吸血鬼33

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プレイ回数1469難易度(4.5) 4675打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6031 A++ 6.2 96.0% 744.8 4687 195 64 2024/04/05

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問題文

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(わかものは、みるみる、ながいてっこつのなかほどまではいあがったが、さすがにつかれたのか、)

若者は、見る見る、長い鉄骨のなか程まで這い上ったが、流石に疲れたのか、

(じょじょにそくどがにぶってきた。むりもない。もうそのへんは、まっさかさまに、てんじょうを)

徐々に速度がにぶって来た。無理もない。もうその辺は、真っ逆様に、天井を

(はうもどうぜんの、きけんなかしょなのだ。そのとき、おそろしいことがおこった。ちょうじょうのまるい)

這うも同然の、危険な個所なのだ。その時、恐ろしいことが起った。頂上の丸い

(つうふうこうから、ちらっとちいさなかおがのぞいたのだ。まるでへびがいしがきのあいだから、かまくびを)

通風孔から、チラッと小さな顔が覗いたのだ。まるで蛇が石垣の間から、鎌首を

(のぞかせるように。ぞくだ。かれはまだつうふうこうのまうえに、ようすをうかがっていたのだ。ひとびとは)

覗かせる様に。賊だ。彼はまだ通風孔の真上に、様子を窺っていたのだ。人々は

(あまりのぶきみさに、おもわず あっ とこえをたてないではいられなかった。)

余りの不気味さに、思わず「アッ」と声を立てないではいられなかった。

(へびのあたまのような、かいぶつのかおは、ちらっとのぞいたかとおもうとひっこみ、またのぞいたかと)

蛇の頭の様な、怪物の顔は、チラッと覗いたかと思うと引込み、また覗いたかと

(おもうとひっこんだ。もしそのかおが くちびるのないかおが かつどうしゃしんのように、)

思うと引込んだ。若しその顔が-唇のない顔が-活動写真の様に、

(くろーず・あっぷできたら、さだめしいっそうおそろしかったであろうけれど、さいわい、)

クローズ・アップ出来たら、定めし一層恐ろしかったであろうけれど、幸、

(そこは、めまいがするほど、はるかなるこうしょだ。ただ、ほのじろいものが、)

そこは、めまいがする程、遙かなる高所だ。ただ、ほの白いものが、

(ちら、ちらとみえかくれするばかりである。だが、ぞくはとびどうぐをもっている。)

チラ、チラと見え隠れするばかりである。だが、賊は飛道具を持っている。

(のぼっていくわかものをねらいうちに、いおとすのはわけもないことだ。おーい、)

昇って行く若者を狙い撃ちに、射落すのは訳もないことだ。「オーイ、

(ようじんしろ。うえからのぞいているぞ。ぴすとるをようじんしろ だれかがどなると、)

用心しろ。上から覗いているぞ。ピストルを用心しろ」誰かが呶鳴ると、

(そのこえが、ものすごくまるてんじょうにこだまして、うぉーっ、うぉーっときえていった。)

その声が、物凄く丸天井にこだまして、ウォーッ、ウォーッと消えて行った。

(わかものは、ちょっとしたをみたが、なあに というかおで、なおもうえへうえへと、)

若者は、ちょっと下を見たが、「ナアニ」という顔で、なおも上へ上へと、

(よじのぼる。いっしゃくずつ、ふみよさんとのきょりがちぢまって、とうとう、てがとどくまで)

よじ昇る。一尺ずつ、文代さんとの距離が縮まって、とうとう、手が届くまで

(せっきんした。かいぶつはもうかおをみせぬけれど、わかものがふみよさんのからだにてをかけたら)

接近した。怪物はもう顔を見せぬけれど、若者が文代さんの身体に手をかけたら

(ひとうちにうちころそうと、まっくらなあなのそとで、まちかまえているのかもしれない。)

一うちに撃ち殺そうと、真暗な孔の外で、待ち構えているのかも知れない。

(むてっぽうなしごとしは、そんなことにおかまいなく、てっこつにあしをからんで、ひけしの)

無鉄砲な仕事師は、そんなことにお構いなく、鉄骨に足をからんで、火消しの

(はしごのりのかっこうで、りょうてをはなし、ふみよさんを、ちゅうにだきとった。ああ、いまにも、)

梯子乗りの格好で、両手を離し、文代さんを、宙に抱き取った。アア、今にも、

など

(いまにも、ずどんとぴすとるのおとがして、ふみよさんをだいたわかもののからだが、)

今にも、ズドンとピストルの音がして、文代さんを抱いた若者の身体が、

(もんどりうって、すうじゅうじょうのちじょうへと、ついらくするのではあるまいか。ひとびとは、)

もんどり打って、数十丈の地上へと、墜落するのではあるまいか。人々は、

(てにあせをにぎり、いきをのんで、くびがいたくなるほど、てんじょうをみつめていた。あんのじょう、)

手に汗を握り、息を呑んで、首が痛くなる程、天井を見つめていた。案の定、

(ちょうじょうのまるあなから、まっさかさまに、かいぶつのじょうはんしんが、にゅーっとのぞいた。みぎてが)

頂上の丸孔から、真逆様に、怪物の上半身が、ニューッと覗いた。右手が

(じょじょにしたへのびた。そのてさきには、ぴすとるだ。とおくて、みえぬけれど、)

徐々に下へ伸びた。その手先には、ピストルだ。遠くて、見えぬけれど、

(うでのかっこうで、それとわかる。あ、ぴすとるだ。あぶないっ おもわずいくどうおんの)

腕の格好で、それと分る。「ア、ピストルだ。危いッ」思わず異口同音の

(さけびごえ。わかものは、それときづいて、さすがにおどろいたらしく、てっこうにぶらさがったまま)

叫び声。若者は、それと気づいて、流石に驚いたらしく、鉄鋼にぶら下ったまま

(ぐるっとみもだえをしたかとおもうと、ああ、なんというむちゃなことだ。ふみよさんの)

グルッと身もだえをしたかと思うと、アア、何という無茶なことだ。文代さんの

(からだを、たてにして、ぞくのほうへつきつけた。とどうじに、ぱん・・・・・・と、)

身体を、楯にして、賊の方へつきつけた。と同時に、パン・・・・・・と、

(まるてんじょうにこだまするぴすとるのおと。ぎゃっ!というおそろしいひめい。ひとびとは)

丸天井にこだまするピストルの音。「ギャッ!」という恐ろしい悲鳴。人々は

(どきんとして、おもわずかおをそむけた。だが、みないわけにはいかぬ。おそろしければ)

ドキンとして、思わず顔をそむけた。だが、見ない訳には行かぬ。恐ろしければ

(おそろしいほど、しぜんと、めがそのほうへ、ひきつけられていくのだ。かれらは、)

恐ろしい程、自然と、目がその方へ、引きつけられて行くのだ。彼等は、

(ひゅーっとかぜをきってやのようにおちていくものをみた。あかいものだ。)

ヒューッと風を切って矢の様に落ちて行くものを見た。赤いものだ。

(ふみよさんだ。きのどくなしょうじょはぐるぐるかいてんしながら、こくこくかそくどをくわえて、)

文代さんだ。気の毒な少女はぐるぐる廻転しながら、刻々加速度を加えて、

(まるであかいぼうのようになって、たちまちきくにんぎょうのてんじょうの、あおいぬのばりにぶつかり、)

まるで赤い棒の様になって、忽ち菊人形の天井の、青い布張りにぶつかり、

(ほうだんのようにそれをうちやぶったかとおもうと、ぱちゃんとぶきみなおとがきこえてきた。)

砲弾の様にそれを打破ったかと思うと、パチャンと不気味な音が聞こえて来た。

(いけだ。いけにおちたのだ だれかがさけんで、もうそのほうへかいだんをかけおりていた。)

「池だ。池に落ちたのだ」誰かが叫んで、もうその方へ階段をかけ降りていた。

(いちどうどやどやと、それにつづいた。そらでは、しごとしのわかものは、べつじょうなくてっこつに)

一同どやどやと、それに続いた。空では、仕事師の若者は、別状なく鉄骨に

(ぶらさがったままだ。けがをしたようすはない。ただぴすとるにおどろいて、かんじんの)

ブラ下ったままだ。怪我をした様子はない。ただピストルに驚いて、肝腎の

(ふみよさんをとりおとしてしまったのだ。かいぶつはみると、やっぱり、さかさまにかおを)

文代さんを取落としてしまったのだ。怪物は見ると、やっぱり、逆様に顔を

(つきでしたまま、わかものをにらみつけて、ぶきみにげらげらわらっているのが、かすかに)

つき出したまま、若者を睨みつけて、不気味にゲラゲラ笑っているのが、幽かに

(きこえる。ゆうもうなわかものは、おもわぬしっさくに、むかっぱらをたてたようすで、)

聞える。勇猛な若者は、思わぬ失策に、むかっ腹を立てた様子で、

(にげだすどころか、かえって、おそろしいとうしをみせて、もうぜんと、かいぶつへ)

逃げ出すどころか、却って、恐ろしい闘志を見せて、猛然と、怪物へ

(せまっていった。ちじょうのひとびとは、かいだんをかけおり、ろうかから、きくにんぎょうのなかへと)

迫って行った。地上の人々は、階段を駆け降り、廊下から、菊人形の中へと

(なだれこんでいった。おれまがったつうろを、もどかしくはしって、ふみよさんが)

なだれ込んで行った。折れ曲った通路を、もどかしく走って、文代さんが

(ついらくしたとおぼしきかしょへいそいだ。じょうないちゅうおうにじんこうのたきと、そのたきつぼにつづいて)

墜落したと覚しき個所へ急いだ。場内中央に人工の滝と、その滝壺に続いて

(あさいいけができている。ふみよさんがついらくしたかしょはちょうどそのけんとうにあたるのだ。)

浅い池が出来ている。文代さんが墜落した箇所はちょうどその見当に当るのだ。

(ひとびとはめいろみたいにまがりくねったほそみちを、そこへはしりながら、はしってはしっても、)

人々は迷路みたいに曲りくねった細道を、そこへ走りながら、走って走っても、

(はしりきれぬ、あのどろどろしたあくむのなかを、もがきまわっているようなきがした。)

走りきれぬ、あのドロドロした悪夢の中を、もがき廻っている様な気がした。

(さつじんきが、ぎせいしゃをだいて、まるてんじょうをよじのぼったはなれわざ。ふかのうなことではない。)

殺人鬼が、犠牲者を抱いて、丸天井をよじ昇った離れ業。不可能な事ではない。

(だが、なんというとほうもない、けたはずれなおもいつきだ。さらにへんてこなのは、)

だが、何という途方もない、桁はずれな思いつきだ。更に変てこなのは、

(うつくしいむすめさんが、まるてんじょうのてっぺんにぶらさがっていたこと、それが、なにか)

美しい娘さんが、丸天井のてっぺんにブラ下っていたこと、それが、何か

(つまらないしなものみたいに、なげおとされて、ぺしゃんこにつぶれて)

つまらない品物みたいに、投げおとされて、ペシャンコにつぶれて

(しまったこと。まるできょうじんのゆめだ。あまりのとっぴさに、ふきだしたいくらいだ。)

しまったこと。まるで狂人の夢だ。余りの突飛さに、吹き出したい位だ。

(ひとびとは、かれらのめで、たったいまはっきりとみたことがらを、しんじえないきもちだった。)

人々は、彼等の目で、たった今ハッキリと見た事柄を、信じ得ない気持だった。

(なにかしらとんでもないまちがいがあるようなきがした。やがて、かれらはもくてきのいけに)

何かしら飛んでもない間違いがある様な気がした。やがて、彼等は目的の池に

(とうちゃくした。そして、まさかまさかとおもっていたことがらが、ちゃんとそこに)

到着した。そして、まさかまさかと思っていた事柄が、ちゃんとそこに

(おこっているのをみて、いまさらのように、ぎょっとたちすくんだ。じんこうのたきは、)

起っているのを見て、今更の様に、ギョッと立ちすくんだ。人工の滝は、

(もーたーをとめたので、もうながれてはいなかった。しのようなしずけさ、)

モーターを止めたので、もう流れてはいなかった。死の様な静けさ、

(さもゆうすいにしつらえたじんぞうのきょうこく、ぶりきざいくのきがんかいせき、えだをまじえた)

さも幽邃にしつらえた人造の峡谷、ブリキ細工の奇岩怪石、枝を交えた

(ろうじゅのかげ、そこにこなみひとつたたぬくろいいけがぶきみにだまりかえっていた。いけのまんなかに)

老樹の影、そこに小波一つ立たぬ黒い池が不気味に黙り返っていた。池の真中に

(あおざめたかおをうえにして、ふみよさんのしがいが、しずかにういている。えんじいろのようふくが)

青ざめた顔を上にして、文代さんの死骸が、静かに浮いている。嚥脂色の洋服が

(きかいなはすのはなのようにひらいて、くろいみずのなかに、すきとおってみえるなめらかなにのうで、)

奇怪な蓮の花の様に開いて、黒い水の中に、透き通って見える滑かな二の腕、

(ふかしぎなものようにただようかみのけ、うつくしい、いんうつな、あぶらえのけしきだ。)

不可思議な藻の様に漂う髪の毛、美しい、陰鬱な、油絵の景色だ。

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