駆込み訴え4

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問題文
(おききください。むいかまえのことでした。)
お聞き下さい。六日まえのことでした。
(あのひとはべたにやのしもんのいえでしょくじをなさっていたとき、)
あの人はベタニヤのシモンの家で食事をなさっていたとき、
(あのむらのまるたやつめのいもうとのまりやが、)
あの村のマルタ奴めの妹のマリヤが、
(なるどのこうゆをいっぱいみたしてあるせっこうのつぼをかかえて)
ナルドの香油を一ぱい満たして在る石膏(せっこう)の壺をかかえて
(きょうえんのへやにこっそりはいってきて、)
饗宴の室にこっそり這入(はい)って来て、
(だしぬけに、そのあぶらをあのひとのあたまに)
だしぬけに、その油をあの人の頭に
(ざぶとそそいでおみあしまでぬらしてしまって、)
ざぶと注いで御足まで濡らしてしまって、
(それでも、そのしつれいをわびるどころか、)
それでも、その失礼を詫びるどころか、
(おちついてしゃがみ、)
落ちついてしゃがみ、
(まりやじしんのかみのけで、)
マリヤ自身の髪の毛で、
(あのひとのぬれたりょうあしをていねいにぬぐってあげて、)
あの人の濡れた両足をていねいに拭ってあげて、
(こうゆのにおいがへやにたちこもり、)
香油の匂いが室に立ちこもり、
(まことにいようなふうけいでありましたので、)
まことに異様な風景でありましたので、
(わたしは、なんだかむしょうにはらがたってきて、)
私は、なんだか無性に腹が立って来て、
(しつれいなことをするな!)
失礼なことをするな!
(と、そのいもうとむすめにどなってやりました。)
と、その妹娘に怒鳴ってやりました。
(これ、このようにおきものがぬれてしまったではないか、)
これ、このようにお着物が濡れてしまったではないか、
(それに、こんなこうかなあぶらをぶちまけてしまって、)
それに、こんな高価な油をぶちまけてしまって、
(もったいないとおもわないか、)
もったいないと思わないか、
(なんというおまえはばかなやつだ。)
なんというお前は馬鹿な奴だ。
(これだけのあぶらだったら、さんびゃくでなりもするではないか、)
これだけの油だったら、三百デナリもするではないか、
(このあぶらをうって、さんびゃくでなりもうけて、)
この油を売って、三百デナリ儲けて、
(そのかねをばびんぼうにんにほどこしてやったら、)
その金をば貧乏人に施してやったら、
(どんなにびんぼうにんがよろこぶかしれない。)
どんなに貧乏人が喜ぶか知れない。
(むだなことをしてはこまるね、とわたしは、さんざしかってやりました。)
無駄なことをしては困るね、と私は、さんざ叱ってやりました。
(すると、あのひとは、わたしのほうをきっとみて、)
すると、あの人は、私のほうを屹(きっ)と見て、
(「このおんなをしかってはいけない。)
「この女を叱ってはいけない。
(このおんなのひとは、たいへんいいことをしてくれたのだ。)
この女のひとは、大変いいことをしてくれたのだ。
(まずしいひとにおかねをほどこすのは、)
貧しい人にお金を施すのは、
(おまえたちには、これからあとあと、)
おまえたちには、これからあとあと、
(いくらでもできることではないか。)
いくらでも出来ることではないか。
(わたしには、もうほどこしができなくなっているのだ。)
私には、もう施しが出来なくなっているのだ。
(そのわけはいうまい。)
そのわけは言うまい。
(このおんなのひとだけはしっている。)
この女のひとだけは知っている。
(このおんながわたしのからだにこうゆをそそいだのは、)
この女が私のからだに香油を注いだのは、
(わたしのとむらいのそなえをしてくれたのだ。)
私の葬いの備えをしてくれたのだ。
(おまえたちもおぼえておくがよい。)
おまえたちも覚えて置くがよい。
(ぜんせかい、どこのとちでも、)
全世界、どこの土地でも、
(わたしのみじかいいっしょうをいいつたえられるところには、)
私の短い一生を言い伝えられる処には、
(かならず、このおんなのきょうのしぐさも)
必ず、この女の今日の仕草も
(きねんとしてかたりつたえられるであろう」)
記念として語り伝えられるであろう」
(そういいむすんだときに、)
そう言い結んだ時に、
(あのひとのあおじろいほおはいくぶん、じょうきしてあかくなっていました。)
あの人の青白い頬は幾分、上気して赤くなっていました。