吸血鬼22

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投稿者投稿者桃仔いいね2お気に入り登録
プレイ回数1472難易度(4.2) 4948打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6224 A++ 6.4 96.0% 761.3 4942 203 68 2024/03/24

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問題文

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(ひどいかたわものでね、てもあしもかたほうずつふじゆうで、めがわるいのか、おおきな)

「ひどい片輪者でね、手も足も片方ずつ不自由で、目が悪いのか、大きな

(くろめがねをかけ、そのうえ、はなとくちはますくでかくしているのですよ。ことばがひどく)

黒眼鏡をかけ、その上、鼻と口はマスクで隠しているのですよ。言葉がひどく

(あいまいで、はなへぬけるところをみると、はなかけさんかもしれやしません それをきくと)

曖昧で、鼻へ抜ける所を見ると、鼻欠けさんかも知れやしません」それを聞くと

(こちらのふたりは、おもわずかおをみあわせた。れいのくちびるのないかいぶつにそっくりなのだ。)

こちらの二人は、思わず顔を見合わせた。例の唇のない怪物にソックリなのだ。

(だが、あいつはなぜ、こんなつまらないせっこうぞうを、それほどほしがっているので)

だが、あいつはなぜ、こんなつまらない石膏像を、それ程欲しがっているので

(あろう。なにかふかいしさいがなくてはかなわぬ。あけちのこうへんからびしょうがきえた。)

あろう。何か深い仔細がなくてはかなわぬ。明智の口辺から微笑が消えた。

(かれのきちがはげしくかつどうしはじめたしるしだ。おかだくんは、どういうかんがえで、こんな)

彼の機智が烈しく活動し始めたしるしだ。「岡田君は、どういう考えで、こんな

(おおきなぞうをつくったのでしょうね。なにかあなたにはなしませんでしたか あけちは)

大きな像を作ったのでしょうね。何かあなたに話しませんでしたか」明智は

(らふのひとりひとりを、にゅうねんにけんさしながら、たずねた。べつにてんらんかいにしゅっぴん)

裸婦の一人一人を、入念に検査しながら、尋ねた。「別に展覧会に出品

(なさるようなおはなしもなかったようです。しつれいですが、あなたがた、えかきさんや、)

なさる様なお話もなかった様です。失礼ですが、あなた方、絵かきさんや、

(ちょうこくかさんのなさることは、われわれぼんじんにゃ、てんでけんとうもつきませんのでね)

彫刻家さんのなさることは、我々凡人にゃ、てんで見当もつきませんのでね」

(やぬしはくしょうしながら、えんりょのないところをいった。これができあがったのは、)

家主は苦笑しながら、遠慮のない所をいった。「これが出来上ったのは、

(いつごろでした さあ、それがわからないのですよ。いったいおかださんは、ひどい)

いつ頃でした」「サア、それが分らないのですよ。一体岡田さんは、ひどい

(かわりものでわたくしどもにみちであっても、ものもいわないようなひとでしたが、いえにいるときでも、)

変り者で私共に道で会っても、物もいわない様な人でしたが、家にいる時でも、

(まどというまどをしめきって、いりぐちのともなかからかぎをかけて、ひるまでもでんとうを)

窓という窓を締切て、入口の戸も中から鍵をかけて、昼間でも電燈を

(つけているといった、そりゃふうがわりなひとでした。しごとのほうもきっとでんとうのひかりで)

つけているといった、そりゃ風変りな人でした。仕事の方もきっと電燈の光で

(なすったのでござんしょう。わたくしどもはこのいえのまどがあいていたのをみたことが)

なすったのでござんしょう。私共はこの家の窓が開いていたのを見たことが

(ないくらいでした きけばきくほど、きかいなことがらばかりである。おかだがそんなおとこで)

ない位でした」聞けば聞く程、奇怪な事柄ばかりである。岡田がそんな男で

(あったとすれば、おかだすなわちくちびるのないおとこという、みたにのかんがえも、あながちとっぴな)

あったとすれば、岡田即ち唇のない男という、三谷の考えも、あながち突飛な

(くうそうとはいえぬのだ。そのみょうなおとこが、このぞうにねをつけておきながら、いままで)

空想とはいえぬのだ。「その妙な男が、この像に値をつけて置きながら、今まで

など

(ひきとりにこぬというのは、へんですね あけちがいうと、やぬしのおやじはやっきと)

引取りに来ぬというのは、変ですね」明智がいうと、家主の親爺はやっきと

(なって、いや、なにしろにせんえんですからね。ちょっとくめんがつかぬのかも)

なって、「イヤ、なにしろ二千円ですからね。ちょっと工面がつかぬのかも

(しれませんよ。しかし、このひとならしんからこれをほしがっていたことはたしかです。)

知れませんよ。併し、この人なら真からこれを欲しがっていたことは確です。

(あたしゃけっしてでたらめをいっているのではありません とべんかいした。)

あたしゃ決して出鱈目をいっているのではありません」と弁解した。

(あなたをうたがっているわけではないのです あけちはみたにとめをみあわせて、)

「あなたを疑っている訳ではないのです」明智は三谷と目を見合せて、

(れいのふしぎなびしょうをうかべながら、そのおとこのかんがえがかわったのでしょう。おそらく)

例の不思議な微笑を浮かべながら、「その男の考えが変ったのでしょう。恐らく

(いつまでまっても、ひきとりにくることはないかもしれません。みたにさん、これは)

いつまで待っても、引取りに来ることはないかも知れません。三谷さん、これは

(ぼくたちにとって、ひじょうにきょうみぶかいことがらですね といみありげにいった。みたには)

僕達にとって、非常に興味深い事柄ですね」と意味ありげにいった。三谷は

(それをきくと、なんともしれぬ、つめたいかぜのようなものをかんじて、ぞっとみぶるいした。)

それを聞くと、何とも知れぬ、冷い風の様なものを感じて、ゾッと身震いした。

(みたにさん、あなたは むっつのなぽれおん というたんていしょうせつをごぞんじですか。)

「三谷さん、あなたは『六つのナポレオン』という探偵小説を御存じですか。

(なぽれおんのせっこうぞうを、かたっぱしからたたきこわしてあるくおとこのはなしです。)

ナポレオンの石膏像を、片っ端から叩きこわして歩く男の話です。

(みんなそのおとこをきちがいだとおもっていたところが、そのじつは、なぽれおんぞうのひとつに、)

みんなその男を気違いだと思っていた所が、その実は、ナポレオン像の一つに、

(こうかなほうせきがかくしてあって、おとこはそれをみつけるために、おなじかたのせっこうぞうを、)

高価な宝石が隠してあって、男はそれを見つける為に、同じ型の石膏像を、

(つぎつぎとたたきこわしてあるいたというのです あけちはぐんぞうのらふのひとりの、)

次々と叩きこわして歩いたというのです」明智は群像の裸婦の一人の、

(かたのあたりを、こつこつとゆびさきでたたきながらいった。そのはなしはよんだことが)

肩のあたりを、コツコツと指先で叩きながらいった。「その話は読んだことが

(あります。でも、まさかこのぐんぞうにほうせきがかくしてあるわけではありますまい。)

あります。でも、まさかこの群像に宝石が隠してある訳ではありますまい。

(ちいさなほうせきをかくすのに、こんなべらぼうなぐんぞうをつくるひつようもないわけですからね)

小さな宝石を隠すのに、こんなべら棒な群像を作る必要もない訳ですからね」

(みたにはしろうとたんていのくうそうをわらった。いや、ぼくはなにもせっこうぞうにかくされるものが、)

三谷は素人探偵の空想を笑った。「イヤ、僕はなにも石膏像に隠されるものが、

(いつもほうせきにきまっているとはいいません。あるひとにとっては、ほうせきよりも、)

いつも宝石に極っているとはいいません。ある人にとっては、宝石よりも、

(もっとねうちのある、そしてまた、こんなおおきなぐんぞうのなかでなければ、)

もっと値打のある、そしてまた、こんな大きな群像の中でなければ、

(かくしきれないようなものも、あるだろうとおもうのです てらのおどうのようなかんじの)

隠し切れないようなものも、あるだろうと思うのです」寺のお堂の様な感じの

(あとりえのなかへ、わずかにひらかれたまどまどから、いつともなく、ゆうやみがしのびこんで)

アトリエの中へ、僅に開かれた窓々から、いつともなく、夕闇が忍び込んで

(きた。まっしろならじょたちは、はだのいんえいがうすれて、ゆめのような、たそがれのはいいろのなかへ、)

来た。真白な裸女達は、肌の陰影が薄れて、夢の様な、たそがれの灰色の中へ、

(とけこんでいくかとみえた。ごらんなさい。このまずいそぞうのなかに、さんたいだけ)

溶けこんで行くかと見えた。「ごらんなさい。このまずい塑像の中に、三体だけ

(ほかのとはくらべものにならぬほど、よくできたぞうがあります。ぼくはさいぜんから、)

他のとは比べものにならぬ程、よく出来た像があります。僕はさい前から、

(それにきづいていました あけちは、そのさんにんのらじょを、ひとりひとりゆびさしながら)

それに気づいていました」明智は、その三人の裸女を、一人一人指さしながら

(いった。なるほど、そういえば、ごにんのつたないらじょのかげに、かくれるようにして、さんにんの)

いった。成程、そういえば、五人の拙い裸女の蔭に、隠れるようにして、三人の

(いきたおんなが、それぞれのぽーずでつくばっていた。ゆうやみが、あらけずりなはだのさいぶをかくして)

生きた女が、夫々のポーズで蹲っていた。夕闇が、荒削りな肌の細部を隠して

(しまったので、そのさんにんの、いけるがごときごたいが、まざまざとうかび)

しまったので、その三人の、生けるが如き五体が、まざまざと浮かび

(あがったのだ。たそがれが、つくりだした、もののけであろうか。こうして)

上ったのだ。たそがれが、作り出した、物の怪であろうか。「こうして

(みていると、ちょうこくなんて、ほんとうにうすっきみのわるいものですね こころなき)

見ていると、彫刻なんて、本当に薄っ気味の悪いものですね」心なき

(いなかおやじにも、ただならぬけはいがかんじられたのか、やぬしはひくいこえでぶきみらしく)

田舎親爺にも、ただならぬ気配が感じられたのか、家主は低い声で不気味らしく

(つぶやくのであった。さんにんは、せまりくるうすくらがりに、むごんのまま、)

呟くのであった。三人は、迫り来る薄くらがりに、無言のまま、

(たちつくしていた。そのさまは、あたかも、はちにんのぐんぞうに、さらにきかいなるさんたいを、)

立ちつくしていた。その様は、恰も、八人の群像に、更に奇怪なる三体を、

(ましたかのごとくみえたのである。あっ、いけない。おまえさんなにをするんだ)

増したかの如く見えたのである。「アッ、いけない。お前さんなにをするんだ」

(とつじょ、やぬしがけたたましいさけびごえをたてて、あけちのそばへかけよった。)

突如、家主がけたたましい叫び声を立てて、明智の側へ駆け寄った。

(だが、もうおそかった。あけちは、ひとりのらふのこしのあたりを、いやというほど)

だが、もう遅かった。明智は、一人の裸婦の腰のあたりを、いやという程

(けとばしたのである。やぬしのおやじがおこったのはむりはない。みもしらぬおとこが、)

蹴飛ばしたのである。家主の親爺が怒ったのは無理はない。見も知らぬ男が、

(なんのことわりもなく、にせんえんのしょうひんをけとばしたのだ。そして、そのたいせつなせっこうぞうが)

何の断りもなく、二千円の商品を蹴飛ばしたのだ。そして、その大切な石膏像が

(かけてしまったのだ。あんた、きでもちがったのかね。なんというらんぼうを)

欠けてしまったのだ。「あんた、気でも違ったのかね。何という乱暴を

(するんだ。さあ、べんしょうしてください。うりものがだいなしになってしまった、にせんえんが)

するんだ。サア、弁償して下さい。売物が台無しになってしまった、二千円が

(びたいちもんかけてもしょうちするこっちゃない おやじはあけちのむなぐらをとらんばかりに)

ビタ一文かけても承知するこっちゃない」親爺は明智の胸ぐらをとらんばかりに

(して、がなりたてた。らじょのひとりは、こしのあたりがしごすんほどもかけて、きのどくな)

して、がなり立てた。裸女の一人は、腰のあたりが四五寸程も欠けて、気の毒な

(すがたになった。かけたせっこうのしたから、うすぐろいぬのみたいなものが、まるでさかなの)

姿になった。欠けた石膏の下から、うす黒い布みたいなものが、まるで魚の

(ぞうふかなんぞのように、ぶきみにのぞいている。あけちはそのそばにしゃがみ、)

臓腑かなんぞの様に、不気味にのぞいている。明智はその側にしゃがみ、

(おやじのののしりごえもみみにはいらぬていで、ねっしんに、せっこうぞうのしんのぬのみたいなものを)

親爺の罵り声も耳に入らぬ体で、熱心に、石膏像の芯の布みたいなものを

(しらべていたが、やがて、こちらをむいてたちあがったときには、かれははっとするほど)

検べていたが、やがて、こちらを向いて立上った時には、彼はハッとする程

(けわしいひょうじょうになっていた。)

険しい表情になっていた。

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