紫式部 源氏物語 澪標 12 與謝野晶子訳

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問題文
(「わたくしはとてもまたくるしくなってまいりました。しつれいでございますから)
「私はとてもまた苦しくなってまいりました。失礼でございますから
(もうおかえりくださいませ」 とみやすどころはいって、にょうぼうのてをかりてよこになった。)
もうお帰りくださいませ」 と御息所は言って、女房の手を借りて横になった。
(「わたしがうかがったのですこしでもごきぶんがよくなればよかったのですが、)
「私が伺ったので少しでも御気分がよくなればよかったのですが、
(おきのどくですね。どんなふうにくるしいのですか」 といいながら、)
お気の毒ですね。どんなふうに苦しいのですか」 と言いながら、
(げんじがとこをのぞこうとするので、みやすどころはにょうぼうにわかれのことばをつげさせた。)
源氏が牀をのぞこうとするので、御息所は女房に別れの言葉を告げさせた。
(「ながくおいでくださいましてはもののけのきているところでございますから)
「長くおいでくださいましては物怪の来ている所でございますから
(おあぶのうございます。びょうきのこんなにわるくなりましたじぶんに、)
お危うございます。病気のこんなに悪くなりました時分に、
(おいでくださいましたこともふかいごいんねんのあることとうれしくぞんじます。)
おいでくださいましたことも深い御因縁のあることとうれしく存じます。
(へいぜいおもっておりましたことをすこしでもおはなしのできましたことで、)
平生思っておりましたことを少しでもお話のできましたことで、
(あなたはいぞくにおちからをかしてくださるでしょうとたのもしくおもわれます」)
あなたは遺族にお力を貸してくださるでしょうと頼もしく思われます」
(「だいじなごゆいごんをわたくしにしてくださいましたことをうれしくぞんじます。)
「大事な御遺言を私にしてくださいましたことをうれしく存じます。
(いんのおうじょがたはたくさんいらっしゃるのですが、わたくしとしたしくして)
院の皇女がたはたくさんいらっしゃるのですが、私と親しくして
(くださるかたはあまりないのですから、さいぐうをいんがごじしんのおうじょのれつに)
くださる方はあまりないのですから、斎宮を院が御自身の皇女の列に
(おぼしめされましたとおりにわたくしもおもいまして、きょうだいとしてむつまじくいたしましょう。)
思召されましたとおりに私も思いまして、兄弟として睦まじくいたしましょう。
(それにわたくしはもういくにんものこがあってよいとしごろになっているのですから、)
それに私はもう幾人もの子があってよい年ごろになっているのですから、
(わたくしのものたりなさをさいぐうはおぎなってくださるでしょう」)
私の物足りなさを斎宮は補ってくださるでしょう」
(などといいおいてげんじはかえった。それからはげんじのみまいのつかいがいぜんよりも)
などと言い置いて源氏は帰った。それからは源氏の見舞いの使いが以前よりも
(またしげしげいった。そうしてしち、はちにちののちにみやすどころはしんだ。)
また繁々行った。そうして七、八日ののちに御息所は死んだ。
(むじょうのじんせいがかなしまれて、こころぼそくなったげんじはさんだいもせずにひきこもっていて、)
無常の人生が悲しまれて、心細くなった源氏は参内もせずに引きこもっていて、
(みやすどころのそうぎについてのさしずをくだしなどしていた。まえのさいぐうしのやくにんなどで)
御息所の葬儀についての指図を下しなどしていた。前の斎宮司の役人などで
(したしくでいりしていたものなどがわずかにきてそうしきのよういにほんそうするにすぎない)
親しく出入りしていた者などがわずかに来て葬式の用意に奔走するにすぎない
(ろくじょうていであった。じしんをおくったあとでげんじじしんもそうけへきた。さいぐうにちょうしを)
六条邸であった。侍臣を送ったあとで源氏自身も葬家へ来た。斎宮に弔詞を
(とりつがせると、 「ただいまはなにごともかなしみのためにわかりませんので」)
取り次がせると、 「ただ今は何事も悲しみのためにわかりませんので」
(とおんなべっとうをだしておいわせになった。 「わたくしにごゆいごんをなすったことも)
と女別当を出してお言わせになった。 「私に御遺言をなすったことも
(ありますから、ただいまからはわたくしをむつまじいものとしておぼしめしてくださいましたら)
ありますから、ただ今からは私を睦まじい者として思召してくださいましたら
(しあわせです」 とげんじはいってから、みやけのひとびとをよびだして)
幸せです」 と源氏は言ってから、宮家の人々を呼び出して
(いろいろすることをめいじた。ひじょうにたのもしいたいどであったから、)
いろいろすることを命じた。非常に頼もしい態度であったから、
(むかしはたしょううらめしがっていたいっかのひとびとのかんじょうもかいしょうされていくようである。)
昔は多少恨めしがっていた一家の人々の感情も解消されていくようである。
(げんじのほうからそうぎいんがおくられ、むすうのしようにんがきて)
源氏のほうから葬儀員が送られ、無数の使用人が来て
(みやすどころのそうぎはきらやかにしっこうされたのであった。)
御息所の葬儀はきらやかに執行されたのであった。