半七捕物帳 槍突き6

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問題文
(「つじかごやのかんじさんというのは、このごきんじょですかえ」と、しちべえは)
「辻駕籠屋の勘次さんというのは、この御近所ですかえ」と、七兵衛は
(ろじのいりぐちのあらものやできいた。)
路地の入口の荒物屋で訊いた。
(「かんじさんはこのうらのさんげんめですよ」と、みせでひめのりをにているばあさんがおしえた。)
「勘次さんはこの裏の三軒目ですよ」と、店で姫糊を煮ている婆さんが教えた。
(「かんじさんはまいにちしょうばいにでていますかえ」)
「勘次さんは毎日商売に出ていますかえ」
(「なんだかしりませんけれども、このとおかばかりはちっともしょうばいにでないで、)
「なんだか知りませんけれども、この十日ばかりはちっとも商売に出ないで、
(おかみさんとまいにちけんかばかりしているようです」)
おかみさんと毎日喧嘩ばかりしているようです」
(「じゃあ、けさもうちにいますね」)
「じゃあ、けさも家にいますね」
(「いるでしょうよ。さっきからおおきなこえをしていましたから」と、)
「いるでしょうよ。さっきから大きな声をしていましたから」と、
(ばあさんはにがにがしそうにいった。 「いや、ありがとう」)
婆さんは苦々しそうに云った。 「いや、ありがとう」
(あぶないどぶいたをわたりながらろじのおくへはいってゆくと、かんばしったおんなの)
あぶない溝板を渡りながら路地の奥へはいってゆくと、甲走った女の
(こえがきこえた。)
声がきこえた。
(「へん、いくじもないくせにいばったことをおいいでないよ。)
「へん、意気地もないくせに威張ったことをお云いでないよ。
(やりつきぐらいがこわくって、よるのかせぎができるとおもうのかえ。)
槍突きぐらいが怖くって、夜のかせぎが出来ると思うのかえ。
(おまえがぼんやりで、むこうがやりつきならあいこじゃないか。やりつきがでてきたら)
おまえが盆槍で、向うが槍突きなら相子じゃないか。槍突きが出て来たら
(ちょうどいいから、とみさんとふたりでそいつをとっつかまえてごほうびでもおもらいな、)
丁度いいから、富さんと二人でそいつを取っ捉まえて御褒美でもお貰いな、
(かかあをあいてにかげべんけいをきめているばかりがのうじゃないよ。しっかりおしな」)
嬶を相手に蔭弁慶をきめているばかりが能じゃないよ。しっかりおしな」
(このあいだのばん、やりつきにであっていらい、つじかごやのかんじはおじけづいて)
このあいだの晩、槍突きに出逢って以来、辻駕籠屋の勘次は怯気づいて
(しょうばいをやすんでいるらしかった。にょうぼうのあくたいのとぎれるのをまって、)
商売を休んでいるらしかった。女房の悪態の途切れるのを待って、
(しちべえはそっとこえをかけた。 「ごめんなさい」)
七兵衛はそっと声をかけた。 「ごめんなさい」
(「だれですえ」と、にょうぼうはやつあたりのとがったこえでこたえた。)
「誰ですえ」と、女房は八中りの尖った声で答えた。
(「かんじさんはおうちですかえ」)
「勘次さんはお家ですかえ」
(からかごをかたよせてあるどまにたつと、ながひばちのまえにあぐらをかいていたかんじが)
空駕籠を片寄せてある土間に立つと、長火鉢の前にあぐらをかいていた勘次が
(くびをのばした。かれはさんじゅうしごの、せのひくい、こぶとりにふとったおとこで、)
首をのばした。彼は三十四五の、背の低い、小ぶとりに肥った男で、
(こんなしょうばいににあわない、ひとのよさそうなかおをしていた。)
こんな商売に似合わない、人のよさそうな顔をしていた。
(「かんじはいますよ。こっちへおはいんなせえ」)
「勘次はいますよ。こっちへおはいんなせえ」
(「あさっぱらからおじゃまをします」と、しちべえはあがりがまちにこしをかけた。)
「朝っぱらからお邪魔をします」と、七兵衛は上がり框に腰をかけた。
(「かんじさんというのはおまえだね。はなしははええがいい。おれはふきやちょうの)
「勘次さんというのはお前だね。話は早えがいい。おれは葺屋町の
(しちべえといって、じってをあずかっているものだが、すこしおまえに)
七兵衛と云って、十手をあずかっている者だが、すこしお前に
(ききてえことがある」)
訊きてえことがある」
(「へえ」と、かんじはにょうぼうとかおをみあわせた。「なにしろ、おやぶん。きたねえところ)
「へえ」と、勘次は女房と顔を見あわせた。「なにしろ、親分。きたねえところ
(ですが、まあこっちへおあがんなすってくだせえまし」)
ですが、まあこっちへお上がんなすって下せえまし」
(「おやぶん。まあどうぞこちらへ・・・・・・」)
「親分。まあどうぞこちらへ……」
(にょうぼうはきゅうにふくれっつらをやわらげて、しきりにうちへしょうじいれようとするのを、)
女房は急にふくれっ面をやわらげて、しきりに内へ招じいれようとするのを、
(しちべえはてをふってことわった。)
七兵衛は手を振って断った。