紫式部 源氏物語 末摘花 4 與謝野晶子訳

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問題文

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(それからのちふたりのきこうしがひたちのみやのひめぎみへてがみをおくったことはそうぞうするに)

それからのち二人の貴公子が常陸の宮の姫君へ手紙を送ったことは想像するに

(かたくない。しかしどちらへもへんじはこない。それがきになってとうのちゅうじょうは、)

かたくない。しかしどちらへも返事は来ない。それが気になって頭中将は、

(いやなたいどだ、あんないえにすんでいるようなひとはもののあわれに)

いやな態度だ、あんな家に住んでいるような人は物の哀れに

(かんじやすくなっていねばならないはずだ、しぜんのきやくさやそらのながめにも)

感じやすくなっていねばならないはずだ、自然の木や草や空のながめにも

(こころといっちするものをみいだしておもしろいてがみをかいてよこすようでなければ)

心と一致するものを見いだしておもしろい手紙を書いてよこすようでなければ

(ならない、いくらじそんしんのあるのはよいものでも、こんなにへんじを)

ならない、いくら自尊心のあるのはよいものでも、こんなに返事を

(よこさないおんなにははんかんがおこるなどとおもっていらいらとするのだった。)

よこさない女には反感が起こるなどと思っていらいらとするのだった。

(なかのよいともだちであったからとうのちゅうじょうはかくしだてもせずにそのはなしを)

仲のよい友だちであったから頭中将は隠し立てもせずにその話を

(げんじにするのである。 「ひたちのみやのへんじがきますか、わたくしもちょっとしたてがみを)

源氏にするのである。 「常陸の宮の返事が来ますか、私もちょっとした手紙を

(やったのだけれどなんにもいってこない。ぶじょくされたかたちですね」)

やったのだけれど何にも言って来ない。侮辱された形ですね」

(じぶんのそうぞうしたとおりだ、とうのちゅうじょうはもうてがみをおくっているのだとおもうと)

自分の想像したとおりだ、頭中将はもう手紙を送っているのだと思うと

(げんじはおかしかった。 「へんじをかくべつみたいとおもわないおんなだからですか、)

源氏はおかしかった。 「返事を格別見たいと思わない女だからですか、

(きたかこなかったかよくおぼえていませんよ」 げんじはちゅうじょうを)

来たか来なかったかよく覚えていませんよ」 源氏は中将を

(じらすきなのである。へんじのこないことはおなじなのである。ちゅうじょうは、そこへいき)

じらす気なのである。返事の来ないことは同じなのである。中将は、そこへ行き

(こちらへはこないのだとくちおしがった。げんじはたいしたしゅうしんをもつのでないおんなの)

こちらへは来ないのだと口惜しがった。源氏はたいした執心を持つのでない女の

(れいたんなたいどにいやきがしてすてておくきになっていたが、とうのちゅうじょうのはなしを)

冷淡な態度に厭気がして捨てて置く気になっていたが、頭中将の話を

(きいてからは、くちじょうずなちゅうじょうのほうにおんなはとられてしまうであろう、おんなはそれで)

聞いてからは、口上手な中将のほうに女は取られてしまうであろう、女はそれで

(いいきになって、はじめのきゅうこんしゃのことなどは、それはよしてしまったと)

好い気になって、初めの求婚者のことなどは、それは止してしまったと

(ひややかにじぶんをみくびるであろうとおもうと、あるもどかしさを)

冷ややかに自分を見くびるであろうと思うと、あるもどかしさを

(おぼえたのである。それからたゆうのみょうぶにまじめにちゅうかいをたのんだ。)

覚えたのである。それから大輔の命婦にまじめに仲介を頼んだ。

など

(「いくらてがみをやってもれいたんなんだ。わたくしがただいちじてきなうわきで、そうしたことを)

「いくら手紙をやっても冷淡なんだ。私がただ一時的な浮気で、そうしたことを

(いっているのだとかいしゃくしているのだね。わたくしはおんなにたいしてはくじょうなことの)

言っているのだと解釈しているのだね。私は女に対して薄情なことの

(できるおとこじゃない。いつもあいてのほうがきみじかにわたくしからそむいていくことから)

できる男じゃない。いつも相手のほうが気短に私からそむいて行くことから

(わるいけっかにもなって、けっきょくわたくしがすててしまったようにいわれるのだよ。)

悪い結果にもなって、結局私が捨ててしまったように言われるのだよ。

(こどくのひとで、おややきょうだいがふうふのなかをかんしょうするようなうるさいこともない、)

孤独の人で、親や兄弟が夫婦の中を干渉するようなうるさいこともない、

(きらくなつまがえられたら、わたくしはじゅうぶんにあいしてやることができるのだ」)

気楽な妻が得られたら、私は十分に愛してやることができるのだ」

(「いいえ、そんな、あなたさまがじゅうぶんにおあいしになるようなおあいてに)

「いいえ、そんな、あなた様が十分にお愛しになるようなお相手に

(あのかたはなられそうもないきがします。ひじょうにうちきで、おとなしいてんは)

あの方はなられそうもない気がします。非常に内気で、おとなしい点は

(ちょっとめずらしいほどのかたですが」 みょうぶはじぶんのしっているだけのことを)

ちょっと珍しいほどの方ですが」 命婦は自分の知っているだけのことを

(げんじにはなした。 「きふじんらしいそうめいさなどがみられないのだろう、)

源氏に話した。 「貴婦人らしい聡明さなどが見られないのだろう、

(いいのだよ、むじゃきでおっとりとしていればわたくしはすきだ」)

いいのだよ、無邪気でおっとりとしていれば私は好きだ」

(みょうぶにあえばいつもこんなふうにげんじはいっていた。そのあとげんじは)

命婦に逢えばいつもこんなふうに源氏は言っていた。その後源氏は

(わらわやみになったり、びょうきがなおるとしょうねんじだいからのくるしいこいのなやみによのなかに)

瘧病になったり、病気がなおると少年時代からの苦しい恋の悩みに世の中に

(わすれてしまうほどにものおもいをしたりして、このとしのはるとなつとがすぎてしまった。)

忘れてしまうほどに物思いをしたりして、この年の春と夏とが過ぎてしまった。

(あきになって、ゆうがおのごじょうのいえできいたきぬたのみみについてうるさかったことさえ)

秋になって、夕顔の五条の家で聞いた砧の耳についてうるさかったことさえ

(こいしくげんじにおもいだされるころ、げんじはしばしばひたちのみやのにょおうへ)

恋しく源氏に思い出されるころ、源氏はしばしば常陸の宮の女王へ

(てがみをおくった。へんじのないことはあきのいまもはじめにかわらなかった。)

手紙を送った。返事のないことは秋の今も初めに変わらなかった。

(あまりにひとなみはずれなたいどをとるおんなだとおもうと、まけたくないというような)

あまりに人並みはずれな態度をとる女だと思うと、負けたくないというような

(いじもでて、みょうぶへせっきょくてきにとりもちをせまることがおおくなった。)

意地も出て、命婦へ積極的に取り持ちを迫ることが多くなった。

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