紫式部 源氏物語 澪標 5 與謝野晶子訳

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問題文
(「じんせいはいじのわるいものですね。そうありたいとおもうあなたには)
「人生は意地の悪いものですね。そうありたいと思うあなたには
(できそうでなくて、そんなところにこがうまれるなどとは。)
できそうでなくて、そんな所に子が生まれるなどとは。
(しかもおんなのこができたのだからね、ひかんしてしまう。うっちゃっておいても)
しかも女の子ができたのだからね、悲観してしまう。うっちゃって置いても
(いいのだけれど、そうもできないことでね、おやであってみればね。)
いいのだけれど、そうもできないことでね、親であって見ればね。
(きょうへよびよせてあなたにみせてあげましょう。にくんではいけませんよ」)
京へ呼び寄せてあなたに見せてあげましょう。憎んではいけませんよ」
(「いつもわたくしがそんなおんなであるとしてあなたにいわれるかとおもうとわたくしじしんも)
「いつも私がそんな女であるとしてあなたに言われるかと思うと私自身も
(いやになります。けれどおんながうらみやすいせいしつになるのは)
いやになります。けれど女が恨みやすい性質になるのは
(こんなことばかりがあるからなのでしょう」 とにょおうはうらんだ。)
こんなことばかりがあるからなのでしょう」 と女王は怨んだ。
(「そう、だれがそんなしゅうかんをつけたのだろう。あなたはじっさいわたくしのこころもちを)
「そう、だれがそんな習慣をつけたのだろう。あなたは実際私の心持ちを
(わかろうとしてくれない。わたくしのおもっていないことをそんたくしてうらんでいるから)
わかろうとしてくれない。私の思っていないことを忖度して恨んでいるから
(わたくしとしてはかなしくなる」 といっているうちにげんじはなみだぐんでしまった。)
私としては悲しくなる」 と言っているうちに源氏は涙ぐんでしまった。
(どんなにこのひとがこいしかったろうとべっきょじだいのことをおもって、)
どんなにこの人が恋しかったろうと別居時代のことを思って、
(おりおりかきあったてがみにどれほどかなしいことばがもられたものであろうと)
おりおり書き合った手紙にどれほど悲しい言葉が盛られたものであろうと
(おもいだしていたげんじは、あかしのおんなのことなどはそれにくらべて)
思い出していた源氏は、明石の女のことなどはそれに比べて
(いのちのあるれんあいでもないとおもわれた。 「こどもにわたくしがおおさわぎして)
命のある恋愛でもないと思われた。 「子供に私が大騒ぎして
(つかいをだしたりしているのもかんがえがあるからですよ。)
使いを出したりしているのも考えがあるからですよ。
(いまからはなせばまたわるくあなたがとるから」 とそのはなしをつづけずに、)
今から話せばまた悪くあなたが取るから」 とその話を続けずに、
(「すぐれたおんなのようにおもったのはばしょのせいだったとおもわれる。)
「すぐれた女のように思ったのは場所のせいだったと思われる。
(とにかくへいぼんでないめずらしいそんざいだとおもいましたよ」)
とにかく平凡でない珍しい存在だと思いましたよ」
(などとこのははについてかたった。わかれのゆうべにまえのそらをながれたしおやきのけむりのこと、)
などと子の母について語った。別れの夕べに前の空を流れた塩焼きの煙のこと、
(おんなのいったことば、ほんとうよりもひかえめなおんなのようぼうのひひょう、)
女の言った言葉、ほんとうよりも控え目な女の容貌の批評、
(めいしゅらしいきんのひきようなどをわすられぬふうにげんじのかたるのを)
名手らしい琴の弾きようなどを忘られぬふうに源氏の語るのを
(きいているにょおうは、そのじだいにじぶんはひとりでどんなにさびしいおもいを)
聞いている女王は、その時代に自分は一人でどんなに寂しい思いを
(していたことであろう、かりにもせよおっとはこころをひとにわけていたじだいにとおもうと)
していたことであろう、仮にもせよ良人は心を人に分けていた時代にと思うと
(うらめしくて、あかしのおんなのためにたんそくをしているおっとはおっとであるというように、)
恨めしくて、明石の女のために歎息をしている良人は良人であるというように、
(よこのほうをむいて、 「どんなにわたくしはかなしかったろう」)
横のほうを向いて、 「どんなに私は悲しかったろう」
(たんそくしながらひとりごとのようにこういってから、 )
歎息しながら独言のようにこう言ってから、
(おもうどちなびくかたにはあらずともわれぞけむりにさきだちなまし )
思ふどち靡く方にはあらずとも我ぞ煙に先立ちなまし
(「なんですって、なさけないじゃありませんか、 )
「何ですって、情けないじゃありませんか、
(たれによりよをうみやまにゆきめぐりたえぬなみだにうきしずむみぞ )
たれにより世をうみやまに行きめぐり絶えぬ涙に浮き沈む身ぞ
(そうまでごかいされてはわたくしはもうしにたくなる。つまらぬことでひとのかんじょうを)
そうまで誤解されては私はもう死にたくなる。つまらぬことで人の感情を
(がいしたくないとおもうのも、ただひとつのわたくしのねがいのあなたと)
害したくないと思うのも、ただ一つの私の願いのあなたと
(ながくこうふくでいたいためじゃないのですか」 げんじはじゅうさんげんのかきあわせをして、)
永く幸福でいたいためじゃないのですか」 源氏は十三絃の掻き合わせをして、
(ひけとにょおうにすすめるのであるが、めいしゅだとおもったとげんじにいわれているおんなが)
弾けと女王に勧めるのであるが、名手だと思ったと源氏に言われている女が
(ねたましいかてもふれようとしない。おおようでうつくしくやわらかいきもちの)
ねたましいか手も触れようとしない。おおようで美しく柔らかい気持ちの
(じょせいであるが、さすがにしっとはして、うらむこともはらをたてることもあるのが、)
女性であるが、さすがに嫉妬はして、恨むことも腹を立てることもあるのが、
(いっそうふくざつなうつくしさをそえて、このひとをよりひきたててみせることだと)
いっそう複雑な美しさを添えて、この人をより引き立てて見せることだと
(げんじはおもっていた。)
源氏は思っていた。