銀河鉄道の夜 14
宮沢賢治 作
「みんなはね、ずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。」
といいました。
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問題文
(じょばんにが、)
ジョバンニが、
(かむぱねるら、きみはまえからここにいたの)
カムパネルラ、きみは前からここにいたの
(といおうとおもったとき、かむぱねるらが、)
といおうと思ったとき、カムパネルラが、
(「みんなはね、ずいぶんはしったけれどもおくれてしまったよ。)
「みんなはね、ずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。
(ざねりもね、ずいぶんはしったけれどもおいつかなかった。」)
ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。」
(といいました。)
といいました。
(じょばんには、)
ジョバンニは、
((そうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそってでかけたのだ。))
(そうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそって出かけたのだ。)
(とおもいながら、)
とおもいながら、
(「どこかでまっていようか。」)
「どこかで待っていようか。」
(といいました。するとかむぱねるらは、)
といいました。するとカムパネルラは、
(「ざねりはもうかえったよ。おとうさんがむかいにきたんだ。」)
「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎いにきたんだ。」
(かむぱねるらは、なぜかそういいながら、)
カムパネルラは、なぜかそういいながら、
(すこしかおいろがあおざめて、どこかくるしいというふうでした。)
少し顔いろが青ざめて、どこか苦しいというふうでした。
(するとじょばんにも、なんだかどこかに、なにかわすれたものがあるというような、)
するとジョバンニも、なんだかどこかに、何か忘れたものがあるというような、
(おかしなきもちがしてだまってしまいました。)
おかしな気持ちがしてだまってしまいました。
(ところがかむぱねるらは、まどからそとをのぞきながら、)
ところがカムパネルラは、窓から外をのぞきながら、
(もうすっかりげんきがなおって、いきおいよくいいました。)
もうすっかり元気がなおって、勢いよくいいました。
(「ああしまった。ぼく、すいとうをわすれてきた。)
「ああしまった。ぼく、水筒を忘れてきた。
(すけっちちょうもわすれてきた。けれどもかまわない。)
スケッチ帳も忘れてきた。けれどもかまわない。
(もうじきはくちょうのていしゃばだから。)
もうじき白鳥の停車場だから。
(ぼく、はくちょうをみるなら、ほんとうにすきだ。)
ぼく、白鳥をみるなら、ほんとうにすきだ。
(かわのとおくをとんでいたって、ぼくはきっとみえる。」)
川の遠くを飛んでいたって、ぼくはきっと見える。」
(そして、かむぱねるらは、まるいいたのようになったちずを、)
そして、カムパネルラは、まるい板のようになった地図を、
(しきりにぐるぐるまわしてみていました。)
しきりにぐるぐるまわして見ていました。
(まったくそのなかに、しろくあらわされたあまのがわのひだりのきしにそって)
まったくその中に、白くあらわされた天の川の左の岸にそって
(ひとすじのてつどうせんろが、みなみへみなみへとたどっていくのでした。)
一条の鉄道線路が、南へ南へとたどって行くのでした。
(そしてそのちずのりっぱなことは、)
そしてその地図のりっぱなことは、
(よるのようにまっくろなばんのうえに、)
夜のようにまっ黒な盤の上に、
(いちいちのていしゃばやさんかくひょう、せんすいやもりが、あおやだいだいやみどりや、)
いちいちの停車場や三角標、泉水や森が、青や橙や緑や、
(うつくしいひかりでちりばめられてありました。)
うつくしい光でちりばめられてありました。
(じょばんにはなんだかそのちずをどこかでみたようにおもいました。)
ジョバンニはなんだかその地図をどこかで見たようにおもいました。
(「このちずはどこでかったの。こくようせきでできてるねえ。」)
「この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。」
(じょばんにがいいました。)
ジョバンニがいいました。
(「ぎんがすてーしょんで、もらったんだ。きみもらわなかったの。」)
「銀河ステーションで、もらったんだ。君もらわなかったの。」