銀河鉄道の夜 宮沢賢治
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問題文
(おっかさん、きょうはかくざとうをかってきたよ。)
おっかさん、きょうは角砂糖を買ってきたよ。
(ねえさんがね、とまとでなにかこしらえてそこへおいていったよ。)
ねえさんがね、トマトでなにかこしらえてそこへ置いて行ったよ。
(そうだ。こんばんはぎんがのおまつりだねえ。)
そうだ。今晩は銀河のお祭りだねえ。
(ではいちじかんはんでかえってくるよ。)
では一時間半で帰ってくるよ。
(ざねり、からすうりながしにいくの。)
ザネリ、烏瓜ながしに行くの。
(けんたうるす、つゆをふらせ。)
ケンタウルス、露をふらせ。
(じょばんに、らっこのうわぎがくるよ。)
ジョバンニ、ラッコの上着が来るよ。
(ぼく、はくちょうをみるなら、ほんとうにすきだ。)
ぼく、白鳥を見るなら、ほんとうにすきだ。
(このちずはどこでかったの。こくようせきでできてるねえ。)
この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。
(おや、あのかわらはつきよだろうか。)
おや、あの河原は月夜だろうか。
(ぼくはもう、すっかりてんののはらにきた。)
ぼくはもう、すっかり天の野原に来た。
(それに、このきしゃせきたんをたいていないねえ。)
それに、この汽車石炭をたいていないねえ。
(あありんどうのはながさいている。もうすっかりあきだねえ。)
あありんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。
(おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか。)
おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか。
(ぼくはおっかさんが、ほんとうのさいわいになるなら、どんなことでもする。)
ぼくはおっかさんが、ほんとうの幸いになるなら、どんなことでもする。
(はれるや、はれるや。)
ハレルヤ、ハレルヤ。
(もうじきはくちょうのていしゃじょうだねえ。)
もうじき白鳥の停車場だねえ。
(このすなはみんなすいしょうだ。なかでちいさなひがもえている。)
この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えている。
(くるみのみだよ。そら、たくさんある。)
くるみの実だよ。そら、たくさんある。
(おいおい、そこ、つるはしはよしたまえ。)
おいおい、そこ、つるはしはよしたまえ。
(ここへかけてもようございますか。)
ここへかけてもようございますか。
(このきしゃは、じっさい、どこまででもいきますぜ。)
この汽車は、じっさい、どこまででも行きますぜ。
(つる、どうしてとるんですか。)
鶴、どうしてとるんですか。
(さぎをおしばにするんですか。ひょうほんですか。)
鷺を押し葉にするんですか。標本ですか。
(ああ、とおくからですね。)
ああ、遠くからですね。
(ごらんなさい。あれがなだかいあるびれおのかんそくじょです。)
ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。
(こいつはもう、ほんとうのてんじょうへさえいけるきっぷだ。)
こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける切符だ。
(ぼくはあのひとがじゃまなようなきがしたんだ。だからぼくはたいへんつらい。)
僕はあの人がじゃまなような気がしたんだ。だから僕はたいへんつらい。
(ほんとうにりんごのにおいだよ。それからのいばらのにおいもする。)
ほんとうにりんごのにおいだよ。それから野いばらのにおいもする。
(あら、ここどこでしょう。まあ、きれいだわ。)
あら、ここどこでしょう。まあ、きれいだわ。
(わたしたちはてんへいくのです。)
わたしたちは天へ行くのです。
(ぼく、おおねえさん。おとうさんのとこへいくんだよう。)
ぼく、おおねえさん。おとうさんのとこへ行くんだよう。
(わたしたちはもう、なんにもかなしいことはないのです。)
わたしたちはもう、なんにもかなしいことはないのです。
(いかがですか。こういうりんごはおはじめてでしょう。)
いかがですか。こういうりんごはおはじめてでしょう。
(ああぼく、いまおっかさんのゆめをみていたよ。)
ああぼく、いまおっかさんの夢をみていたよ。
(いまこそわたれわたりどり、いまこそわたれわたりどり。)
いまこそわたれわたり鳥、いまこそわたれわたり鳥。
(あれきっとふたごのおほしさまのおみやだよ。)
あれきっとふた子のお星さまのお宮だよ。
(それからほうきぼしが、ぎーぎーふーぎーぎーふーていってきたねえ。)
それから彗星(ほうきぼし)が、ギーギーフーギーギーフーて言って来たねえ。
(あれはなんのひだろう。あんなあかくひかるひはなにをもせばできるんだろう。)
あれはなんの火だろう。あんな赤く光る火は何を燃せばできるんだろう。
(ここでおりなきゃあいけないのです。)
ここでおりなきゃあいけないのです。
(そんなかみさまうそのかみさまだい。)
そんな神さまうその神さまだい。
(けれどもほんとうのさいわいはいったいなんだろう。)
けれどもほんとうのさいわいはいったい何だろう。
(あっ、あすこにいるのはぼくのおっかさんだよ。)
あっ、あすこにいるのはぼくのおっかさんだよ。
(かむぱねるら、ぼくたちいっしょにいこうねえ。)
カムパネルラ、僕たちいっしょに行こうねえ。
(あのひとはね、ほんとうにこんやとおくへいったのだ。)
あのひとはね、ほんとうにこんや遠くへ行ったのだ。
(おまえはおまえのきっぷをしっかりもっておいで。)
おまえはおまえの切符をしっかりもっておいで。
(ぼくきっとまっすぐにすすみます。きっとほんとうのこうふくをもとめます。)
僕きっとまっすぐに進みます。きっとほんとうの幸福を求めます。
(はかせありがとう、おっかさん。すぐちちをもっていきますよ。)
博士ありがとう、おっかさん。すぐ乳をもって行きますよ。
(じょばんに、かむぱねるらがかわへはいったよ。)
ジョバンニ、カムパネルラが川へはいったよ。
(もうだめです。おちてからよんじゅうごふんたちましたから。)
もうだめです。落ちてから四十五分たちましたから。
(あなたはじょばんにさんでしたね。どうもこんばんはありがとう。)
あなたはジョバンニさんでしたね。どうも今晩はありがとう。