武者小路実篤『友情』 下篇③
武者小路実篤『友情』で交わされる手紙です
武者小路実篤『友情』(新潮社、昭和22年)より、主人公・野島の思いを知りつつ野島の親友・大宮と結婚することにした杉子と、その大宮との間に交わされる手紙です。
杉子の野島への感情が痛烈です・・・
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問題文
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(のじまさまはこのごろちっともおみえになりません。)
野島さまはこの頃ちっともお見えになりません。
(こないだていげきのろうかでちょっとおめにかかりましたが、)
こないだ帝劇の廊下で一寸お目にかかりましたが、
(すぐきがつかないようにおにげになりました。)
すぐ気がつかないようにお逃げになりました。
(くわしいことはのじまさまからおはなしがあったこととおもいますが、)
くわしいことは野島さまからお話があったことと思いますが、
(わたくしはおどろきました。)
私はおどろきました。
(わたくしはのじまさまをにばんめにそんけいしております。)
私は野島さまを二番目に尊敬しております。
(いいかただとおもいます。)
いい方だと思います。
(わたくしにはもったいないかたともおもわれないことはございません。)
私には勿体ない方とも思われないことは御座いません。
(あなたはきっとそうおおもいになるとおもいます。)
あなたはきっとそうお思いになると思います。
(ですが、わたくしはのじまさまのつまにはしんでもならないつもりでおります。)
ですが、私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります。
(このことをあなたにもうしておきます。)
このことをあなたに申しておきます。
(りょうしんがはんたいしたからではありません。)
両親が反対したからではありません。
(あにはすこしすすめてもくれました。)
兄は少し勧めてもくれました。
(ですがわたくしは、どうしてものじまさまのわきには、)
ですが私は、どうしても野島さまのわきには、
(いちじかんいじょうはいたくないのです。)
一時間以上は居たくないのです。
(なぜだかじぶんにはわかりません。)
なぜだか自分にはわかりません。
(じぶんではせつめいもつきますが、それはようするのにわたくしのしんけいのはなしで、)
自分では説明もつきますが、それは要するのに私の神経の話で、
(かくほどのこととはおもいません。)
かく程のこととは思いません。
