紫式部 源氏物語 花宴 3 與謝野晶子訳

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問題文

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(このひはごえんであった。しゅうじつそのことにたずさわっていてげんじはからだのひまが)

この日は後宴であった。終日そのことに携わっていて源氏はからだの閑暇が

(なかった。じゅうさんげんのそうのことのやくをこのひはつとめたのである。きのうのうたげよりも)

なかった。十三絃の箏の琴の役をこの日は勤めたのである。昨日の宴よりも

(のどかなきぶんにみちていた。ちゅうぐうはよあけのじこくになでんへおいでに)

長閑な気分に満ちていた。中宮は夜明けの時刻に南殿へおいでに

(なったのである。こきでんのありあけのつきにわかれたひとはもうごしょを)

なったのである。弘徽殿の有明の月に別れた人はもう御所を

(でていったであろうかなどと、げんじのこころはそのほうへとんでいっていた。)

出て行ったであろうかなどと、源氏の心はそのほうへ飛んで行っていた。

(きのきいたよしきよやこれみつにめいじてみはらせておいたが、げんじがとのいどころへかえると、)

気のきいた良清や惟光に命じて見張らせておいたが、源氏が宿直所へ帰ると、

(「ただいまきたのごもんのほうにはやくからきていましたくるまがみなとをのせてでてまいる)

「ただ今北の御門のほうに早くから来ていました車が皆人を乗せて出てまいる

(ところでございますが、にょごさんがたのじっかのひとたちがそれぞれいきますなかに、)

ところでございますが、女御さん方の実家の人たちがそれぞれ行きます中に、

(しいのしょうしょう、うちゅうべんなどがごぜんからさがってきてついていきますのが)

四位少将、右中弁などが御前から下がって来てついて行きますのが

(こきでんのじっかのかたがただとみうけました。ただにょうぼうたちだけの)

弘徽殿の実家の方々だと見受けました。ただ女房たちだけの

(のったのでないことはよくしれていまして、そんなくるまがさんだいございました」)

乗ったのでないことはよく知れていまして、そんな車が三台ございました」

(とほうこくをした。げんじはむねのとどろくのをおぼえた。どんなほうほうによって)

と報告をした。源氏は胸のとどろくのを覚えた。どんな方法によって

(なにじょであるのをしればよいか、ちちのうだいじんにそのかんけいをしられてむことして)

何女であるのを知ればよいか、父の右大臣にその関係を知られて婿として

(たいそうにたいぐうされるようなことになって、それでいいことかどうか。そのひとの)

たいそうに待遇されるようなことになって、それでいいことかどうか。その人の

(せいかくもなにもまだよくしらないのであるから、けっこんをしてしまうのはきけんである、)

性格も何もまだよく知らないのであるから、結婚をしてしまうのは危険である、

(そうかといってこのままかんけいがしんてんしないことにもたえられない、どうすれば)

そうかといってこのまま関係が進展しないことにも堪えられない、どうすれば

(いいのかとつくづくものおもいをしながらげんじはねていた。ひめぎみがどんなに)

いいのかとつくづく物思いをしながら源氏は寝ていた。姫君がどんなに

(さびしいことだろう、いくにちもかえらないのであるからとかわいくにじょうのいんのひとを)

寂しいことだろう、幾日も帰らないのであるからとかわいく二条の院の人を

(おもいやってもいた。とりかえてきたおうぎは、さくらいろのうすようをみえにはったもので、)

思いやってもいた。取り替えてきた扇は、桜色の薄様を三重に張ったもので、

(じのこいところにかすんだつきがかいてあって、したのながれにもそのかげがうつしてある。)

地の濃い所に霞んだ月が描いてあって、下の流れにもその影が映してある。

など

(めずらしくはないがきじょのてにつかいならされたあとがなんとなくのこっていた。)

珍しくはないが貴女の手に使い馴らされた跡がなんとなく残っていた。

(「くさのはらをば」といったときのうつくしいようすがめからさらないげんじは、 )

「草の原をば」と言った時の美しい様子が目から去らない源氏は、

(よにしらぬここちこそすれありあけのつきのゆくえをそらにまがえて )

世に知らぬここちこそすれ有明の月の行方を空にまがへて

(とおうぎにかいておいた。)

と扇に書いておいた。

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