紫式部 源氏物語 明石 14 與謝野晶子訳

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問題文

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(げんじはいろいろにえをかいて、そのときどきのこころをぶんしょうにしてつけていった。)

源氏はいろいろに絵を描いて、その時々の心を文章にしてつけていった。

(きょうのひとにうったえるきもちでかいているのである。にょおうのへんじがこのえまきから)

京の人に訴える気持ちで描いているのである。女王の返辞がこの絵巻から

(えられるきたいでつくられているのであった。かんしょうてきなぶんがくおよびかいがとして)

得られる期待で作られているのであった。感傷的な文学および絵画として

(すぐれたさくひんである。どうしてこころがつうじたのかにじょうのいんのにょおうももののみにしむ)

すぐれた作品である。どうして心が通じたのか二条の院の女王もものの身にしむ

(かなしいときどきに、おなじようにいろいろのえをかいていた。そしてそれに)

悲しい時々に、同じようにいろいろの絵を描いていた。そしてそれに

(じしんのせいかつをにっきのようにしてかいていた。このふたつのえまきのないようは)

自身の生活を日記のようにして書いていた。この二つの絵巻の内容は

(きょうみのおおいものにちがいない。 はるになったがみかどにごのうがあって)

興味の多いものに違いない。 春になったが帝に御悩があって

(せけんもしずかでない。とうだいのみこはうだいじんのおんなのじょうきょうでんのにょごのはらに)

世間も静かでない。当帝の御子は右大臣の女の承香殿の女御の腹に

(おうじがあった。それはやっとおふたつのかたであったからとうぜんとうぐうへみくらいはおゆずりに)

皇子があった。それはやっとお二つの方であったから当然東宮へ御位はお譲りに

(なるのであるが、ちょうていのごこうけんをしてせいむをそうかつてきにみるじんぶつに)

なるのであるが、朝廷の御後見をして政務を総括的に見る人物に

(だれをきめてよいかとみかどはおかんがえになったすえ、げんじのきみをふうんのなかに)

だれを決めてよいかと帝はお考えになった末、源氏の君を不運の中に

(ちんりんさせておいて、きようしないことはこっかのそんしつであるとおぼしめして、)

沈淪させておいて、起用しないことは国家の損失であると思召して、

(たいこうがごはんたいになったにもかかわらずしゃめんのごさたが、)

太后が御反対になったにもかかわらず赦免の御沙汰が、

(げんじへくだることになった。きょねんからたいこうももののけのためにやんでおいでになり、)

源氏へ下ることになった。去年から太后も物怪のために病んでおいでになり、

(そのほかてんのさとしめいたことがしきりにおこることでもあったし、)

そのほか天の諭しめいたことがしきりに起こることでもあったし、

(きとうとごしょうじんでいちじおよろしかったごがんしつもまたこのごろ)

祈祷と御精進で一時およろしかった御眼疾もまたこのごろ

(おわるくばかりなっていくことにこころぼそくおぼしめして、しちがつにじゅういくにちに)

お悪くばかりなっていくことに心細く思召して、七月二十幾日に

(さいどごさたがあって、きょうへかえることをげんじはめいぜられた。)

再度御沙汰があって、京へ帰ることを源氏は命ぜられた。

(いずれはそうなることとげんじもきしていたのではあるが、)

いずれはそうなることと源氏も期していたのではあるが、

(むじょうのじんせいであるから、それがまたどんなかわったことになるかもしれないと)

無常の人生であるから、それがまたどんな変わったことになるかもしれないと

など

(ふあんがないでもなかったのに、にわかなせんじできらくのことのきまったのは)

不安がないでもなかったのに、にわかな宣旨で帰洛のことの決まったのは

(うれしいことではあったが、あかしのうらをすててでねばならぬことは)

うれしいことではあったが、明石の浦を捨てて出ねばならぬことは

(そうとうにげんじをくるしませた。にゅうどうもとうぜんであるとおもいながらも、)

相当に源氏を苦しませた。入道も当然であると思いながらも、

(むねにふたがされたほどかなしいきもちもするのであったが、げんじがつごうよくさかえねば)

胸に蓋がされたほど悲しい気持ちもするのであったが、源氏が都合よく栄えねば

(じぶんのかねてのりそうはじつげんされないのであるからとおもいなおした。)

自分のかねての理想は実現されないのであるからと思い直した。

(そのじぶんはまいよやまてのいえへかようげんじであった。ことしのろくがつごろから)

その時分は毎夜山手の家へ通う源氏であった。今年の六月ごろから

(おんなはにんしんしていた。べつりのちかづくことによってあやにくなといってもよいように)

女は妊娠していた。別離の近づくことによってあやにくなと言ってもよいように

(げんじはおんなをふかくすきになった。どこまでもこいのくからはなれられない)

源氏は女を深く好きになった。どこまでも恋の苦から離れられない

(じぶんなのであろうとげんじははんもんしていた。おんなはもとよりおもいみだれていた。)

自分なのであろうと源氏は煩悶していた。女はもとより思い乱れていた。

(もっともなことである。おもいがけぬたびにきょうはすてても)

もっともなことである。思いがけぬ旅に京は捨てても

(またかえるひのないことなどはげんじのおもわなかったことであった。)

また帰る日のないことなどは源氏の思わなかったことであった。

(なぐさめるところがそれにはあった。こんどはこうふくなみやこへかえるのであって、)

慰める所がそれにはあった。今度は幸福な都へ帰るのであって、

(このとちとのえんはこれでおわるとみねばならないとおもうと、)

この土地との縁はこれで終わると見ねばならないと思うと、

(げんじはものあわれでならなかった。じしんたちにもこううんはわかたれていて、)

源氏は物哀れでならなかった。侍臣たちにも幸運は分かたれていて、

(だれもおどるこころをもっていた。きょうのむかえのひとたちも)

だれもおどる心を持っていた。京の迎えの人たちも

(そのひからすぐにくだってきたものがたすうにあって、それらもみなじんせいがたのしくばかり)

その日からすぐに下って来た者が多数にあって、それらも皆人生が楽しくばかり

(おもわれるふうであるのに、しゅじんのにゅうどうだけはないてばかりいた。)

思われるふうであるのに、主人の入道だけは泣いてばかりいた。

(そしてしちがつがはちがつになった。いろのみにしむあきのそらをながめて、じぶんはいまもむかしも)

そして七月が八月になった。色の身にしむ秋の空をながめて、自分は今も昔も

(れんあいのためにたえないくをおわされる、おもいじにもしなければならないようにと)

恋愛のために絶えない苦を負わされる、思い死にもしなければならないようにと

(げんじはおもいもだえていた。おんなとのかんけいをしっているものは、)

源氏は思い悶えていた。女との関係を知っている者は、

(「はんかんがおこるよ。れいのおくせだね」 といって、こまったことだとおもっていた。)

「反感が起こるよ。例のお癖だね」 と言って、困ったことだと思っていた。

(げんじがながいあいだこのかんけいをひみつにしていて、ひとめをまぎらしてかよっていたことが)

源氏が長い間この関係を秘密にしていて、人目を紛らして通っていたことが

(ちかごろになってひとびとにわかったのであったから、)

近ごろになって人々にわかったのであったから、

(「おんなからいえばいっしょうのものおもいをせおいこんだようなものだ」)

「女からいえば一生の物思いを背負い込んだようなものだ」

(ともいったりした。しょうなごんがよくはなしていたおんなであるとも)

とも言ったりした。少納言がよく話していた女であるとも

(そのれんちゅうがいっていたとき、よしきよはすこしくやしかった。)

その連中が言っていた時、良清は少しくやしかった。

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