ひらめの学校 後半

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タグ小説 文豪
林芙美子作『ひらめの学校』です。
水中の生き物たちは、争う人間に何を思うのでしょうか。

・長いため前半後半に分けました。こちらは後半になります。
・基本的に漢数字はローマ字入力です。
・文中、差別用語にあたる言葉が登場しているため、伏字(--)に変更しています。文脈的に「集落・村落」と同義として用いられており、差別的意図はないと思われます。参照した青空文庫ではそのまま表記されています。

・参照:青空文庫『ひらめの学校』

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問題文

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(まことにめずらしいものです。)

まことに珍しいものです。

(こうちょうせんせいは、めがねのぶいをにぎってじいっとみとれていました。)

校長先生は、眼鏡のブイを握ってじいっと見とれていました。

(さばむらのそんちょうさんもおんなのかたです。)

鯖村の村長さんも女の方です。

(とてもよくふとったかたで、きれいなもでくびまきをつくって、それをじまんそうに)

とてもよく太った方で、きれいな藻で首巻きを作って、それを自慢そうに

(せなかにかけていらっしゃいました。)

脊中にかけていらっしゃいました。

(「みなさん、よくいらっしゃいましたね。)

「みなさん、よくいらっしゃいましたね。

(これは、ごらんのようにみょうなものですが、りくじょうのにんげんのつくった)

これは、ごらんのように妙なものですが、陸上の人間のつくった

(ひこうきというものだそうで、りゅうぐうのたいおうも、せんじつわざわざ)

飛行機と云うものだそうで、竜宮の鯛王も、先日わざわざ

(みにいらっしゃいました。)

見にいらっしゃいました。

(いま、りくじょうではにんげんがせんそうというものをはじめているのだそうです。)

いま、陸上では人間が戦争と云うものを始めているのだそうです。

(ふかさんはとてもおもしろがって、ふかむらぜんぶでみなみのうみへせんそうをみにいったそうです。)

鱶さんはとても面白がって、鱶村全部で南の海へ戦争を見に行ったそうです。

(たいおうも、なるべくふかぞくがながくみなみにたいざいしてくれるといいと)

鯛王も、なるべく鱶族が長く南に滞在してくれるといいと

(おっしゃっていました。)

おっしゃっていました。

(さあ、みなさん、ごじゆうに、ひこうきというものをごらんください。)

さア、みなさん、御自由に、飛行機と云うものをごらん下さい。

(ひらめのせいとはよろこんでひこうきのまわりをおよぎはじめました。)

ひらめの生徒はよろこんで飛行機のまわりを泳ぎはじめました。

(「ねえ、これはなんだろう?」)

「ねえ、これは何だろう?」

(おおきいまるいごむのしゃりんがうえをむいています。)

大きい円いゴムの車輪が上を向いています。

(「これはすべりだいかもわからないわ。」)

「これはすべり台かもわからないわ。」

(みんなめずらしくてしかたがありません。)

みんな珍しくて仕方がありません。

(がらすのまどからなかへはいると、ちいさいにんぎょうがぶらさがっています。)

ガラスの窓から中へ入ると、小さい人形がぶらさがっています。

など

(とてもかわいいので、さばむらのそんちょうさんにうかがって、ひらめがっこうのせいとは)

とても可愛いので、鯖村の村長さんにうかがって、ひらめ学校の生徒は

(それをきねんにいただきました。)

それを記念にいただきました。

(けんぶつがすむと、いわのなかのしょくどうで、ひらめがっこうのせいとはたくさんごちそうになって、)

見物が済むと、岩の中の食堂で、ひらめ学校の生徒は沢山御馳走になって、

(ゆうがたぢかくひらめむらへみんなでもどってきました。)

夕方ぢかくひらめ村へみんなで戻って来ました。

(がっこうにはやこうちゅうのあかりがついていました。)

学校には夜光虫の灯がついていました。

(みんなあかりのそばへあつまってうたをうたいました。)

みんな灯のそばへあつまって歌をうたいました。

(とこしえにうつくしきうみのくに)

とこしえにうつくしき海の国

(あらそいをさけてをつなぎ)

あらそいをさけ手をつなぎ

(うみのかみにいのるうみのはらから)

海の神に祈る海のはらから

(われらたのしくまなび)

われらたのしくまなび

(われらたのしくはたらくうみのくに)

われらたのしくはたらく海の国

(おんなのせんせいがこんぶでできたがっきをならしています。)

女の先生が昆布で出来た楽器を鳴らしています。

(こうちょうせんせいは、さばむらでもらったにんぎょうというものをむらのしゅうにみせました。)

校長先生は、鯖村で貰った人形と云うものを村の衆にみせました。

(「にんげんというものはしっぽがねえんだな。おかしなものだね。)

「人間というものは尻尾がねえンだな。おかしなものだね。

(しっぽがないと、こっけいにみえるね。)

尻尾がないと、こっけいに見えるね。

(せんそうってなんだろうね。)

戦争って何だろうね。

(どうしてせんそうするんだろうね。)

どうして戦争するンだろうね。

(いっぺんでいいから、にんげんのくににあそびにいってみたいものだね。」)

いっぺんでいいから、人間の国に遊びに行ってみたいものだね。」

(ひらめのむらのしゅうがささやいています。)

ひらめの村の衆がささやいています。

(すると、ひらめのむらのろうそんちょうは、えへんとせきばらいをして、)

すると、ひらめの村の老村長は、えへんと咳ばらいをして、

(「よそのせかいをのぞきにいくのはじごくにいくようなものです。)

「よその世界をのぞきに行くのは地獄に行くようなものです。

(うみのせかいほどよいところはありません。)

海の世界ほどよいところはありません。

(このあいだも、はなしにきくと、みなみにいったふかむらのしゅうは、)

この間も、話にきくと、南に行った鱶村の衆は、

(にんげんのせんそうをみにいってずいぶんころされたそうです。)

人間の戦争を見に行って随分殺ろされたそうです。

(ちかぢかにかえってくるということです。)

近々に帰えって来るということです。

(ふかむらのしゅうでさえすめないものを、わたしたちがだいそれたことをかんがえてはいけません。)

鱶村の衆でさえ住めないものを、私達がだいそれた事を考えてはいけません。

(さあ、きょうのいのりをいたしましょう。」)

さア、今日の祈りをいたしましょう。」

(むらのしゅうも、がっこうのせいとも、わになって、くらいうみのそこでいのりのうたをうたいました。)

村の衆も、学校の生徒も、輪になって、暗い海の底で祈りの歌をうたいました。

(よるがふけてくるにつけ、こんやはつきあかりなのでしょうか、)

夜がふけてくるにつけ、今夜は月あかりなのでしょうか、

(うみのそこがぼおっとあかるくなりました。)

海の底がぼおっと明るくなりました。

(となりむらのたこさんの--からもおいのりのこえがしています。)

隣り村のたこさんの--からもお祈りの声がしています。

(さかなのくにではどこの--も、よくかみさまにおいのりをあげました。)

魚の国ではどこの--も、よく神様にお祈りをあげました。

(かみさまが、みんなをかわいがってくださるからです。)

神様が、みんなを可愛がって下さるからです。

(りゅうぐうのたいのおうさまも、おいのりがすきです。)

竜宮の鯛の王様も、お祈りが好きです。

(ひらめのがっこうからは、まいとし、りゅうぐうへりゅうがくせいをだしますけれど、しばらくして)

ひらめの学校からは、毎年、竜宮へ留学生を出しますけれど、しばらくして

(もどってくるひらめのがっこうのせいとは、みんなりっぱになってもどってきました。)

戻って来るひらめの学校の生徒は、みんな立派になって戻って来ました。

(そして、いつでもむらのためになることばかりしようときょうそうします。)

そして、いつでも村の為になることばかりしようと競走します。

(さかなのくににはおかねはないけれど、みんなよくはたらき、みんななかよしでした。)

魚の国にはお金はないけれど、みんなよく働き、みんな仲よしでした。

(こうちょうせんせいはいつも、めがねをかけたままがっこうのなかをゆらゆら)

校長先生はいつも、眼鏡をかけたまま学校のなかをゆらゆら

(およいでいらっしゃいます。)

泳いでいらっしゃいます。

(ほんとうに、そのめがねはひらめがっこうのこうちょうせんせいにふさわしいものでした。)

本当に、その眼鏡はひらめ学校の校長先生にふさわしいものでした。

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