紫式部 源氏物語 夕顔 7 與謝野晶子訳

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(ずっとあけがたちかくなってきた。このいえにとりのこえはきこえないで、げんせりやくの)

ずっと明け方近くなってきた。この家に鶏の声は聞こえないで、現世利益の

(みたけきょうのしんじんなのか、ろうじんらしいこえで、たったりすわったりして、とてもいそがしく)

御岳教の信心なのか、老人らしい声で、起ったりすわったりして、とても忙しく

(くるしそうにしていのるこえがきかれた。げんじはみにしむようにおもって、あさつゆと)

苦しそうにして祈る声が聞かれた。源氏は身にしむように思って、朝露と

(おなじようにみじかいいのちをもつにんげんが、このよになんのよくをもってきとうなどを)

同じように短い命を持つ人間が、この世に何の慾を持って祈祷などを

(するのだろうときいているうちに、 「なむとうらいのどうし」)

するのだろうと聞いているうちに、 「南無当来の導師」

(とあみだにょらいをよびかけた。 「そらきいてごらん。げんせりやくだけが)

と阿弥陀如来を呼びかけた。 「そら聞いてごらん。現世利益だけが

(もくてきじゃなかった」 とほめて、)

目的じゃなかった」 とほめて、

(うばそくがおこなうみちをしるべにてこんよもふかきちぎりたがうな )

優婆塞が行なふ道をしるべにて来ん世も深き契りたがふな

(ともいった。げんそうとようきひのしちがつなのかのちょうせいでんのちかいはじつげんされないくうそうで)

とも言った。玄宗と楊貴妃の七月七日の長生殿の誓いは実現されない空想で

(あったが、ごじゅうろくおくななせんまんねんごのみろくぼさつしゅつげんのよまでもかわらぬちかいを)

あったが、五十六億七千万年後の弥勒菩薩出現の世までも変わらぬ誓いを

(げんじはしたのである。 )

源氏はしたのである。

(さきのよのちぎりしらるるみのうさにゆくすえかけてたのみがたさよ )

前の世の契り知らるる身のうさに行く末かけて頼みがたさよ

(とおんなはいった。うたをよむさいなどもほうふであろうとはおもわれない。つきよにでれば)

と女は言った。歌を詠む才なども豊富であろうとは思われない。月夜に出れば

(つきにゆうわくされていってかえらないことがあるということをおもってでかけるのを)

月に誘惑されて行って帰らないことがあるということを思って出かけるのを

(ちゅうちょするゆうがおに、げんじはいろいろにいってどうこうをすすめているうちに)

躊躇する夕顔に、源氏はいろいろに言って同行を勧めているうちに

(つきもはいってしまってひがしのそらのしらむあきのしののめがはじまってきた。)

月もはいってしまって東の空の白む秋のしののめが始まってきた。

(ひとめをひかぬまにとおもってげんじはでかけるのをいそいだ。おんなのからだをげんじが)

人目を引かぬ間にと思って源氏は出かけるのを急いだ。女のからだを源氏が

(かるがるとだいてくるまにのせうこんがどうじょうしたのであった。ごじょうにちかいていしつのごいんである)

軽々と抱いて車に乗せ右近が同乗したのであった。五条に近い帝室の後院である

(ぼういんへついた。よびだしたいんのあずかりやくのでてくるまでとめてあるくるまから、)

某院へ着いた。呼び出した院の預かり役の出て来るまで留めてある車から、

(しのぶぐさのおいしげったもんのひさしがみあげられた。たくさんにあるたいぼくがくらさを)

忍ぶ草の生い茂った門の廂が見上げられた。たくさんにある大木が暗さを

など

(つくっているのである。きりもふかくふっていてくうきのしめっぽいのにくるまのすだれを)

作っているのである。霧も深く降っていて空気の湿っぽいのに車の簾を

(あげさせてあったから、げんじのそでもそのうちべったりとぬれてしまった。)

上げさせてあったから、源氏の袖もそのうちべったりと濡れてしまった。

(「わたくしにははじめてのけいけんだがみょうにふあんなものだ。 )

「私にははじめての経験だが妙に不安なものだ。

(いにしえもかくやはひとのまどいけんわがまだしらぬしののめのみち )

いにしへもかくやは人の惑ひけんわがまだしらぬしののめの道

(まえにこんなことがありましたか」 ときかれておんなははずかしそうだった。)

前にこんなことがありましたか」 と聞かれて女は恥ずかしそうだった。

(「やまのはのこころもしらずゆくつきはうわのそらにてかげやきえなん )

「山の端の心も知らず行く月は上の空にて影や消えなん

(こころぼそうございます、わたくしは」 すごさにおんながおびえてもいるようにみえるのを、)

心細うございます、私は」 凄さに女がおびえてもいるように見えるのを、

(げんじはあのちいさいいえにおおぜいすんでいたひとなのだからどうりであるとおもって)

源氏はあの小さい家におおぜい住んでいた人なのだから道理であると思って

(おかしかった。 もんないへくるまをいれさせて、にしのたいにしたくをさせているあいだ、)

おかしかった。 門内へ車を入れさせて、西の対に仕度をさせている間、

(こうらんにくるまのえをひっかけてげんじらはにわにいた。うこんはえんなじょうしゅをあじわいながら)

高欄に車の柄を引っかけて源氏らは庭にいた。右近は艶な情趣を味わいながら

(おんなあるじのかこのれんあいじだいのあるばめんなどもおもいだされるのであった。)

女主人の過去の恋愛時代のある場面なども思い出されるのであった。

(あずかりやくがみずからでてするきゃくじんのあつかいがていねいきわまるものであることから、)

預かり役がみずから出てする客人の扱いが丁寧きわまるものであることから、

(うこんにはこのみやびおのなにものであるかがわかった。もののかたちがほのぼのみえるころに)

右近にはこの風流男の何者であるかがわかった。物の形がほのぼの見えるころに

(いえへはいった。にわかなしたくではあったがていさいよくざしきがこしらえてあった。)

家へはいった。にわかな仕度ではあったが体裁よく座敷がこしらえてあった。

(「だれというほどのひとがおともしておらないなどとは、どうもいやはや」)

「だれというほどの人がお供しておらないなどとは、どうもいやはや」

(などといってあずかりやくはしじゅうでいりするげんじのしもけいしでもあったから、)

などといって預かり役は始終出入りする源氏の下家司でもあったから、

(ざしきのちかくへきてうこんに、 「ごけいしをどなたか)

座敷の近くへ来て右近に、 「御家司をどなたか

(およびよせしたものでございましょうか」 ととりつがせた。)

お呼び寄せしたものでございましょうか」 と取り次がせた。

(「わざわざだれにもわからないばしょにここをえらんだのだから、)

「わざわざだれにもわからない場所にここを選んだのだから、

(おまえいがいのものにはすべてひみつにしておいてくれ」 とげんじはくちどめをした。)

おまえ以外の者にはすべて秘密にしておいてくれ」 と源氏は口留めをした。

(さっそくにととのえられたかゆなどがでた。きゅうじもしょっきもまにあわせをしのぶより)

さっそくに調えられた粥などが出た。給仕も食器も間に合わせを忍ぶより

(ほかはない。こんなけいけんをもたぬげんじは、いっさいをきりはなして)

ほかはない。こんな経験を持たぬ源氏は、一切を切り放して

(きにかけぬことにして、こいびととはばからずかたりあうゆらくによおうとした。)

気にかけぬことにして、恋人とはばからず語り合う愉楽に酔おうとした。

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