。)

その席で芳一は昨夜得たような成功を博しました。

(ところが、このにどめのしこうのさいに、)

ところが、この二度目の伺候の際に、

(ほういちがてらをるすにしていたことが、)

芳一が寺を留守にしていたことが、

(ぐうぜんみつかってしまったのです。)

偶然見つかってしまったのです。

(よくあさになってもどってきたほういちは、おしょうのまえによびつけられました。)

翌朝になって戻ってきた芳一は、和尚の前に呼びつけられました。

(おしょうはやさしくしかるようなちょうしで、)

和尚はやさしく叱るような調子で、

(「ほういちや、わしらはみなおまえのみをひどくあんじておったのだよ。)

「芳一や、わしらは皆おまえの身をひどく案じておったのだよ。

(めのみえぬものがあんなによるおそくひとりでであるいたりして、)

目の見えぬ者があんなに夜遅く一人で出歩いたりして、

(あぶないではないか。)

危ないではないか。

(なぜ、そうひとことことわってくれぬのじゃ。)

なぜ、そう一言断ってくれぬのじゃ。

(それなら、とものものをつけることもできたものを。)

それなら、供の者をつけることもできたものを。

(して、いったいどこへいっておったのじゃな」)

して、いったいどこへ行っておったのじゃな」

など

(ほういちはさもあいまいにーー)

芳一はさもあいまいにーー

(「はい、おしょうさま、もうしわけございません。)

「はい、和尚さま、申し訳ございません。

(じつは、ちょっとしようがございまして。)

じつは、ちょっと私用がございまして。

(それに、ほかにはじかんのつごうがつかなかったもので、つい」)

それに、ほかには時間の都合がつかなかったもので、つい」

(ほういちがことばをにごすのをきいて、)

芳一が言葉を濁すのを聞いて、

(おしょうははらをたてるよりさきに、おどろいてしまいました。)

和尚は腹を立てるより先に、驚いてしまいました。

(これはおかしいぞ、)

これはおかしいぞ、

(なにかただならぬことがあるにそういないとおもったのです。)

なにかただならぬことがあるに相違ないと思ったのです。

(ひょっとすると、このもうもくのわかものはなにかあくりょうにでもみいられ、)

ひょっとすると、この盲目の若者はなにか悪霊にでも魅入られ、

(たぶらかされでもしたのではあるまいか。)

たぶらかされでもしたのではあるまいか。

(おしょうはそれいじょうはといただしませんでした。)

和尚はそれ以上は問いただしませんでした。

(そのかわり、ひそかにてらおとこらをよんで、)

そのかわり、ひそかに寺男らを呼んで、

(ほういちのきょどうからめをはなさぬように、)

芳一の挙動から目を離さぬように、

(そしてまんいちくらくなってからてらをでるようなことがあれば、)

そして万一暗くなってから寺を出るようなことがあれば、

(あとをつけるようにとめいじました。)

跡をつけるようにと命じました。

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