武者小路実篤『友情』 下篇⑤
武者小路実篤『友情』(新潮社、昭和22年)より、主人公・野島の思いを知りつつ野島の親友・大宮と結婚することにした杉子と、その大宮との間に交わされる手紙です。
大宮が杉子に返信します。
大宮が杉子に返信します。
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問題文
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(おてがみはいけんしました。)
御手紙拝見しました。
(しょうじきにいうと、あなたのてがみをうけとらなかったことをぼくはのぞんでいます。)
正直に云うと、あなたの手紙を受けとらなかったことを僕は望んでいます。
(うけとってもおへんじをださないほうがいいのかともおもいます。)
受けとっても御返事を出さない方がいいのかとも思います。
(ですがのじまのことを、もいっぺんかんがえていただきたいことをもうします。)
ですが野島のことを、も一ぺん考えて戴きたいことを申します。
(あなたはまだのじまのいいところをほんとうにはごぞんじないのです。)
あなたはまだ野島のいい所を本当には御存知ないのです。
(のじまのみかけばかりにまだひっかかっていらっしゃるようにみえます。)
野島の見かけばかりにまだひっかかっていらっしゃるように見えます。
(のじまのたましいをみてほしくおもいます。)
野島の魂を見てほしく思います。
(のじまをともだからほめるのではありません。)
野島を友だからほめるのではありません。
(のじまはじっさい、ほめていいわずかのにんげんのひとりです。)
野島は実際、ほめていい僅かの人間の一人です。
(そんなおとこにこいされたことはあなたのめいよです。)
そんな男に恋されたことはあなたの名誉です。
(そのめいよにあなたがあたいしないとはもうしません。)
その名誉にあなたが値しないとは申しません。
(ぼくはあなたをのじまをはなしてかんがえるわけにはゆきません。)
僕はあなたを野島をはなして考えるわけにはゆきません。
(ぼくはのじまのつまになるひととしてあなたをそんけいしてきました。)
僕は野島の妻になる人としてあなたを尊敬して来ました。