駆込み訴え6
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問題文
(そのあくるひ、)
そのあくる日、
(わたしたちはいよいよあこがれのえるされむにむかい、しゅっぱついたしました。)
私たちは愈愈(いよいよ)あこがれのエルサレムに向い、出発いたしました。
(だいぐんしゅう、おいもわかきも、あのひとのあとにつきしたがい、)
大群集、老いも若きも、あの人のあとにつき従い、
(やがて、えるされむのみやがまぢかになったころ、)
やがて、エルサレムの宮が間近になったころ、
(あのひとは、いっぴきのおいぼれたろばをみちばたでみつけて、)
あの人は、一匹の老いぼれた驢馬(ろば)を道ばたで見つけて、
(びしょうしてそれにうちのり、)
微笑してそれに打ち乗り、
(これこそは、「しおんのむすめよ、おそるな、)
これこそは、「シオンの娘よ、懼(おそる)な、
(みよ、なんじのおうはろばのこにのりてきたりたもう」)
視よ、なんじの王は驢馬の子に乗りて来り給う」
(とよげんされてあるとおりのかたちなのだと、)
と予言されてある通りの形なのだと、
(でしたちにはれがましいかおをしておしえましたが、)
弟子たちに晴れがましい顔をして教えましたが、
(わたしひとりは、なんだかうかぬきもちでありました。)
私ひとりは、なんだか浮かぬ気持でありました。
(なんという、あわれなすがたであったでしょう。)
なんという、あわれな姿であったでしょう。
(まちにまったすぎこしのまつり、えるされむきゅうにのりこむ、)
待ちに待った過越(すぎこし)の祭、エルサレム宮に乗り込む、
(これが、あのだびでのみこのすがたであったのか。)
これが、あのダビデの御子の姿であったのか。
(あのひとのいっしょうのねんがんとしたはれのすがたは、)
あの人の一生の念願とした晴れの姿は、
(このおいぼれたろばにまたがり、)
この老いぼれた驢馬に跨がり、
(とぼとぼすすむあわれなけいかんであったのか。)
とぼとぼ進むあわれな景観であったのか。
(わたしには、もはや、れんびんいがいのものはかんじられなくなりました。)
私には、もはや、憐憫(れんびん)以外のものは感じられなくなりました。
(じつにひさんな、おろかしいちゃばんきょうげんをみているようなきがして、)
実に悲惨な、愚かしい茶番狂言を見ているような気がして、
(ああ、もう、このひともおちめだ。)
ああ、もう、この人も落目だ。
(いちにちいきのびれば、いきのびただけ、あさはかなしゅうたいをさらすだけだ。)
一日生き延びれば、生き延びただけ、あさはかな醜態をさらすだけだ。
(はなは、しぼまぬうちこそ、はなである。)
花は、しぼまぬうちこそ、花である。
(うつくしいあいだに、きらなければならぬ。)
美しい間に、剪(き)らなければならぬ。
(あのひとを、いちばんあいしているのはわたしだ。)
あの人を、一ばん愛しているのは私だ。
(どのようにひとからにくまれてもいい。)
どのように人から憎まれてもいい。
(いちにちもはやくあのひとをころしてあげなければならぬと、)
一日も早くあの人を殺してあげなければならぬと、
(わたしは、いよいよこのつらいけっしんをかためるだけでありました。)
私は、いよいよ此のつらい決心を固めるだけでありました。
(ぐんしゅうは、こくいっこくとそのかずをまし、)
群集は、刻一刻とその数を増し、
(あのひとのとおるみちみちに、あか、あお、き、いろとりどりのかれらのきものをほうりなげ、)
あの人の通る道々に、赤、青、黄、色とりどりの彼等の着物をほうり投げ、
(あるいはしゅろのえだをきって、)
あるいは棕櫚(しゅろ)の枝を伐(き)って、
(そのいくみちにしきつめてあげて、)
その行く道に敷きつめてあげて、
(かんこにどよめきむかえるのでした。)
歓呼にどよめき迎えるのでした。
(かつまえにゆき、あとにしたがい、)
かつ前にゆき、あとに従い、
(みぎから、ひだりから、まつわりつくようにしてはてはおおなみのごとく、)
右から、左から、まつわりつくようにして果ては大浪の如く、
(ろばとあのひとをゆさぶり、ゆさぶり、)
驢馬とあの人をゆさぶり、ゆさぶり、
(「だびでのこにほさな、ほむべきかな、)
「ダビデの子にホサナ、讃(ほ)むべきかな、
(しゅのみなによりてきたるもの、いとたかきところにて、ほさな」)
主の御名によりて来る者、いと高き処にて、ホサナ」
(とねっきょうしてくちぐちにうたうのでした。)
と熱狂して口々に歌うのでした。
(ぺてろやよはねやばるとろまい、)
ペテロやヨハネやバルトロマイ、
(そのほかぜんぶのでしどもは、)
そのほか全部の弟子共は、
(ばかなやつ、すでにてんごくをめのまえにみたかのように、)
ばかなやつ、すでに天国を目のまえに見たかのように、
(まるでがいせんのしょうぐんにつきしたがっているかのように、)
まるで凱旋(がいせん)の将軍につき従っているかのように、
(うちょうてんのかんきでたがいにだきあい、なみだにぬれたせっぷんをかわし、)
有頂天の歓喜で互いに抱き合い、涙に濡れた接吻を交し、
(いってつもののぺてろなど、よはねをだきかかえたまま、)
一徹者のペテロなど、ヨハネを抱きかかえたまま、
(わあわあおおごえでうれしなきになきくずれていました。)
わあわあ大声で嬉し泣きに泣き崩れていました。
(そのありさまをみているうちに、さすがにわたしも、)
その有様を見ているうちに、さすがに私も、
(このでしたちといっしょにかんなんをおかしてふきょうにあるいてきた、)
この弟子たちと一緒に艱難(かんなん)を冒して布教に歩いて来た、
(そのにんくこんきゅうのひびをおもいだし、)
その忍苦困窮の日々を思い出し、
(ふかくにも、めがしらがあつくなってきました。)
不覚にも、目がしらが熱くなって来ました。