紫式部 源氏物語 花散里 2 與謝野晶子訳(終)

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1 subaru 8059 8.2 97.4% 244.8 2026 53 31 2024/12/16
2 HAKU 7808 8.0 96.7% 252.3 2039 69 31 2024/12/09
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問題文

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(もくてきにしていったいえは、なにごともそうぞうしていたとおりで、ひとすくなで、さびしくて、)

目的にして行った家は、何事も想像していたとおりで、人少なで、寂しくて、

(みにしむおもいのするいえだった。さいしょににょごのいまのほうへたずねていって、)

身にしむ思いのする家だった。最初に女御の居間のほうへ訪ねて行って、

(はなしているうちによがふけた。はつかづきがのぼって、おおきいきのおおいにわが)

話しているうちに夜がふけた。二十日月が上って、大きい木の多い庭が

(いっそうくらいかげがちになって、のきにちかいたちばなのきがなつかしいかをおくる。)

いっそう暗い蔭がちになって、軒に近い橘の木がなつかしい香を送る。

(にょごはもうよいねんぱいになっているのであるが、やわらかいきぶんのうけとれる)

女御はもうよい年配になっているのであるが、柔らかい気分の受け取れる

(じょうひんなひとであった。すぐれてときめくようなことはなかったが、あいすべきひととして)

上品な人であった。すぐれて時めくようなことはなかったが、愛すべき人として

(いんがみておいでになったと、げんじはまたむかしのきゅうていをおもいだして、それからつぎつぎに)

院が見ておいでになったと、源氏はまた昔の宮廷を思い出して、それから次々に

(むかしこいしいいろいろなことをおもってないた。ほととぎすがさっきまちできいたこえでないた。)

昔恋しいいろいろなことを思って泣いた。杜鵑がさっき町で聞いた声で啼いた。

(おなじとりがおってきたようにおもわれてげんじはおもしろくおもった。「いにしえの)

同じ鳥が追って来たように思われて源氏はおもしろく思った。「いにしへの

(ことかたらえばほととぎすいかにしりてか」というこかをこごえでうたってみたりもした。 )

こと語らへば杜鵑いかに知りてか」という古歌を小声で歌ってみたりもした。

(「たちばなのかをなつかしみほととぎすはなちるさとをたずねてぞとう」 )

「橘の香をなつかしみほととぎす花散る里を訪ねてぞとふ」

(むかしのみよがこいしくてたまらないようなときはどこよりもこちらへくるのがよいと)

昔の御代が恋しくてたまらないような時はどこよりもこちらへ来るのがよいと

(いまわかりました。ひじょうになぐさめられることも、またかなしくなることもあります。)

今わかりました。非常に慰められることも、また悲しくなることもあります。

(じだいにじゅんのうしようとするひとばかりですから、むかしのことをいうのにはなしあいてが)

時代に順応しようとする人ばかりですから、昔のことを言うのに話し相手が

(だんだんすくなくなってまいります。しかしあなたはわたくしいじょうにおさびしいでしょう」)

だんだん少なくなってまいります。しかしあなたは私以上にお寂しいでしょう」

(とげんじにいわれても、もとからこどくのかなしみのなかにひたっているにょごも、)

と源氏に言われても、もとから孤独の悲しみの中に浸っている女御も、

(いまさらのようにまたこころがしんみりとさびしくなっていくようすがみえる。)

今さらのようにまた心がしんみりと寂しくなって行く様子が見える。

(ひとがらもどうじょうをひくやさしみのおおいにょごなのであった。 )

人柄も同情をひく優しみの多い女御なのであった。

(ひとめなくあれたるやどはたちばなのはなこそのきのつまとなりけれ )

人目なく荒れたる宿は橘の花こそ軒のつまとなりけれ

(とだけいうのであるが、さすがにこれはきじょであるとげんじはおもった。)

とだけ言うのであるが、さすがにこれは貴女であると源氏は思った。

など

(さっきのいえのおんないらいいくにんものじょせいをおもいだしていたのであるが、)

さっきの家の女以来幾人もの女性を思い出していたのであるが、

(それとこれとがくらべあわせられたのである。)

それとこれとが比べ合わせられたのである。

(にしのざしきのほうへは、しずかにしたしいふうではいっていった。)

西の座敷のほうへは、静かに親しいふうではいって行った。

(しのびやかにめのまえへあらわれてきたうつくしいこいびとをみて、)

忍びやかに目の前へ現われて来た美しい恋人を見て、

(どれほどのうらみがおんなにあってもぼうきゃくしてしまったにちがいない。)

どれほどの恨みが女にあっても忘却してしまったに違いない。

(こいしかったことをいろいろなことばにしてげんじはつげていた。)

恋しかったことをいろいろな言葉にして源氏は告げていた。

(うそではないのである。げんじのこいびとであるひとははじめから)

嘘ではないのである。源氏の恋人である人は初めから

(へいぼんなかいきゅうでないせいであるか、なんらかのとくしょくをそなえてないひとはまれであった。)

平凡な階級でないせいであるか、何らかの特色を備えてない人は稀であった。

(こういをもちあってながくすてない、こんなあいだがらでいることをこうていのできないひとは)

好意を持ち合って長く捨てない、こんな間柄でいることを肯定のできない人は

(さっていく。それもしかたがないとげんじはおもっているのである。)

去って行く。それもしかたがないと源氏は思っているのである。

(さっきのまちのいえのおんなもそのひとりで、げんざいはほかにあいじんをもつおんなであった。)

さっきの町の家の女もその一人で、現在はほかに愛人を持つ女であった。

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