鏡地獄 江戸川乱歩 2

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1 ヌオー 5921 A+ 6.2 95.3% 1185.9 7381 359 100 2024/12/02
2 BE 4116 C 4.5 91.7% 1650.1 7465 672 100 2024/11/14

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問題文

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(ですがかれのほうでは、そのときやっぱりおうめんきょうをのぞいて、これはまたわたしとあべこべで)

ですが彼の方では、その時やっぱり凹面鏡を覗いて、これはまた私とあべこべで

(おそろしくおもうよりは、ひじょうなみりょくをかんじたものとみえ、きょうしつぜんたいにひびきわたる)

恐ろしく思うよりは、非常な魅力を感じたものとみえ、教室全体に響き渡る

(ようなこえで「ほう」とかんたんのさけびをあげたものなんです。)

ような声で「ホウ」と感嘆の叫びをあげたものなんです。

(それがあまりとんきょうにきこえたものですから、そのときはおおわらいになりましたが、)

それがあまり頓狂に聞こえたものですから、その時は大笑いになりましたが、

(さてそれからというものは、かれはもうおうめんきょうにむちゅうなんです。だいしょうさまざまの)

さてそれからというものは、彼はもう凹面鏡に夢中なんです。大小様々の

(おうめんきょうをかいこんで、はりがねだとかぽーるがみなどをつかい、ふくざつなからくりじかけを)

凹面鏡を買いこんで、針金だとかポール紙などを使い、複雑なからくり仕掛けを

(こしらえては、ひとりほくそえんでいるしまつでした。)

こしらえては、独りほくそ笑んでいる始末でした。

(さすがすきなみちだけあって、かれはひとのおもいもつかぬような、へんてこなそうちを)

さすが好きな道だけあって、彼は人の思いもつかぬような、変てこな装置を

(こうあんするさいのうをもっていて、もっともてじなのほんなどをわざわざがいこくからとりよせ)

考案する才能を持っていて、もっとも手品の本などをわざわざ外国から取り寄せ

(たりしたのですけれど、いまでもふしぎにたえないのは、これもあるときかれの)

たりしたのですけれど、今でも不思議に堪えないのは、これも或るとき彼の

(へやをおとずれて、おどろかされたのですが、まほうのしへいというからくりじかけ)

部屋をおとずれて、驚かされたのですが、魔法の紙幣というからくり仕掛け

(でありました。それはにしゃくしほうほどの、しかくなぼーるばこでまえのほうにたてもののいりぐちの)

でありました。それは二尺四方ほどの、四角なボール箱で前の方に建物の入口の

(ようなあながあいていて、そこのところに、いちえんさつが5、6まいちょうどじょうさしの)

ような穴があいていて、そこのところに、一円札が5、6枚ちょうど状差しの

(なかのはがきのように、さしてあるのです。「このおさつをとってごらん。」)

中のハガキのように、差してあるのです。「このお札を取ってごらん。」

(そのはこをわたしのまえにもちだして、かれはなにくわぬかおでしへいをとれというのです。)

その箱を私の前に持ち出して、彼は何食わぬ顔で紙幣を取れと言うのです。

(そこで、わたしはいわれるままにてをだして、ひょいとそのしへいをとろうと)

そこで、私はいわれるままに手を出して、ヒョイとその紙幣を取ろうと

(したのですが、なんとまあふしぎなことには、ありありとめにみえているその)

したのですが、なんとまあ不思議なことには、ありありと眼に見えているその

(しへいがてをもっていってみますと、けむりのようにてごたえがないではありませんか。)

紙幣が手を持って行ってみますと、煙のように手応えがないではありませんか。

(あんなおどろいたことはありませんね。「おや」とたまげているわたしのかおをみて、)

あんな驚いたことはありませんね。「オヤ」とたまげている私の顔を見て、

(かれはさもおもしろそうにわらいながら、さてせつめいしてくれたところによりますと、)

彼はさも面白そうに笑いながら、さて説明してくれたところによりますと、

など

(それはえいこくでしたかの、ぶつりがくしゃがこうあんしたいっしゅのてじなで、たねはやっぱりおうめんきょう)

それは英国でしたかの、物理学者が考案した一種の手品で、種はやっぱり凹面鏡

(なのです。くわしいりくつはよくおぼえていませんけれど、ほんもののしへいははこのしたへよこに)

なのです。詳しい理窟はよく覚えていませんけれど、本物の紙幣は箱の下へ横に

(おいて、そのうえにななめにおうめんきょうをそうちし、でんとうをはこのないぶにひきこみ、こうせんが)

置いて、その上に斜めに凹面鏡を装置し、電灯を箱の内部に引き込み、光線が

(しへいにあたるようにすると、おうめんきょうのしょうてんからどれだけのきょりにあるぶったいは、)

紙幣に当たるようにすると、凹面鏡の焦点からどれだけの距離にある物体は、

(どういうかくどで、どのへんにそのぞうをむすぶというりろんによって、うまくはこのあなへ)

どういう角度で、どの辺にその像を結ぶという理論によって、うまく箱の穴へ

(しへいがあらわれるのだそうです。ふつうのかがみですと、けっしてほんものがそこにあるようには)

紙幣が現れるのだそうです。普通の鏡ですと、決して本物がそこにあるようには

(みえませんけれど、おうめんきょうではふしぎにもそんなじつぞうをむすぶというのですね。)

見えませんけれど、凹面鏡では不思議にもそんな実像を結ぶというのですね。

(ほんとうにもう、ありありとそこにあるのですからね。かようにして、かれの)

ほんとうにもう、ありありとそこにあるのですからね。かようにして、彼の

(れんずやかがみにたいするいじょうなるしこうは、だんだんこうじていくばかりでしたが、)

レンズや鏡に対する異常なる嗜好は、だんだん嵩じていくばかりでしたが、

(やがてちゅうがくをそつぎょうしますと、かれはうえのがっこうにはいろうともしないで、ひとつは)

やがて中学を卒業しますと、彼は上の学校にはいろうともしないで、ひとつは

(おやたちもあますぎたのですね、むすこのいうことならば、たいていはむりをとおして)

親たちも甘過ぎたのですね、息子の言うことならば、たいていは無理を通して

(くれるものですからがっこうをでると、もうひとかどおとなになったきでにわのあきちに)

くれるものですから学校を出ると、もうひとかど大人になった気で庭の空き地に

(ちょっとしたじっけんしつをしんちくして、そのなかでれいのふしぎなどうらくをはじめたものです。)

ちょっとした実験室を新築して、その中で例の不思議な道楽を始めたものです。

(これまでは、がっこうというものがあって、いくらかじかんをそくばくされていたので、)

これまでは、学校というものがあって、いくらか時間を束縛されていたので、

(それほどでもなかったのが、さて、そうしてあさからばんまでじっけんしつにとじこもる)

それほどでもなかったのが、さて、そうして朝から晩まで実験室に閉じこもる

(ことになりますと、かれのびょうせいはにわかにおそるべきかそくどをもってこうしんしはじめました。)

ことになりますと、彼の病勢は俄に恐るべき加速度をもって昂進し始めました。

(がんらいともだちのすくなかったかれですが、そつぎょういらいというものはかれのせかいはせまいじっけんしつ)

元来友だちの少なかった彼ですが、卒業以来というものは彼の世界は狭い実験室

(のなかにかぎられてしまって、どこへあそびにでるというでもなくしたがってらいほうしゃも)

の中に限られてしまって、どこへ遊びに出るというでもなくしたがって来訪者も

(だんだんへってゆき、わずかにかれのへやにおとずれるのは、かれのうちのひとをのぞくと、)

だんだん減って行き、僅かに彼の部屋におとずれるのは、彼の家の人を除くと、

(わたしただひとりになってしまったのでした。それもごくときたまのことですが、)

私ただ一人になってしまったのでした。それもごく時たまのことですが、

(わたしはかれをほうもんするごとに、かれのびょうきがだんだんつのっていって、いまではむしろ)

私は彼を訪問するごとに、彼の病気がだんだん募って行って、今ではむしろ

(きょうきにちかいじょうたいになっているのをもくげきしてひそかにせんりつをきんじえないのでした。)

狂気に近い状態になっているのを目撃してひそかに戦慄を禁じ得ないのでした。

(かれのこのびょうへきにもってきて、さらにいけなかったことはあるとしのりゅうこうかんぼうのために)

彼のこの病癖にもってきて、更にいけなかったことはある年の流行感冒のために

(ふこうにもかれのりょうしんが、そろってなくなってしまったものですから、かれはいまはだれに)

不幸にも彼の両親が、揃って亡くなってしまったものですから、彼は今は誰に

(えんりょのひつようもなく、そのうえばくだいなざいさんをうけついで、おもうがままにかれのみょうな)

遠慮の必要も無く、その上莫大な財産を受け継いで、思うがままに彼の妙な

(じっけんをおこなうことができるようになったのと、それにいまひとつは、かれもはたちを)

実験を行うことができるようになったのと、それに今ひとつは、彼も二十歳を

(こして、おんなというものにきょうみをいだきはじめ、そんなへんてこなしこうをもつほどの)

超して、女というものに興味をいだきはじめ、そんな変てこな嗜好を持つほどの

(かれですから、じょうよくのほうもひどくへんたいてきで、それがもちまえのれんずきちとむすびついて)

彼ですから、情欲の方もひどく変態的で、それが持ち前のレンズ狂と結びついて

(そうほうがいっそういきおいをますかたちになってきたことでした。そしておはなしというのは)

双方がいっそう勢いを増す形になってきたことでした。そしてお話というのは

(そのけっかついに、おそろしいはきょくをまねくことになったあるできごとなのですが、)

その結果ついに、恐ろしい破局を招くことになった或る出来事なのですが、

(それをもうしあげるまえに、かれのびょうせいがどのようにひどくなっていたかということを)

それを申し上げる前に、彼の病勢がどのようにひどくなっていたかということを

(2つ3つ、じつれいによっておはなしておきたいとおもうのです。)

2つ3つ、実例によってお話しておきたいと思うのです。

(かれのいえはやまのてのあるたかだいにあって、いまいうじっけんしつはそこのひろびろとしたていえんの)

彼の家は山の手の或る高台にあって、今いう実験室はそこの広々とした庭園の

(かたすみの、まちまちのいらかをがんかにみおろすいちにたてられたのですが、そこでかれがさいしょに)

片隅の、街々の甍を眼下に見下す位置に建てられたのですが、そこで彼が最初に

(はじめたのは、じっけんしつのやねをてんもんだいのようなかたちにこしらえて、そこにかなりの)

はじめたのは、実験室の屋根を天文台のような形にこしらえて、そこに可なりの

(てんたいかんそくきょうをすえつけほしのせかいにたんできすることでした。そのじふんにはかれはどくがくで)

天体観測鏡を据え付け星の世界に耽溺することでした。その時分には彼は独学で

(ひととおりてんもんがくのちしきをそなえていたわけなのです。が、そのようなありふれた)

一通り天文学の知識を備えていたわけなのです。が、そのようなありふれた

(どうらくでまんぞくするかれではありません。そのいっぽうでは、かれのつよいぼうえんきょうをまどぎわに)

道楽で満足する彼ではありません。その一方では、彼の強い望遠鏡を窓際に

(おいて、それをさまざまのかくどにしては、めのしたにみえるじんかのあけはなったしつないを)

置いて、それを様々の角度にしては、目の下に見える人家の開け放った室内を

(ぬすみみるという、つみのふかいひみつなたのしみをあじわっているのでありました。)

盗み見るという、罪の深い秘密な楽しみを味わっているのでありました。

(それがたとえ、いたべいのなかであったり、ほかのいえのうらがわにむかいあっていたりして、)

それがたとえ、板塀の中であったり、他の家の裏側に向かい合っていたりして、

(とうにんたちはどこからもみえぬつもりで、まさかそんなとおくのやまのうえからぼうえんきょうで)

当人たちはどこからも見えぬつもりで、まさかそんな遠くの山の上から望遠鏡で

(のぞかれていようとはきづくはずもなく、あらゆるひみつなおこないをしたいざんまいに)

覗かれていようとは気づくはずもなく、あらゆる秘密な行いをしたい三昧に

(ふるまっている、それがかれにはまるでめのまえのできごとのように、あからさまに)

ふるまっている、それが彼にはまるで目の前の出来事のように、あからさまに

(ながめられるのです。「こればかりはよせないよ。」かれはそういいいいしては、)

眺められるのです。「こればかりは止せないよ。」彼はそう言い言いしては、

(そのまどぎわのぼうえんきょうをのぞくことを、こよなきたのしみにしていましたがかんがえてみれば)

その窓際の望遠鏡を覗くことを、こよなき楽しみにしていましたが考えてみれば

(ずいぶんおもしろいいたずらにちがいありません。わたしもときにはのぞかしてもらうことも)

ずいぶん面白いいたずらに違いありません。私も時には覗かしてもらうことも

(ありましたけれど、ぐうぜんみょうなものを、すぐめのまえにはっけんしたりしていっそかおの)

ありましたけれど、偶然妙なものを、すぐ目の前に発見したりしていっそ顔の

(あからむようなこともないではありませんでした。そのほか、たとえば)

赤らむようなこともないではありませんでした。そのほか、たとえば

(さぶまりんてれすこーぷといいますか、せんこうていのなかからかいじょうをながめる、)

サブマリン・テレスコープといいますか、潜航艇の中から海上を眺める、

(あのそうちをこしらえてかれのへやにいながら、やといにんたちのことにわかいこまづかいなどの)

あの装置をこしらえて彼の部屋に居ながら、雇人たちの殊に若い小間使いなどの

(ししつをすこしもあいてにさとられることなくのぞいてみたり、そうかとおもうとむしめがねや)

私室を少しも相手に悟られることなく覗いてみたり、そうかと思うと虫目がねや

(けんびきょうによって、びせいぶつのせいかつをかんさつしたり、それについてきばつなのは、かれが)

顕微鏡によって、微生物の生活を観察したり、それについて奇抜なのは、彼が

(のみのたぐいをしいくしていたことで、それをむしめがねやどのよわいけんびきょうのしたで、)

蚤の類を飼育していたことで、それを虫目がねや度の弱い顕微鏡の下で、

(はわせてみたり、じぶんのちをすうところだとか、むしどうしをひとつにしてどうせいで)

這わせてみたり、自分の血を吸うところだとか、虫同士を一つにして同性で

(あればけんかをしたり、いせいであればなかよくしたりするありさまをながめたり、なかにも)

あれば喧嘩をしたり、異性であれば仲良くしたりする有様を眺めたり、中にも

(きみのわるいのは、わたしはいちどそれをのぞかされてからというものは、いままでなんとも)

気味の悪いのは、私は一度それを覗かされてからというものは、今まで何とも

(おもっていなかったあのむしが、みょうにおそろしくなったほどなのですが、のみをはんごろしに)

思っていなかったあの虫が、妙に恐ろしくなったほどなのですが、蚤を半殺しに

(しておいて、そのもがきくるしむありさまを、ひじょうにおおきくかくだいしてみることでした。)

しておいて、そのもがき苦しむ有様を、非常に大きく拡大して見ることでした。

(ごじゅうばいのけんびきょうでしたが、のぞいたかんじでは、いっぴきののみがげんかいいっぱいにひろがって、)

五十倍の顕微鏡でしたが、覗いた感じでは、一匹の蚤が限界一杯に広がって、

(くちから、あしのつめ、からだにはえているちいさないっぽんのけまでがはっきりとわかって、)

口から、足の爪、体にはえている小さな一本の毛までがハッキリとわかって、

(みょうなひゆですがまるでいのししのようにおそろしいおおきさにみえるのです。)

妙な比喩ですがまるで猪のように恐ろしい大きさに見えるのです。

(それがどすぐろいちのうみのなかで(わずかいってきのちしおがそんなにみえるのです)せなか)

それがドス黒い血の海の中で(僅か一滴の血潮がそんなに見えるのです)背中

(はんぶんをぺちゃんこにつぶされて、てあしでそらをつかんでくちばしをできるだけのばし)

半分をぺちゃんこにつぶされて、手足で空を掴んでくちばしをできるだけ伸ばし

(だんまつまのものすごいぎょうそうをしています。なにかそのくちからおそろしいひめいがきこえている)

断末魔の物凄い形相をしています。何かその口から恐ろしい悲鳴が聞こえている

(ようにすらかんじられるのであります。そうしたこまごまとしたことをいちいちもうし)

ようにすら感じられるのであります。そうしたこまごまとしたことを一々申し

(あげていてはさいげんがありませんから、たいていははぶくことにしますが、)

上げていては際限がありませんから、たいていは省くことにしますが、

(じっけんしつけんちくとうしょの、かようなどうらくはつきひとともにふかまっていって、あるときはまた、)

実験室建築当初の、かような道楽は月日と共に深まって行って、ある時はまた、

(こんなこともあったのです。あるひのこと、かれをたずねてなにげなくじっけんしつのとびらを)

こんなこともあったのです。ある日の事、彼を訪ねてなにげなく実験室の扉を

(ひらきますと、なぜかぶらいんどをおろしてへやのなかがうすぐらくなっていましたが)

ひらきますと、なぜかブラインドをおろして部屋の中が薄暗くなっていましたが

(そのしょうめんのかべいっぱいに、そうですねひとましほうもあったでしょうか、なにかもやもやと)

その正面の壁一杯に、そうですね一間四方もあったでしょうか、何かモヤモヤと

(うごめいているものがあるのです。きのせいかとおもって、めをこすってみる)

うごめいているものがあるのです。気のせいかと思って、眼をこすってみる

(のですが、やっぱりなんだかうごいている。わたしはとぐちにたたずんだまま、)

のですが、やっぱりなんだか動いている。私は戸口にたたずんだまま、

(いきをのんでそのかいぶつをみつめたものです。すると、みているにしたがってきりみたいな)

息を呑んでその怪物を見つめたものです。すると、見ているに従って霧みたいな

(ものがだんだんはっきりしてきて、はりをうえたようなくろいくさむら、そのしたに)

ものがだんだんハッキリしてきて、針を植えたような黒い草むら、その下に

(ぎょろぎょろひかっているたらいほどのめ、ちゃいろがかったこうさいからしろめのなかのけっかんのかわ)

ギョロギョロ光っている盥ほどの眼、茶色がかった虹彩から白目の中の血管の川

(までも、ちょうどそふとふぉーかすのしゃしんのように、ぼんやりしていながら、)

までも、ちょうどソフトフォーカスの写真のように、ぼんやりしていながら、

(みょうにはっきりとみえるのです。それからしゅろのようなはなげのひかるほらあなみたいな)

妙にハッキリと見えるのです。それから棕櫚のような鼻毛の光る洞穴みたいな

(はなのあな、そのままのおおきさでざぶとんをにまいかさねたかとみえる、いやにまっかな)

鼻の穴、そのままの大きさで座蒲団を二枚かさねたかと見える、いやに真っ赤な

(くちびる、そのあいだからぎらぎらとしろいかわらのようなしろはがのぞいている。)

唇、そのあいだからギラギラと白い瓦のような白歯が覗いている。

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